買主が株主総会の決議を行わない場合の対応
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 記事番号 | RL44(買主が決議を行わない場合。周辺記事・専門解説記事) |
| 表題 | 買主が株主総会の決議を行わない場合の対応 |
| スラッグ | kaishu-soukai-ketsugi-fusakui |
| 想定ディレクトリ | /archives/kaishu-soukai-ketsugi-fusakui/ |
| 主キーワード | M&A 退職慰労金 決議されない 買主 |
| 検索意図 | 株式を譲渡した後、買主が退職慰労金の株主総会決議を行わない場合の対応を知りたい |
| 送客先ランディングページ | 3-12 M&Aの際に約束された役員退職慰労金が支払われずお困りではありませんか(/manda_ji_taishokukin/。主) |
| 作成年月日 | 令和8年8月19日 |
| 版 | 第1版(v01) |
| メタディスクリプション | 株式譲渡の後に買主が役員退職慰労金の株主総会決議を行わない場合の対応について、契約上の義務の確認、決議を求める手段、第三者のためにする契約としての構成、買主に対する損害賠償の検討、資料の集め方を整理します。 |
買主が株主総会の決議を行わない場合の対応
会社の株式を譲渡するに際して、退任する役員に対して退職慰労金を支給することが合意されていたにもかかわらず、譲渡の後、買主が株主総会の決議を行わないまま時が過ぎるという事案があります。株式を手放した後は、自ら株主として総会を招集することもできませんので、対応の方法が限られます。本記事では、支払を求める側の元役員及びその御遺族に向けて、この場面での対応を整理します。
1 結論 「会社に対する請求」と「買主に対する請求」を分けて考えます
| 相手方 | 請求の内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 会社 | 退職慰労金の支払を求めます | 株主総会の決議、支給規程、支給の慣行 |
| 買主 | 決議を行わせる義務の履行又は損害賠償を求めます | 株式譲渡契約その他の合意 |
会社に対する請求は、決議がされていないという壁に当たります。他方、買主に対する請求は、契約上の義務の不履行という構成によることができます。両方を検討し、資料の状況に応じて重心を定めることになります。
2 契約上の義務の確認
まず、株式譲渡契約その他の合意の文言を確認します。次のような条項が置かれていることがあります。
| 条項の類型 | 内容 | 請求の構成 |
|---|---|---|
| 決議義務条項 | 買主は、譲渡の実行後、速やかに退職慰労金の決議を行わせる旨 | 買主に対する債務の履行を求めます |
| 支給額の定め | 退職慰労金の額を具体的に定める旨 | 金額に争いが生じにくくなります |
| 価格の調整 | 退職慰労金の支給を前提として譲渡価格が定められている旨 | 支給がされない場合の是正を求めます |
| 誓約条項 | 買主が一定の行為を行うことを約する旨 | 不履行として損害賠償を求めます |
| 条項がない | 口頭の了解にとどまる | 交渉の経緯及び資料から合意の存在を立証します |
実務上、譲渡価格の算定において退職慰労金の支給が織り込まれていることが少なくありません。この場合、支給がされないことは、価格の前提が崩れることを意味しますので、その点を指摘することが有効です。
3 第三者のためにする契約としての構成
契約により当事者の一方が第三者に対してある給付をすることを約したときは、その第三者は、債務者に対して直接にその給付を請求する権利を有するとされています(民法第537条第1項)。この場合、第三者の権利は、その第三者が債務者に対して契約の利益を享受する意思を表示した時に発生するとされています(同条第3項)。
株式譲渡契約において、譲渡人以外の退任役員に対する退職慰労金の支給が定められている場合には、当該役員が第三者として直接に請求し得るという構成を検討する余地があります。この場合には、契約の利益を享受する意思を表示することが必要となりますので、書面によりその旨を明らかにしておくことになります。
4 会社に対する請求
会社に対しては、次の順序で求めます。
| 段階 | 行うこと |
|---|---|
| 第1 | 書面により、株主総会の決議及び支払を求めます |
| 第2 | 株式譲渡契約に定めがある場合には、その写しを示して指摘します |
