報酬の減額が退職慰労金の算定に与える影響
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 記事番号 | RL40(報酬の減額が算定に与える影響。周辺記事・専門解説記事) |
| 表題 | 報酬の減額が退職慰労金の算定に与える影響 |
| スラッグ | hoshu-gengaku-santei-eikyou |
| 想定ディレクトリ | /archives/hoshu-gengaku-santei-eikyou/ |
| 主キーワード | 役員報酬 減額 退職慰労金 算定 |
| 検索意図 | 在任中に役員報酬を下げられた場合、退職慰労金の金額にどう影響するのかを知りたい |
| 送客先ランディングページ | 3-11 在任中の役員報酬が支払われずお困りではありませんか(/mibarai_yakuin_hoshu/。主) |
| 作成年月日 | 令和8年8月19日 |
| 版 | 第1版(v01) |
| メタディスクリプション | 在任中の役員報酬の減額が退職慰労金の算定に与える影響について、算定の基礎となる報酬の考え方、同意のない減額を争う視点、規程に定めがある場合の扱い、退任直前の減額への対応、資料の集め方を整理します。 |
報酬の減額が退職慰労金の算定に与える影響
在任中に役員報酬が引き下げられた場合、その影響は報酬そのものにとどまりません。退職慰労金の算定が退任時の月額報酬を基礎とする方式である場合、報酬の減額は、そのまま退職慰労金の減少につながります。特に、退任の直前に減額が行われた事案では、その影響は大きなものとなります。本記事では、支払を求める側の元役員及びその御遺族に向けて、この問題への対応を整理します。
1 結論 減額の効力と、算定の基礎の2段階で検討します
| 段階 | 問うこと | 結論の意味 |
|---|---|---|
| 第1段階 | 報酬の減額そのものが有効か | 無効であれば、本来の報酬額を基礎とすべきことになります |
| 第2段階 | 退職慰労金の算定の基礎をどの時点の報酬とするか | 規程の定めによります |
第1段階が中心の争点となります。報酬の減額に同意していなかったのであれば、減額自体の効力を争うことにより、退職慰労金の算定の基礎も本来の額に戻すという主張が成り立ちます。
2 報酬の減額の効力
取締役の報酬等は、定款にその額を定めていないときは、株主総会の決議によって定めなければならないとされています(会社法第361条第1項)。株主総会の決議によって具体的に定められた報酬額は、会社と取締役との間の契約の内容となり、取締役の同意がなければ会社が一方的にこれを減額することはできないと解されています。この点は判例法理によります。
したがって、減額の効力を検討するに当たっては、次の点を確認します。
| 確認事項 | 内容 |
|---|---|
| 従前の報酬額の決定 | 株主総会の決議により具体的に定められていたか |
| 減額の決定の手続 | 誰が、どの機関の決定により減額したか |
| 本人の同意 | 減額について同意していたか |
| 同意の形式 | 書面による同意があるか、黙示の同意が主張されていないか |
| 減額の時期 | 退任のどれくらい前に行われたか |
| 他の役員の扱い | 他の役員も同様に減額されているか |
3 同意の有無をめぐる争点
会社は、減額後の報酬を異議なく受領していたことをもって、黙示の同意があったと主張することが通例です。これに対しては、次の点を示すことになります。
| 反論の視点 | 内容 |
|---|---|
| 異議を述べた記録 | 減額に反対した書面、電子メール、発言の記録 |
| 受領の態様 | 異議を留保して受領していたことを示します |
| 減額の説明 | 一時的な措置であるとの説明を受けていたことを示します |
| 他の選択肢の不存在 | 受領を拒めば生活に支障が生じる状況であったことを示します |
| 会社の一方的な決定 | 協議を経ずに決定されたことを示します |
実務上、最も有力であるのは、異議を述べた記録です。減額の話が出た時点で、書面又は電子メールにより異議を明らかにしておくことが、後の主張を大きく左右します。
4 規程に定めがある場合
役員退職慰労金支給規程において、算定の基礎となる報酬がどのように定められているかを確認します。
| 定め方 | 影響 |
|---|---|
| 退任時の月額報酬による | 退任直前の減額がそのまま影響します |
| 各役位における最高の報酬額による | 減額の影響を受けにくい定め方です |
| 在任期間中の平均の報酬額による | 減額の影響が緩和されます |
| 役位ごとの定額による | 報酬額の変動の影響を受けません |
| 定めがない | 過去の支給実績から読み取ることになります |
「各役位における最高の報酬額」を基礎とする定めが置かれている場合には、退任直前の減額があっても、その役位における最も高い時期の報酬額を用いることになります。規程の文言を正確に確認することが重要です。
5 退任直前の減額への対応
退任が予定されている時期に報酬が減額された場合には、その目的が問題となり得ます。次の事情を整理します。
| 整理すべき事情 | 内容 |
|---|---|
| 減額の時期と退任の時期との間隔 | 退任の直前であるほど問題となりやすいものです |
| 減額の理由として示された内容 | 業績、職務の変更、健康上の理由等 |
| 職務の内容の実際の変化 | 職務が実際に軽減されたか |
| 他の役員の報酬の推移 | 自らのみが減額されていないか |
| 会社の業績の推移 | 業績を理由とする説明が実態に沿うか |
| 減額の決定の手続 | 機関の決定を経ているか |
職務の内容が実際には変わっていないにもかかわらず報酬のみが減額されている場合や、自らのみが減額の対象とされている場合には、減額の合理性を問題とすることができます。
6 報酬が未払である場合との違い
報酬が減額された場合と、決定された報酬が支払われていない場合とは、法律上の意味が異なります。
