役員報酬が支払われないまま在任を続けている場合

項目 内容
記事番号 RL39(在任中の報酬未払。周辺記事・専門解説記事)
表題 役員報酬が支払われないまま在任を続けている場合
スラッグ hoshu-mibarai-zainin-keizoku
想定ディレクトリ /archives/hoshu-mibarai-zainin-keizoku/
主キーワード 役員報酬 未払 在任中
検索意図 役員報酬が支払われないまま在任を続けている場合に、どのように請求すればよいかを知りたい
送客先ランディングページ 3-11 在任中の役員報酬が支払われずお困りではありませんか(/mibarai_yakuin_hoshu/。主)
作成年月日 令和8年8月19日
第1版(v01)
メタディスクリプション 役員報酬が支払われないまま在任を続けている場合について、請求権の発生の根拠、未払を放置することの危険、在任中に採り得る手段、退職慰労金の算定への影響、消滅時効の管理、資料の集め方を整理します。

役員報酬が支払われないまま在任を続けている場合

会社の資金繰りが苦しい時期に、役員が自らの報酬の支払を後回しにすることは珍しくありません。しかし、それが一時的なもので終わらず、何年も未払のまま在任を続けているという事案が多く見られます。この状態は、報酬そのものの回収の問題にとどまらず、将来の退職慰労金の算定にも影響します。本記事では、支払を求める側の役員及び元役員に向けて、この状態で何を行うべきかを整理します。

1 結論 「支払を猶予しているだけである」ことを記録に残します

報酬が支払われない状態が続くと、後に会社から「報酬を放棄していた」「そもそも報酬の定めがなかった」と主張されるおそれがあります。したがって、在任中に行うべき最も重要なことは、報酬債権が存在し、支払を猶予しているにすぎないことを客観的な記録として残すことです。

行うこと 目的
報酬額を定めた決議の確認 請求権の発生の根拠を確定します
未払額の把握及び記録 金額を明確にします
会社に対する書面による確認 放棄していないことを明らかにします
計算書類における計上の確認 会社が債務として認識しているかを確認します
時効の管理 古い部分から順に時効が進行します

2 報酬請求権の発生の根拠

取締役の報酬等は、定款にその額を定めていないときは、株主総会の決議によって定めなければならないとされています(会社法第361条第1項)。監査役の報酬等についても、定款にその額を定めていないときは株主総会の決議によって定めるものとされています(会社法第387条第1項)。

したがって、報酬の請求権が発生しているというためには、定款の定め又は株主総会の決議が必要となります。中小の会社では、総額のみを決議し、各取締役への配分を取締役会に委ねている例が多く見られます。

確認事項 資料
定款に報酬の定めがあるか 定款
株主総会の決議の有無及び総額 株主総会議事録
各役員への配分の決定 取締役会議事録、代表取締役の決定に関する書面
実際に支給されていた額 源泉徴収票、振込の記録
支給が停止された時期 振込の記録

決議の書面が存在しない会社でも、実際に一定額の報酬が継続して支払われていた事実があれば、その額をもって定めがあったと主張し得る余地があります。源泉徴収票及び振込の記録が重要な資料となります。

3 未払を放置することの危険

危険 内容
消滅時効 各月の報酬ごとに時効が進行し、古い部分から順に失われます
放棄の主張 長期間請求しなかったことをもって放棄したと主張されます
減額の合意の主張 減額に黙示に同意したと主張されます
退職慰労金への影響 退任時の月額報酬が低いものとして算定されます
資力の悪化 時間の経過とともに会社の資力が低下します
証拠の散逸 資料が失われ、立証が困難になります

特に注意を要するのが、退職慰労金への影響です。退職慰労金の算定は、退任時の月額報酬を基礎とすることが多いところ、報酬が支払われていない期間が続くと、会社から「退任時の報酬は0円である」といった主張がされるおそれがあります。決議された報酬額が存在することを明らかにしておく必要があります。

4 在任中に採り得る手段

手段 内容 留意点
書面による確認 未払額を明示し、放棄していない旨を書面で会社に伝えます 控えを保管します
債務の承認を得る 会社から未払額を認める書面を得ます 時効が更新されます(民法第152条第1項)
支払計画の合意 支払の時期及び方法を定める合意を結びます 期限の利益の喪失の定めを置きます
計算書類への計上の確認 未払役員報酬として計上されているかを確認します 計上は会社の認識を示します
取締役会での発言 取締役会において未払の状況を指摘します 議事録への記載を求めます
訴訟の提起 会社を被告として支払を求めます 在任中の提訴は関係を悪化させます

在任中に訴訟を提起することは、会社との関係を決定的に悪化させます。したがって、実務上は、書面による確認及び債務の承認を得ることを中心に進め、退任の時期を見据えて対応を検討することが多いといえます。

5 計算書類における計上の確認

未払の報酬が会社の計算書類において未払費用又は未払金として計上されている場合、会社が債務として認識していることを示す有力な資料となります。株主又は債権者として、計算書類等の閲覧謄写を請求することができます(会社法第442条第3項)。

逆に、計上がされていない場合には、会社が債務として認識していない可能性があります。この場合には、書面により未払額を明示して確認を求めることが一層重要となります。

6 消滅時効の管理

債権は、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき、又は権利を行使することができる時から10年間行使しないときに、時効によって消滅します(民法第166条第1項)。

