分割払の合意が途中で履行されなくなった場合の残額の請求

項目 内容
記事番号 RL11(分割払の不履行と残額請求。巨大記事・中核柱記事)
表題 分割払の合意が途中で履行されなくなった場合の残額の請求
スラッグ bunkatsu-barai-zangaku-seikyu
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主キーワード 役員退職慰労金 分割払 止まった
検索意図 役員退職慰労金の分割払が途中で止まった場合に、残額を一括して請求できるのかを知りたい
送客先ランディングページ 3-3 役員退職慰労金の分割払が途中で止まりお困りではありませんか(/bunkatsu_barai_teishi/。主)
作成年月日 令和8年8月19日
第1版(v01)
メタディスクリプション 役員退職慰労金の分割払が途中で止まった場合について、残額を一括して請求できるかの分かれ目、期限の利益の喪失の定めの確認、合意の性質の把握、保全及び回収の手続、各回ごとに進行する消滅時効の管理を整理します。

分割払の合意が途中で履行されなくなった場合の残額の請求

役員退職慰労金について分割払の合意が成立し、当初は約定どおり支払われていたものの、数回の支払の後に入金が止まった、というご相談は少なくありません。この類型では、既に金額についての合意が存在しますので、争点は「いくら支払うべきか」ではなく「残りをいつ、どのように回収するか」に移ります。本記事では、支払を求める側の元役員及びその御遺族に向けて、残額の請求の組み立て方を整理します。

1 結論 最初に見るのは「期限の利益の喪失の定めがあるか」です

分割払の合意がある場合、各回の支払には期限が付されています。期限が到来していない部分については、原則として、直ちに支払を求めることができません。期限は、債務者の利益のために定めたものと推定されます(民法第136条第1項)。

したがって、支払が1回止まったからといって、当然に残額の全部を請求できるわけではありません。残額の一括請求ができるかどうかは、合意の内容に期限の利益の喪失に関する定めが置かれているかによって決まります。

合意の内容 1回不履行があった場合
期限の利益の喪失の定めがある(当然喪失) 定めに従い、残額全部について直ちに請求することができます
期限の利益の喪失の定めがある(請求により喪失) 会社に対する意思表示を行ったうえで残額全部を請求します
期限の利益の喪失の定めがない 原則として、期限が到来した分についてのみ請求します

2 合意書の確認

2-1 確認すべき条項

条項 確認の視点
総額及び内訳 役員退職慰労金として支払われるものか、他の債務が含まれていないか
各回の金額及び支払期日 期日が特定されているか、末日か営業日かの定めがあるか
期限の利益の喪失 当然に喪失するのか、催告又は請求を要するのか
遅延損害金 利率の定めがあるか。定めがない場合は法定利率によります
担保及び保証 物的担保、連帯保証人の有無
清算条項 他に債権債務がない旨の条項が置かれていないか
公正証書の有無 強制執行に服する旨の陳述が記載されているか

2-2 定めがない場合の対応

期限の利益の喪失の定めがない場合であっても、次の対応が考えられます。第一に、期限が到来した分について請求し、支払を受けられなければ、その部分について訴訟を提起します。第二に、以後の各回についても不履行が続くのであれば、順次請求を追加します。

また、債務者が担保を滅失させ、損傷させ、若しくは減少させたとき、又は担保を供する義務を負う場合においてこれを供しないときは、債務者は期限の利益を主張することができないとされています(民法第137条第2号、第3号)。会社が担保として提供していた財産を処分している場合には、この規定の適用を検討する余地があります。

3 合意の性質の把握

分割払の合意は、その成立の経緯により、いくつかの性質を帯びることがあります。

性質 内容 実務上の意味
支払方法の定め 既に発生した退職慰労金債務の支払方法を定めたにとどまるもの 元の債務の性質及び時効の扱いが問題となります
和解 争いのある権利関係について互いに譲歩して定めたもの(民法第695条) 合意により権利関係が確定します(民法第696条)
準消費貸借 既存の債務を消費貸借の目的としたもの(民法第588条) 債務の性質が変わり得ます
債務の承認 会社が債務の存在を認めたもの 時効が更新されます(民法第152条第1項)

