未払の役員報酬の請求を弁護士に依頼するとき 一方的な減額と不払に対する反論の組み立て

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未払の役員報酬の請求を弁護士へ依頼する場面のメインのページです。本ページは、退任した役員の側に向けて、一方的な減額と不払への反論の組み立てと費用の均衡をご説明します。役員退職慰労金の依頼は別のページをご参照ください。
▶ 非上場株式の売却を弁護士に依頼するとき 少数株主が任せられる手続と、依頼の前に確認する事項
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取締役又は監査役として在任しておられる方、あるいは在任しておられた方から、役員報酬の振込が止まった、社長の一存で月額を半分にされた、というご相談をお受けしています。本記事は、そのような場面で弁護士に依頼するかどうかを迷っておられる役員及び元役員の方に向けたものです。制度の解説ではなく、依頼の時期、任せられる範囲、ご自身で集めていただく資料、そして回収の見込みと費用の均衡に重点を置きます。
役員報酬の不払は、従業員の賃金の不払と扱いが異なります。労働基準監督署が動く場面ではなく、原則として会社との委任の関係を前提に、民事の請求として組み立てなければなりません。そのため、「おかしい」と感じながらも、どこに持ち込めばよいのかが分からないまま数か月が過ぎてしまう方が非常に多いのが実情です。
結論を先に申し上げます。役員報酬は毎月発生する債権ですので、時効も1か月ごとに順次完成してまいります。そして、減額後の金額を黙って受け取り続けた期間が長いほど、会社から「同意していたはずだ」と主張される余地が広がります。動かないことによる不利益が、時間に比例して積み上がる類型の紛争です。
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弁護士への依頼という同じ主題であっても、判断の分かれ目となる事項は場面ごとに異なりますので、次のとおり整理しています。
- 在任中又は在任していた期間の役員報酬が支払われず、又は一方的に減額された場面での依頼……本記事
- 退任後の役員退職慰労金の支払を断られ、又は放置されている場面……本ページ末尾の関連ページをご覧ください
- 従業員としての未払賃金の請求、及び役員報酬に関する税務上の取扱い……別の記事において扱います
- 会社の資産が処分され始めている場合の対応……本ページ末尾のご案内のページをご覧ください
「役員なのだから仕方がない」と言われて引き下がる前に
役員報酬は、会社が自由に増減できるものではありません
取締役の報酬等については、定款にその額を定めていないときは、株主総会の決議によって定めることとされています(会社法第361条第1項)。監査役についても同様です(同法第387条第1項)。会社が一方的に金額を変えてよいという仕組みにはなっていません。「役員は会社と一心同体だから業績に連動して当然である」という説明を受けることがありますが、それは法律上の根拠のある説明ではありません。
いったん具体的に定まった報酬は、同意なく減らすことができません
定款又は株主総会の決議によって取締役の役員報酬額が具体的に定められた場合、その額は会社と取締役との間の契約の内容となり、双方を拘束します。したがって、その後に株主総会が無報酬とする旨の決議をしても、当該取締役が同意しない限り報酬債権を失うものではなく、職務の内容に著しい変更があったことを前提に決議がされた場合であっても異ならない、というのが判例です(最高裁判所平成4年12月18日判決・民集46巻9号3006頁)。減額の場面でも、この考え方が出発点になります。
他方、決議がなければ請求が立たない場合もあります
取締役については、定款又は株主総会の決議によって報酬の金額が定められなければ具体的な報酬請求権は発生しないとするのが判例です(最高裁判所平成15年2月21日判決・金融法務事情1681号31頁)。同族の会社では、そもそも株主総会が開かれていない、議事録が作られていないという例が少なくありません。この場合には、過去の支払の実績、取締役会の決定、稟議の記録などから、報酬の額がどのように定まっていたのかを積み上げて示す作業が必要になります。ここが、弁護士に依頼するかどうかで最も差が出る部分です。
「同意していない」ことを、どの資料で示すか
減額が争われる案件の勝敗は、ほぼこの一点に集約されます。会社は必ず「本人も納得していた」と主張してまいります。