報酬は、通常、月ごとに支払期日が定められています。したがって、各月の報酬ごとに時効が進行し、古い月の分から順に時効期間が満了していきます。

手段 効果 根拠
裁判上の請求 その事由が終了するまでの間、時効の完成が猶予されます 民法第147条第1項
催告 催告の時から6か月を経過するまでの間、時効の完成が猶予されます 民法第150条第1項
協議を行う旨の書面による合意 一定の期間、時効の完成が猶予されます 民法第151条
会社による承認 時効が更新され、新たに進行を始めます 民法第152条第1項

在任中は訴訟を避けたいという事情がある場合、会社から未払額を認める書面を定期的に得ることにより、時効を更新していく方法が考えられます。また、一部の入金を受けることも、債務の承認として時効の更新の効果を生じ得ます。

7 使用人を兼ねる場合

使用人としての地位を併有している場合、未払の対象が役員報酬か使用人給与かにより、適用される規律が異なります。使用人としての賃金については、労働基準法上の規律が及びます。賃金の請求権の消滅時効については、労働基準法第115条に定めが置かれています。

報酬と給与が区分されていない場合には、まずその区分を確認することが必要となります。源泉徴収票及び給与の明細書における記載を確認します。

8 案件で確認すべき事項

番号 確認事項 確認の方法
1 定款における報酬の定めの有無 定款
2 報酬の総額を定めた株主総会の決議 株主総会議事録
3 各役員への配分の決定 取締役会議事録
4 実際に支給されていた額及び支給の停止の時期 源泉徴収票、振込の記録
5 未払となっている期間及び累計の額 振込の記録、報酬額の資料
6 計算書類における未払の計上の有無 計算書類
7 他の役員の報酬の支給の状況 計算書類、社内の記録
8 会社が未払を認める発言又は書面の有無 電子メール、書面
9 使用人としての地位の併有の有無 辞令、給与の明細書
10 最も古い未払からの経過期間 振込の記録

9 弁護士にご相談いただく意味

在任中の報酬の未払は、会社との関係を維持しながら権利を保全するという難しい対応が求められる場面です。訴訟を提起すれば関係が壊れ、何もしなければ時効が進行します。その間で、どの手段をどの時期に用いるかの判断が必要となります。

弁護士は、役員及び元役員の代理人として、報酬請求権の発生の根拠の確認、未払額の確定、会社に対する書面による確認及び債務の承認の取得、支払計画の交渉及び合意書の作成、会社法上の各種の閲覧謄写の請求、消滅時効の管理及び完成猶予の措置、訴訟その他の裁判所の手続の遂行を行います。

よくあるご質問

質問1 会社が苦しいので受け取らずにいました。放棄したことになりますか。

受け取らなかったこと自体で当然に放棄したことになるものではありません。もっとも、長期間請求しなかった事情は会社側の主張の材料となり得ますので、書面により放棄していない旨を明らかにしておくことが有益です。

質問2 在任中に請求すると立場が悪くなりませんか。

訴訟の提起は関係を悪化させますが、書面による確認や、未払額を認める書面を得ることは、比較的穏当な方法です。進め方については個別に御相談ください。

質問3 どの時点の分から時効になりますか。

各月の報酬ごとに支払期日から進行しますので、古い月の分から順に時効期間が満了していきます。未払の一覧を作成して管理する必要があります。

質問4 退職慰労金にも影響しますか。

退任時の月額報酬を基礎とする算定では、報酬が支払われていないことを理由に低く算定されるおそれがあります。決議された報酬額が存在することを明らかにしておく必要があります。

質問5 決議の書面がありません。

実際に一定額が継続して支払われていた事実から、定めがあったと主張し得る余地があります。源泉徴収票及び振込の記録を御確認ください。

本記事における非開示事項について

在任中に採る手段の選択及び時期の判断、会社との関係を維持しながら権利を保全する進め方、退任の時期を見据えた準備は、株主構成、機関設計、財務状況、従前の経緯等により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開しておりません。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、役員退職慰労金の未払に関するご相談をお受けしております。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、この分野に精通していることから当該分野を取り扱っております。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)
  • ご相談は事前予約制です

ご相談に際しましては、登記事項証明書、定款、株主総会議事録の写し、源泉徴収票及び振込の記録、計算書類の写し、会社との往復の書面をお持ちください。お手元になくてもご相談をお受けしております。課税関係については税理士にご確認ください。

弁護士費用につきましては、弁護士費用一覧のページをご覧ください。

本記事の根拠条文

会社法 第318条第4項(株主総会議事録の閲覧謄写)、第330条(株式会社と役員との関係)、第361条第1項(取締役の報酬等)、第371条第2項・第3項(取締役会議事録の閲覧謄写)、第387条第1項(監査役の報酬等)、第442条第3項(計算書類等の閲覧等)

民法 第147条第1項(裁判上の請求等による時効の完成猶予)、第150条第1項(催告による時効の完成猶予)、第151条(協議を行う旨の合意による時効の完成猶予)、第152条第1項(承認による時効の更新)、第166条第1項(債権等の消滅時効)、第648条第1項(受任者の報酬)

労働基準法 第115条(時効)

判例法理による部分 役員退職慰労金が会社法第361条第1項の報酬等に含まれること、及び株主総会の決議によって具体的に定められた報酬額を役員の同意なく一方的に減額することができないことについては、判例法理によります。報酬の放棄の有無は、事実関係に照らし、個別の事案ごとに判断されます。

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