| 区分 | 報酬債権 | 退職慰労金への影響 |
|---|---|---|
| 減額された場合 | 減額が有効であれば、減額後の額のみが債権となります | 算定の基礎が下がります |
| 未払の場合 | 決定された額の債権が存続します | 決定された額を基礎とすべき旨を主張し得ます |
会社が「減額した」と述べているのか、「支払を猶予している」と述べているのかにより、その後の主張が変わります。会社の説明を書面により明確にさせることが有益です。
7 差額の請求との関係
減額が無効であると主張する場合、退職慰労金の算定の是正のみならず、減額された報酬の差額そのものについても請求することが考えられます。差額の請求権は、各月の報酬ごとに発生し、それぞれについて消滅時効が進行します(民法第166条第1項)。
差額を請求する場合には、退任前の分についても時効の管理が必要となります。古い月の分から順に時効期間が満了しますので、未払の一覧を作成して把握しておく必要があります。
8 案件で確認すべき事項
| 番号 | 確認事項 | 確認の方法 |
|---|---|---|
| 1 | 従前の報酬額及びその決定の手続 | 株主総会議事録、取締役会議事録 |
| 2 | 減額の時期、幅及び決定の手続 | 議事録、会社からの通知 |
| 3 | 減額について同意した書面の有無 | 同意書、承諾に関する書面 |
| 4 | 減額に異議を述べた記録の有無 | 書面、電子メール、面談の記録 |
| 5 | 減額の理由として示された内容 | 会社からの通知、面談の記録 |
| 6 | 職務の内容の実際の変化 | 組織図、業務の記録 |
| 7 | 他の役員の報酬の推移 | 計算書類、社内の記録 |
| 8 | 役員退職慰労金支給規程における算定の基礎 | 規程の写し |
| 9 | 減額から退任までの期間 | 登記事項証明書、振込の記録 |
| 10 | 差額の累計及び最も古い分からの経過期間 | 振込の記録 |
9 弁護士にご相談いただく意味
報酬の減額は、それ自体としては小さな金額の問題に見えることがあります。しかし、退職慰労金の算定の基礎となることにより、最終的な差は大きなものとなります。減額の話が出た段階で、異議を明らかにしておくかどうかが結果を分けます。
弁護士は、役員及び元役員の代理人として、減額の効力に関する主張の組み立て、異議の書面の作成及び送付、支給規程における算定の基礎の確認、差額の請求の検討、会社法上の各種の閲覧謄写の請求、消滅時効の管理及び完成猶予の措置、訴訟その他の裁判所の手続の遂行を行います。
よくあるご質問
質問1 減額を受け入れてしまいました。もう争えませんか。
受領していた事実は会社側の主張の材料となりますが、直ちに同意があったと決まるものではありません。減額の経緯及び当時の状況を整理したうえで検討することになります。
質問2 減額に同意する書面に署名しました。
明示の同意がある場合には、減額の効力を争うことは困難となります。もっとも、署名に至る経緯に問題がある場合には、別の検討の余地があります。
質問3 規程に「退任時の報酬による」とあります。
退任直前の減額がそのまま影響します。減額そのものの効力を争うことが中心となります。
質問4 減額された差額も請求できますか。
減額が無効であると認められる場合には、差額の請求が考えられます。各月ごとに時効が進行しますので、期間の管理が必要です。
質問5 今後、減額を打診されそうです。どうすればよいですか。
打診を受けた段階で、書面又は電子メールにより異議を明らかにしておくことが有益です。対応の方法については事前に御相談ください。
本記事における非開示事項について
異議を明らかにする書面の組み立て方及び時期、差額の請求と退職慰労金の請求の順序、会社の反論に応じた主張の組み替え方は、株主構成、機関設計、財務状況、従前の経緯等により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開しておりません。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、役員退職慰労金の未払に関するご相談をお受けしております。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、この分野に精通していることから当該分野を取り扱っております。
- 電話番号 03-6435-8418
- 受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)
- ご相談は事前予約制です
ご相談に際しましては、登記事項証明書、株主総会議事録及び取締役会議事録の写し、役員退職慰労金支給規程の写し、源泉徴収票及び振込の記録、会社との往復の書面をお持ちください。お手元になくてもご相談をお受けしております。課税関係については税理士にご確認ください。
弁護士費用につきましては、弁護士費用一覧のページをご覧ください。
本記事の根拠条文
会社法 第318条第4項(株主総会議事録の閲覧謄写)、第330条(株式会社と役員との関係)、第361条第1項(取締役の報酬等)、第371条第2項・第3項(取締役会議事録の閲覧謄写)、第387条第1項(監査役の報酬等)、第442条第3項(計算書類等の閲覧等)
民法 第147条第1項(裁判上の請求等による時効の完成猶予)、第150条第1項(催告による時効の完成猶予)、第151条(協議を行う旨の合意による時効の完成猶予)、第166条第1項(債権等の消滅時効)、第648条第1項(受任者の報酬)
判例法理による部分 役員退職慰労金が会社法第361条第1項の報酬等に含まれること、及び株主総会の決議によって具体的に定められた報酬額を役員の同意なく一方的に減額することができないことについては、判例法理によります。同意の有無は、事実関係に照らし、個別の事案ごとに判断されます。
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