株主総会及び取締役会の議事録
株主及び債権者は、会社の営業時間内はいつでも株主総会の議事録の閲覧又は謄写を請求することができます(会社法第318条第4項)。減額の根拠とされている決議が本当に存在するのか、存在するとして何が決まっているのかを確認することが第一歩です。議事録が作られていない、あるいは出席していないはずの日付で署名がされているという事実が判明することもあります。
支払の記録と、金額が変わった時点
通帳の入金記録、報酬の明細、源泉徴収票を並べますと、いつから、いくら減ったのかが客観的に確定します。減額の開始時期が分かれば、請求できる差額の総額と、時効の進行状況が計算できます。この作業は依頼の前にご自身でも進めていただけます。
減額に異議を述べた記録
電子メール、通信アプリの履歴、手帳の記載、社内で配布された文書など、異議を述べた形跡が残っていれば強力な資料になります。何も残っていない場合でも諦める必要はありませんが、これから作ることはできます。減額後であっても、書面で異議を述べておくことには意味があります。
会計帳簿の閲覧謄写の請求
非上場株式を保有しておられる場合には、総株主の議決権の100分の3以上又は発行済株式の100分の3以上を有することを要件として、理由を明らかにしたうえで会計帳簿の閲覧謄写を請求することができます(会社法第433条第1項)。計算書類等については、株主及び債権者が閲覧等を請求することができます(同法第442条第3項)。他の役員の報酬が減っていないという事実が判明すれば、「業績が悪いから」という説明の当否を正面から問うことができます。
会社はなぜ報酬を止めるのか 相手方の側の事情
相手方の狙いを見誤りますと、交渉の設計を誤ります。背景には概ね3つの事情があります。
第1に、資金繰りの中で役員報酬を最後に回しているという事情
従業員の給料、取引先への支払、税及び社会保険料の納付を優先し、役員報酬を後回しにするという処理は珍しくありません。この場合、会社は債務の存在自体は否定していないことが多く、支払時期の取決めと確実な履行の担保をどう設計するかが交渉の中心になります。
第2に、退任又は株式の譲渡を迫るための圧力という事情
経営権をめぐる対立がある会社では、報酬を止めることが、相手を交渉の席に着かせるための手段として用いられることがあります。この場合、報酬の問題だけを切り離して解決することはできません。株式の取扱い、役員の地位、退任の条件までを含めた全体の絵を描いたうえで交渉に入る必要があります。
第3に、法的な整理をしないまま進めているという事情
顧問税理士の助言のみで役員報酬を改定し、株主総会の決議を経ていないという例が多くみられます。この場合、会社の側にも手続上の弱点があります。代理人からの通知によって初めて会社が問題の所在に気付き、態度が変わることも少なくありません。
弁護士に依頼した場合、何をどこまで任せることができるか
減額の効力を争う筋道を組み立てます
争点は、役員報酬額がいつ、どのように具体的に定まったのか、減額について同意があったといえるのかの2点に絞られます。会社は「減額後の金額を受け取り続けたのだから黙示の同意がある」と主張するのが通例です。これに対しては、異議を述べていた事実、受領を拒めば生活が成り立たない事情、減額の説明が事後になされた経緯などを積み上げて反論いたします。
使用人としての給与部分を切り分けます
取締役でありながら部長等の職を兼ねておられる場合、使用人分の給与については、その体系が明確に確立されており、株主総会において取締役の報酬枠に使用人分給与が含まれないことが明示されているときは、株主総会の決議を要しないとされています(最高裁判所昭和60年3月26日判決・集民144号247頁)。取締役分と使用人分を切り分けることで、請求の組立て方が変わる場合があります。
時効の進行を止め、資産の流出に備えます
毎月の報酬債権は各月ごとに時効が進行しますので、時効の管理は依頼を受けた後の最初の作業になります。併せて、会社の資産が処分されるおそれがある場合には、仮差押命令の申立てを検討いたします。仮差押命令は、強制執行をすることができなくなるおそれがあるとき、又は強制執行をするのに著しい困難を生ずるおそれがあるときに発することができます(民事保全法第20条第1項)。保全すべき権利及び保全の必要性は疎明を要し(同法第13条)、担保を立てることを求められるのが通常です(同法第14条第1項)。
訴訟と、判決を得た後の回収まで見通します