| 第3 | 支給規程がある場合には、規程に基づく請求を併せて行います |
| 第4 | 過去の支給実績がある場合には、慣行を根拠とする請求を併せて行います |
| 第5 | 応答がない場合には訴訟の提起を検討します |
会社は「決議がないので支払えない」と応じることが想定されます。これに対しては、支給規程又は支給の慣行を根拠として具体的請求権が生じているという主張、及び決議を行わないこと自体が契約に反するという主張を組み立てることになります。
5 買主に対する請求
買主が決議を行わせる義務を負っている場合、その不履行に対しては、次の手段が考えられます。
| 手段 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 履行の請求 | 決議を行わせるよう求めます | 契約上の義務によります |
| 履行の強制 | 裁判所に履行の強制を請求します | 民法第414条第1項 |
| 損害賠償の請求 | 不履行により生じた損害の賠償を求めます | 民法第415条第1項 |
| 契約の解除 | 相当の期間を定めて催告し、解除を検討します | 民法第541条 |
| 価格の是正 | 譲渡価格の前提が崩れたことを理由に調整を求めます | 契約の定めによります |
実務上、最も現実的であるのは損害賠償の請求です。決議が行われないことにより退職慰労金を受領できなかったのであれば、その額が損害として構成され得ます。もっとも、損害の範囲及び額については、契約の定め及び事実関係により検討を要します。
6 譲渡人が退任役員である場合とそうでない場合
| 場合 | 特徴 | 留意点 |
|---|---|---|
| 譲渡人自身が退任役員である | 契約の当事者として直接に請求できます | 契約上の権利を主張しやすい立場です |
| 譲渡人の親族が退任役員である | 契約の当事者ではありません | 第三者のためにする契約の構成を検討します |
| 譲渡人が複数である | 各譲渡人の立場が異なることがあります | 契約における各人の地位を確認します |
親族が役員として在任していたものの、株式は他の者が保有していたという事案では、当該親族は契約の当事者ではありません。この場合、第三者のためにする契約の構成を検討するとともに、株式の譲渡人と連携して買主に対する請求を行うことが考えられます。
7 資料の入手
| 資料 | 内容 | 入手の方法 |
|---|---|---|
| 株式譲渡契約書 | 決議義務条項、支給額の定め、誓約条項 | 手元の保管、相手方への求め |
| 基本合意書及び意向表明書 | 退職慰労金の取扱いに関する記載 | 手元の保管 |
| 価格の算定に関する資料 | 退職慰労金が織り込まれていたか | 仲介会社からの資料、往復の書面 |
| 交渉の経緯の記録 | 合意の内容及び前提 | 電子メール、議事の記録 |
| 株主総会議事録 | 譲渡後の総会の開催状況及び議題 | 会社法第318条第4項 |
| 計算書類等 | 退職慰労金の計上の有無 | 会社法第442条第3項 |
仲介会社が関与している場合には、仲介会社が保有する資料に交渉の経緯が記録されていることがあります。開示を求めることを検討する余地があります。
8 消滅時効
債権は、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき、又は権利を行使することができる時から10年間行使しないときに、時効によって消滅します(民法第166条第1項)。
譲渡の直後は買主との関係を維持したいという事情から請求を控えることが多く、その間に年数が経過する事案が見られます。譲渡代金の受領が完了している場合には、買主との関係を維持する必要性は低下しますので、早期に請求に移ることが可能です。
9 案件で確認すべき事項
| 番号 | 確認事項 | 確認の方法 |
|---|---|---|
| 1 | 株式譲渡契約における退職慰労金に関する条項 | 契約書 |
| 2 | 支給額が具体的に定められているか | 契約書 |
| 3 | 決議を行わせる義務の定めの有無 | 契約書 |
| 4 | 譲渡価格に退職慰労金が織り込まれているか | 価格の算定に関する資料 |
| 5 | 退任役員が契約の当事者であるか | 契約書 |
| 6 | 譲渡の実行の年月日 | 契約書、登記事項証明書 |
| 7 | 譲渡後の株主総会の開催状況及び議題 | 株主総会議事録 |