いずれの性質を有するかは、合意書の文言及び成立の経緯によって判断されます。もっとも、いずれの場合であっても、会社が支払を約束した事実自体は、債務の承認として時効の更新の効果を生じ得ます。この点は、退任から長期間が経過している事案において重要な意味を持ちます。

4 残額の請求の手順

4-1 催告

まず、会社に対し、書面により、不履行となっている回の支払及び(定めがある場合には)期限の利益の喪失による残額全部の支払を求めます。配達証明付きの内容証明郵便によることが通例です。

催告は、催告の時から6か月を経過するまでの間、時効の完成を猶予します(民法第150条第1項)。もっとも、催告を繰り返しても重ねて猶予の効果は生じません(同条第2項)。

4-2 会社の説明の確認

支払が止まった理由を会社に確認します。一時的な資金繰りの問題であるのか、支払う意思自体を失ったのかによって、その後の対応が異なります。

会社の説明 検討の方向
一時的に資金が不足している 支払計画の見直しと担保の追加を検討します
業績が悪化した 計算書類により状況を確認し、保全の要否を検討します
経営者が交代した 会社の債務であることを指摘し、承認の書面を得ることを検討します
合意の効力を争う 合意の成立及び内容の立証を準備します
応答がない 保全及び訴訟の手続に移行します

4-3 公正証書がある場合

合意が公正証書によって作成され、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述が記載されている場合には、当該公正証書は債務名義となります(民事執行法第22条第5号)。この場合には、訴訟を経ることなく強制執行の手続に進むことができます。

この点は、分割払の合意を結ぶ段階での備えが後に大きな差を生む場面です。合意を締結する際には、公正証書によることを検討する意義があります。

4-4 保全の手続

会社が資産を処分し始めている場合や、他の債権者への支払が優先されている場合には、判決を得る前に財産を確保する必要が生じます。仮差押えの手続を検討することになりますが、担保の提供を要するのが通例です。手続の要否及び対象財産の選定については、個別に検討することになります。

4-5 訴訟の提起

公正証書がない場合には、会社を被告として支払を求める訴えを提起します。合意書が存在する事案では、請求原因は比較的単純です。争点は、期限の利益の喪失の有無、遅延損害金の起算日及び利率、相殺の主張の当否などに絞られることが多いといえます。

5 各回ごとに進行する消滅時効

債権は、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき、又は権利を行使することができる時から10年間行使しないときに、時効によって消滅します(民法第166条第1項)。

分割払の場合、期限の利益の喪失の定めがないときは、各回の支払期日ごとに時効が進行することになります。したがって、古い回から順に時効が完成していくことになり、放置していると、請求できる範囲が徐々に狭まります。

手段 効果 根拠
裁判上の請求 その事由が終了するまでの間、時効の完成が猶予されます 民法第147条第1項
催告 催告の時から6か月を経過するまでの間、時効の完成が猶予されます 民法第150条第1項
協議を行う旨の書面による合意 一定の期間、時効の完成が猶予されます 民法第151条
会社による承認 時効が更新され、新たに進行を始めます 民法第152条第1項

会社から一部の入金があった場合には、債務の承認として時効の更新の効果を生じ得ます。少額であっても入金があった日付は記録しておく必要があります。

6 遅延損害金

支払が遅れた場合には、遅延損害金を請求することができます。合意書に利率の定めがある場合には、その定めによります。定めがない場合には、法定利率によることになります。法定利率は変動する仕組みが採られていますので、適用される利率は履行遅滞となった時期により異なります。