会社が任意に支払わない場合には、財産開示手続(民事執行法第196条以下)及び第三者からの情報取得手続(同法第204条以下)を用います。金融機関から預貯金債権等の情報を取得する手続(同法第207条第1項)は、口座の所在が分からない場合に有効です。なお、遅延損害金の法定利率は年3パーセントであり(民法第404条第2項)、同条第3項以下により3年を一期として見直されます。
解任又は退任と併せて起きた場合に、あわせて検討すること
正当な理由のない解任には、損害の賠償の請求があり得ます
株主総会の決議によって解任された役員は、その解任について正当な理由がある場合を除き、会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができます(会社法第339条第2項)。未払の報酬の請求と、残存任期に対応する報酬相当額の損害の賠償とは、別個の請求です。両者を取り違えますと、請求できるはずのものを落とすことになります。
退任後の役員退職慰労金との関係を整理します
在任中の報酬が未払のまま退任なさる場合、役員退職慰労金の算定の基礎となる最終報酬月額が争いになることがあります。減額後の金額を前提に算定されますと、役員退職慰労金まで目減りいたします。減額の効力を争う実益は、在任中の差額にとどまりません。
辞任するかどうかの判断は、請求の設計と併せて行います
報酬が止まったことを理由に直ちに辞任なさいますと、以後の報酬は発生しませんし、社内の資料にも触れられなくなります。他方、在任を続けることに伴う責任もあります。いつ辞任するかは、請求の見通しと併せて決めるべき事項です。この判断だけのために弁護士相談をお申し込みいただいても差し支えありません。
時効はどのように進むのか 具体的な日付で考えます
設例 毎月25日払いの報酬が止まった場合
債権は、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないときに時効によって消滅します(民法第166条第1項第1号)。月額報酬を毎月25日に支払う旨が定められていた会社において、令和3年4月分以降の支払が止まっているとします。令和3年4月25日に支払われるべきであった分は令和8年4月25日の経過をもって時効が完成し、以後1か月ごとに順次完成してまいります。本日を令和8年8月23日といたしますと、令和3年7月25日払いの分までは既に完成しており、同年8月25日払いの分に残された期間は2日です。
一方的な減額の場合も、差額が毎月発生します
月額60万円から30万円に減額された場合、差額の30万円が毎月の債権として発生し、各月の支払日から5年で順次時効が完成いたします。減額から4年が経過しているというご相談では、最も古い月から順に請求できる範囲が失われていきます。「もう少し様子を見る」という選択の代償が、毎月現実に発生しているとお考えください。
時効の完成を止める手当
催告があったときは、その時から6か月を経過するまでの間は時効は完成しません(民法第150条第1項)。ただし、完成猶予されている間に再度催告をしても効力は生じません(同条第2項)。協議を行う旨の合意が書面でされたときは、その合意から1年を経過した時などのいずれか早い時までの間、時効は完成せず(民法第151条第1項各号)、通算して5年を超えることはできません(同条第2項)。催告による完成猶予中にした協議の合意及びその逆は効力を生じませんので(同条第3項)、どちらを選ぶかを早く決める必要があります。会社が未払を認める書面を出した場合には、承認として時効が更新されます(民法第152条第1項)。訴えの提起があれば、その事由が終了するまで時効は完成せず、確定判決によって権利が確定したときは新たに進行を始めます(民法第147条第1項第1号、第2項)。
回収の見込みと費用の均衡をどのように考えるか
まず、請求できる金額を月ごとに積算します
未払分については月額に未払の月数を乗じ、減額分については差額に月数を乗じます。時効が完成している月を除いて計算しますと、現実に請求できる金額が出ます。この数字が出て初めて、依頼するかどうかを判断する材料がそろいます。
次に、会社の支払能力を見ます
役員報酬が止まっている会社は、資金繰りが厳しいことが多いのが実情です。判決を得ても回収に至らないのでは意味がありませんので、決算の内容、不動産の担保の状況、主要な取引の継続性を確認いたします。分割払とする場合には、期限の利益の喪失に関する条項、公正証書の作成、代表者個人の連帯保証といった手当を併せて設計します。
費用の考え方と、依頼をお勧めしない場合