| 8 | 買主に対して請求を行った記録 | 書面、電子メール |
| 9 | 会社の役員退職慰労金支給規程の有無 | 規程の写し |
| 10 | 譲渡の実行からの経過期間 | 契約書、登記事項証明書 |
10 弁護士にご相談いただく意味
この類型は、会社法上の問題と契約上の問題とが重なっています。会社に対する請求のみを考えていると、決議がないという壁で行き詰まります。買主に対する契約上の請求という道筋を併せて検討することにより、解決の見込みが開けることがあります。
弁護士は、元役員の代理人として、株式譲渡契約の精査、会社に対する請求及び買主に対する請求の組み立て、第三者のためにする契約の構成の検討、会社法上の各種の閲覧謄写の請求、消滅時効の管理及び完成猶予の措置、訴訟その他の裁判所の手続の遂行を行います。当事務所はM&Aに関する紛争を継続して取り扱っており、契約の文言の読み方及び交渉の経緯の位置付けについて知見を有しております。
よくあるご質問
質問1 株式を全部譲渡しました。株主総会の招集を求められますか。
株主でない者は会社法第297条の招集の請求を用いることができません。買主に対する契約上の請求を中心に検討することになります。
質問2 契約書に退職慰労金のことが書かれていません。
交渉の経緯の記録、価格の算定に関する資料、仲介会社が保有する資料などから、合意の存在を立証することを検討します。
質問3 買主が「会社が決めることだ」と言っています。
買主が株主として決議を行わせる立場にあることを指摘します。契約に決議義務の定めがある場合には、その不履行として構成します。
質問4 私は株主ではありませんが役員でした。請求できますか。
第三者のためにする契約の構成を検討する余地があります。契約の利益を享受する意思を表示することが必要となりますので、書面により明らかにしておくことをお勧めいたします。
質問5 譲渡から数年が経っています。まだ間に合いますか。
時効の起算点は請求の構成により異なります。年数が経過している場合であっても請求できる余地がありますので、経緯を整理したうえで御相談ください。
本記事における非開示事項について
会社に対する請求と買主に対する請求の順序及び組み合わせ、交渉の経緯の位置付け方、請求の時期の判断は、株主構成、機関設計、財務状況、従前の経緯等により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開しておりません。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、役員退職慰労金の未払に関するご相談をお受けしております。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、この分野に精通していることから当該分野を取り扱っております。
- 電話番号 03-6435-8418
- 受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)
- ご相談は事前予約制です
ご相談に際しましては、株式譲渡契約書の写し、基本合意書等の写し、価格の算定に関する資料、登記事項証明書、役員退職慰労金支給規程の写し、往復の書面をお持ちください。お手元になくてもご相談をお受けしております。課税関係については税理士にご確認ください。
弁護士費用につきましては、弁護士費用一覧のページをご覧ください。
本記事の根拠条文
会社法 第296条第2項(臨時株主総会の招集)、第297条第1項(株主による株主総会の招集の請求)、第318条第4項(株主総会議事録の閲覧謄写)、第361条第1項(取締役の報酬等)、第429条第1項(役員等の第三者に対する損害賠償責任)、第442条第3項(計算書類等の閲覧等)
民法 第147条第1項(裁判上の請求等による時効の完成猶予)、第150条第1項(催告による時効の完成猶予)、第151条(協議を行う旨の合意による時効の完成猶予)、第166条第1項(債権等の消滅時効)、第414条第1項(履行の強制)、第415条第1項(債務不履行による損害賠償)、第537条第1項・第3項(第三者のためにする契約)、第541条(催告による解除)
判例法理による部分 役員退職慰労金が会社法第361条第1項の報酬等に含まれることについては、判例法理によります。契約上の義務の内容及び損害の範囲は、契約書の文言及び交渉の経緯に照らし、個別の事案ごとに判断されます。
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