過去の支給実績との均衡を主張する方法
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 記事番号 | RL36(支給実績との均衡の主張。周辺記事・専門解説記事) |
| 表題 | 過去の支給実績との均衡を主張する方法 |
| スラッグ | kako-jisseki-kinkou-shuchou |
| 想定ディレクトリ | /archives/kako-jisseki-kinkou-shuchou/ |
| 主キーワード | 役員退職慰労金 過去の実績 均衡 |
| 検索意図 | 過去に他の役員へ支給された金額と比べて自分の金額が低い場合に、均衡をどう主張すればよいかを知りたい |
| 送客先ランディングページ | 3-10 提示された役員退職慰労金の金額が低くお困りではありませんか(/kouseki_bairitsu_teigaku/。主) |
| 作成年月日 | 令和8年8月19日 |
| 版 | 第1版(v01) |
| メタディスクリプション | 過去の支給実績との均衡を主張する方法について、比較に用いる指標の選び方、実績を把握する手段、比較表の作り方、会社側の反論とその検討、金額の主張への結び付け方を整理します。 |
過去の支給実績との均衡を主張する方法
会社から提示された役員退職慰労金の額が低いと考える場合、最も具体的で説得力のある主張は、過去に他の役員へ支給された額との比較です。「相場より低い」という漠然とした主張と異なり、同じ会社の中での取扱いの差を示すものですので、会社は説明を避けることが困難になります。本記事では、支払を求める側の元役員及びその御遺族に向けて、均衡の主張の組み立て方を整理します。
1 結論 同じ会社の中での取扱いの差を示します
役員退職慰労金の額は、会社ごとの支給規程又は支給の実績により定まります。したがって、他社の水準を持ち出しても、直接の根拠とはなりません。有効であるのは、同一の会社の中で、同様の立場にあった役員がどのように取り扱われたかを示すことです。
| 主張の型 | 内容 | 説得力 |
|---|---|---|
| 他社との比較 | 一般的な水準より低いと述べます | 会社ごとに定めが異なるため、直接の根拠とはなりにくいものです |
| 規程との比較 | 規程の定めに当てはめた額より低いと述べます | 規程がある場合には最も直接的です |
| 過去の実績との比較 | 同様の立場の役員より低いと述べます | 規程がない場合にも用いることができます |
2 比較に用いる指標
単に支給額を並べても、在任期間や役位が異なれば意味がありません。次の指標により調整したうえで比較します。
| 指標 | 算出の方法 | 意味 |
|---|---|---|
| 支給額と退任時の月額報酬との比 | 支給額を退任時の月額報酬で除します | 報酬の水準の差を調整できます |
| 在任1年当たりの支給額 | 支給額を在任年数で除します | 在任期間の差を調整できます |
| 報酬月額及び在任年数で調整した比 | 支給額を月額報酬と在任年数の積で除します | 実質的な倍率を把握できます |
| 役位ごとの区分 | 代表取締役、専務取締役、取締役等に区分します | 役位による差を明らかにできます |
最も有効であるのは、3番目の指標です。これにより、各役員について実質的にどの程度の倍率が適用されたかを算出することができます。自らに提示された額から算出した値が、過去の役員より明確に低い場合には、その差が主張の中核となります。
3 実績を把握する手段
| 資料 | 把握できること | 根拠 |
|---|---|---|
| 登記事項証明書 | 過去に退任した役員の氏名、役位、在任期間 | 商業登記の制度によります |
| 株主総会議事録 | 支給の決議及び金額又は算定の方法 | 会社法第318条第4項 |
| 計算書類等 | 年度ごとの役員退職慰労金の計上額 | 会社法第442条第3項 |
| 会計帳簿等 | 個別の支給の記録 | 会社法第433条第1項 |
| 勘定科目内訳明細書 | 支払の相手方及び金額 | 会社が保有する資料です |
| 関係者の記憶 | 支給の有無及び概略の金額 | 接触の方法に配慮を要します |
登記事項証明書は誰でも取得することができ、過去に退任した役員の氏名及び在任期間を確認することができます。まずこれを取得し、比較の対象となる役員を特定することから始めます。
4 比較表の作り方
収集した情報は、次の形式の表に整理します。
| 役員 | 退任時の役位 | 在任年数 | 退任時の月額報酬 | 支給額 | 調整後の比 |
|---|---|---|---|---|---|
| 比較対象の役員ごとに記載します | 登記事項証明書によります | 登記事項証明書によります | 判明する範囲で記載します | 計算書類等によります | 支給額を月額報酬と在任年数の積で除します |
この表を示すことにより、主張が具体化されます。会社としては、差が生じている理由を説明せざるを得なくなります。説明ができない場合、又は説明が合理性を欠く場合には、均衡を欠く取扱いであることが明らかとなります。
5 会社側から出される反論
| 会社側の反論 | 検討の視点 |
|---|---|
| 当時と現在では会社の業績が異なる | 業績の推移と支給額との対応関係を計算書類により確認します |
| 過去の支給は創業家に対する特別の扱いであった | 創業家以外の役員への支給の有無を確認します |
| 支給水準を見直した | 見直しの決定がいつ、どの機関により行われたかを問います |
| 比較対象の役員は功績が大きかった | 功績の内容を具体的に示すよう求めます |
| 比較対象の役員は使用人分を含む | 内訳の開示を求めます |
| 過去の支給が過大であった | 過大であったとする根拠及び是正の措置の有無を問います |
「支給水準を見直した」という反論に対しては、見直しがいつ行われたかが重要となります。自らの退任が具体的に予定された時期に見直しが行われている場合には、その経緯自体が問題となり得ます。
6 規程がある場合との組み合わせ
支給規程がある場合には、規程の定めに当てはめた額を第一の主張とし、過去の実績との均衡を補強の主張として位置付けるのが通例です。