費用は、着手金、報酬金、実費に分かれ、仮差押えを行う場合には裁判所に納める担保金の用意が必要です。請求できる金額、支払能力、要する期間、費用を並べて比較したうえでご判断いただくのが適切であり、当事務所ではこの比較の材料を弁護士相談の場でご説明しています。会社に見るべき資産がなく事業も停止しているという場合には、その旨を率直に申し上げます。
いま確認していただきたいこと
- 通帳を開き、報酬の入金額が変わった月と、支払が止まった月を特定してください。請求できる金額と時効の計算は、ここから始まります。
- 会社に報酬の減額に関する株主総会又は取締役会の議事録があるかを確認し、写しの交付を求めてください。応じない場合には、閲覧謄写の請求という手段があります。
- 減額に異議を述べた記録がないかを探してください。残っていない場合には、本日付けで書面により異議を述べることを検討してください。
- 使用人としての職を兼ねておられる場合には、その職務に対応する給与の定めがどうなっているかを確認してください。
- 最も古い未払の月から5年に近づいている場合には、その日のうちに弁護士相談をお申し込みください。1か月遅れれば1か月分が失われます。
よくあるご質問
取締役会で減額が決まったと言われました。従うほかないのでしょうか
取締役の報酬等は、定款に定めがないときは株主総会の決議によって定めるものとされています(会社法第361条第1項)。取締役会の決定のみを根拠として、既に具体的に定まっている報酬を本人の同意なく減額することは、当然には認められません。まず、その決定の根拠として何が示されているのかを確認することが出発点になります。
減額後の金額を何か月も受け取っています。同意したことになりますか
受領を続けたという事実だけで同意があったと直ちに認められるわけではありません。もっとも、期間が長くなるほど会社の主張が通りやすくなるのは事実です。異議を述べた記録が残っているか、減額の説明がいつどのような形でされたかによって評価が変わりますので、早い段階で書面により異議を述べておくことをお勧めいたします。
会社に資金がないと言われています。請求しても意味がありますか
資金が乏しいことは、債務を消滅させる事由ではありません。ただし、一括の支払を求め続けても回収に至らない場合があります。支払期日を分割して定め、公正証書を作成し、代表者個人の連帯保証を得るといった形で、回収の確実性を高める設計を検討いたします。他方、他の役員の報酬は減っていないという事情があれば、その点を正面から追及いたします。
在任したままでも請求することはできますか
できます。退任を待つ必要はありません。むしろ在任中のほうが社内の資料に触れやすく、事実関係を固めやすいという利点があります。ただし、請求に踏み切ることで社内の関係が動きますので、辞任の時期や株式の取扱いを含めた全体の方針を先に決めておくことが望ましいといえます。
おわりに
役員報酬の不払及び一方的な減額は、「役員なのだから」という一言で片付けられてしまいがちな問題です。しかし、いったん具体的に定まった報酬は契約の内容となり、会社を拘束いたします。争うための資料を取り寄せる権利があり、時効の完成を止める方法があり、資産の流出に備える手段もあります。
問題は、それらを適切な時期に用いることができるかどうかです。1か月ごとに請求できる範囲が失われていく類型ですので、迷っておられる時間が最も惜しいものになります。資料を拝見すれば、請求できる金額と見通しを具体的に申し上げることができます。必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。
未払の役員報酬及び一方的な減額に関するご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所 電話番号 03-6435-8418
出典
- 会社法第318条第4項、第339条第2項、第361条第1項、第387条第1項、第433条第1項、第442条第3項
- 民法第147条第1項第1号、第2項、第150条第1項、第2項、第151条第1項各号、第2項、第3項、第152条第1項、第166条第1項第1号、第404条第2項、第3項
- 民事保全法第13条、第14条第1項、第20条第1項
- 民事執行法第196条以下、第204条以下、第207条第1項
- 最高裁判所昭和60年3月26日判決(集民144号247頁)、最高裁判所平成4年12月18日判決(民集46巻9号3006頁)、最高裁判所平成15年2月21日判決(金融法務事情1681号31頁)
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