遅延損害金の起算日は、各回の支払期日の翌日となるのが通例です。期限の利益を喪失した場合には、残額全部について喪失の日の翌日から起算することになります。

7 案件で確認すべき事項

番号 確認事項 確認の方法
1 分割払の合意の成立の時期及び形式 合意書、覚書、公正証書
2 総額、各回の金額及び支払期日 合意書
3 期限の利益の喪失に関する定めの有無及び内容 合意書
4 遅延損害金の定めの有無 合意書
5 担保及び連帯保証人の有無 合意書、担保権の登記
6 実際に入金があった回及びその年月日 預金通帳、入金の記録
7 支払が止まった時期及び会社の説明 電子メール、書面、面談の記録
8 会社の財務状況及び資産の状況 計算書類、不動産の登記事項証明書
9 他の債権者の存在及び担保の設定状況 不動産の登記事項証明書
10 最後の入金から経過した期間 預金通帳

8 弁護士にご相談いただく意味

分割払が止まった事案では、時間の経過が回収可能性を直接に低下させます。会社の資産が他の債権者に押さえられる前に動けるかどうかが結果を分けることがあります。

弁護士は、元役員の代理人として、合意書の精査、会社に対する催告、会社の資産状況の調査、保全の手続の検討及び申立て、訴訟の提起及び遂行、債務名義に基づく強制執行の手続、消滅時効の管理を行います。既に公正証書がある場合には、速やかに執行の手続に進むことができます。

よくあるご質問

質問1 1回だけ支払が遅れました。残り全部を請求できますか。

合意書に期限の利益の喪失に関する定めがあるかどうかによります。定めがない場合には、原則として期限が到来した分についてのみ請求することになります。

質問2 合意書がなく、口頭の約束で分割払を受けていました。

入金の記録が残っていれば、合意の存在を推認させる資料となります。振込の名義、金額の規則性、入金の間隔などを整理したうえで主張を組み立てることになります。

質問3 会社から少額の入金がありました。何か意味がありますか。

債務の承認として時効の更新の効果を生じ得ます(民法第152条第1項)。入金の年月日と金額を記録に残しておいてください。

質問4 会社に資産がなさそうです。請求しても無駄でしょうか。

資力がないことは支払を免れる法律上の理由とはなりません。もっとも、現実の回収可能性には影響しますので、資産の調査を並行して行い、保全の要否を検討することになります。

質問5 連帯保証人がいます。代表者個人に請求できますか。

合意書に連帯保証の定めがあり、保証契約が書面によって締結されている場合には、保証人に対する請求を検討することができます。保証契約の成立の要件は個別に確認する必要があります。

本記事における非開示事項について

保全の要否及び対象財産の選定、催告から訴訟又は執行に移行する時期の判断、会社の反論に応じた主張の組み替え方は、株主構成、機関設計、財務状況、従前の経緯等により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開しておりません。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、役員退職慰労金の未払に関するご相談をお受けしております。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、この分野に精通していることから当該分野を取り扱っております。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)
  • ご相談は事前予約制です

ご相談に際しましては、分割払の合意書又は公正証書の写し、入金が確認できる預金通帳、登記事項証明書、会社との往復の書面をお持ちください。お手元になくてもご相談をお受けしております。課税関係については税理士にご確認ください。

弁護士費用につきましては、弁護士費用一覧のページをご覧ください。

本記事の根拠条文

会社法 第361条第1項(取締役の報酬等)、第442条第3項(計算書類等の閲覧等)

民法 第136条第1項(期限の利益)、第137条第2号・第3号(期限の利益の喪失)、第147条第1項(裁判上の請求等による時効の完成猶予)、第150条第1項・第2項(催告による時効の完成猶予)、第151条(協議を行う旨の合意による時効の完成猶予)、第152条第1項(承認による時効の更新)、第166条第1項(債権等の消滅時効)、第588条(準消費貸借)、第695条・第696条(和解)

民事執行法 第22条第5号(債務名義としての執行証書)

判例法理による部分 役員退職慰労金が会社法第361条第1項の報酬等に含まれることについては、判例法理によります。分割払の合意の性質及び時効の起算点は、合意書の文言及び成立の経緯により、個別の事案ごとに判断されます。

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