| 状況 | 主張の組み立て |
|---|---|
| 規程があり、提示額が規程より低い | 規程違反を主たる主張とし、実績との均衡を補強とします |
| 規程があり、提示額が規程どおり | 功労加算の適用及び実績との均衡を主張します |
| 規程がない | 実績との均衡を主たる主張とします |
| 規程が廃止された | 廃止の効力を争うとともに、実績との均衡を主張します |
7 比較対象が乏しい場合
設立から日が浅い会社や、役員の退任の例がほとんどない会社では、比較の対象が乏しいことがあります。この場合には、次の方法を検討します。
| 方法 | 内容 |
|---|---|
| 従業員の退職金との比較 | 従業員の退職金規程による水準と対比します |
| 在任中の報酬との比較 | 在任中の報酬の水準から相当な額を主張します |
| 関連会社における実績 | 同一の経営者が支配する関連会社での取扱いを参照します |
| 会社の説明の変遷 | 従前に示されていた金額との差を指摘します |
従前に会社から口頭で概算の金額を示されていた場合には、その後に提示された額との差を指摘することも考えられます。当時のやり取りの記録が残っていないかを確認してください。
8 案件で確認すべき事項
| 番号 | 確認事項 | 確認の方法 |
|---|---|---|
| 1 | 過去に退任した役員の氏名及び退任の年月日 | 登記事項証明書 |
| 2 | 各役員の在任年数及び退任時の役位 | 登記事項証明書 |
| 3 | 各役員に対する支給の有無及び金額 | 計算書類、株主総会議事録、社内の記録 |
| 4 | 各役員の退任時の月額報酬 | 会社の記録、関係者の記憶 |
| 5 | 支給の議案の文言の同一性 | 株主総会議事録 |
| 6 | 会社の業績の推移と支給の対応関係 | 計算書類 |
| 7 | 支給水準の見直しの有無及び時期 | 株主総会議事録、取締役会議事録 |
| 8 | 役員退職慰労金支給規程の有無及び内容 | 規程の写し |
| 9 | 従前に会社から示された概算の金額 | 電子メール、面談の記録 |
| 10 | 退任からの経過期間 | 登記事項証明書 |
9 弁護士にご相談いただく意味
均衡の主張は、資料の収集と整理に労力を要します。過去の役員の在任期間は登記から確認できますが、支給額は会社の内部の資料によらなければ分かりません。会社法上の閲覧謄写の請求、訴訟における文書提出命令の申立てなど、法律上の手続を用いることが必要となる場面が多くあります。
弁護士は、元役員の代理人として、比較対象の特定、会社に対する資料の開示の求め、会社法上の各種の閲覧謄写の請求、訴訟における文書提出命令の申立て、比較表の作成及び提示、消滅時効の管理、訴訟その他の裁判所の手続の遂行を行います。
よくあるご質問
質問1 他社の相場と比べて低いと主張できますか。
会社ごとに定めが異なりますので、他社の水準は直接の根拠とはなりにくいものです。同一の会社における規程及び実績との比較が中心となります。
質問2 過去の役員の支給額を知る方法はありますか。
計算書類等の閲覧謄写の請求(会社法第442条第3項)、株主総会議事録の閲覧謄写の請求(会社法第318条第4項)、株主としての会計帳簿等の閲覧謄写の請求(会社法第433条第1項)などが考えられます。
質問3 当時の経理担当者に聞いてもよいですか。
相手方の現在の立場によっては、接触が事案に影響することがあります。代理人を通じて行うことが望ましい場合が多いといえます。
質問4 比較できる役員がいません。
従業員の退職金の水準との比較、在任中の報酬との比較、関連会社における取扱いの参照などを検討することになります。
質問5 会社が「過去の支給は過大であった」と言っています。
過大であったとする根拠及び是正の措置が採られたかを問うことになります。是正の措置が採られていないのであれば、説明の合理性が問題となります。
本記事における非開示事項について
比較対象の選定及び比較表の提示の時期、資料の開示を求める手順、会社の反論に応じた主張の組み替え方は、株主構成、機関設計、財務状況、従前の経緯等により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開しておりません。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、役員退職慰労金の未払に関するご相談をお受けしております。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、この分野に精通していることから当該分野を取り扱っております。
- 電話番号 03-6435-8418
- 受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)
- ご相談は事前予約制です
ご相談に際しましては、登記事項証明書、役員退職慰労金支給規程の写し、計算書類の写し、株主総会議事録の写し、報酬額が分かる資料、会社との往復の書面をお持ちください。お手元になくてもご相談をお受けしております。課税関係については税理士にご確認ください。
弁護士費用につきましては、弁護士費用一覧のページをご覧ください。
本記事の根拠条文
会社法 第318条第4項(株主総会議事録の閲覧謄写)、第361条第1項(取締役の報酬等)、第371条第2項・第3項(取締役会議事録の閲覧謄写)、第433条第1項(会計帳簿等の閲覧謄写の請求)、第442条第3項(計算書類等の閲覧等)
民法 第147条第1項(裁判上の請求等による時効の完成猶予)、第150条第1項(催告による時効の完成猶予)、第166条第1項(債権等の消滅時効)
民事訴訟法 第219条から第223条まで(書証及び文書提出命令)
弁護士法 第23条の2(報告の請求)
判例法理による部分 役員退職慰労金が会社法第361条第1項の報酬等に含まれること、及び支給基準に従うことを前提とする一任決議の効力については、判例法理によります。均衡を欠く取扱いであるかは、実績の内容及び会社の説明に照らし、個別の事案ごとに判断されます。
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