期限の利益の喪失の定めがある場合とない場合の違い

項目 内容
記事番号 RL12(期限の利益の喪失条項。主要記事・受任直結記事)
表題 期限の利益の喪失の定めがある場合とない場合の違い
スラッグ kigen-rieki-soushitsu-jouko
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主キーワード 期限の利益の喪失 分割払 退職慰労金
検索意図 分割払の合意にある期限の利益の喪失の条項がどのような効果を持つのかを知りたい
送客先ランディングページ 3-3 役員退職慰労金の分割払が途中で止まりお困りではありませんか(/bunkatsu_barai_teishi/。主)
作成年月日 令和8年8月19日
第1版(v01)
メタディスクリプション 役員退職慰労金の分割払における期限の利益の喪失の定めについて、当然喪失型と請求喪失型の違い、定めがない場合の帰結、法律上当然に喪失する場合、遅延損害金の起算、条項を確認する際の着眼点を整理します。

期限の利益の喪失の定めがある場合とない場合の違い

役員退職慰労金の分割払の合意書には、しばしば「1回でも支払を怠ったときは、当然に期限の利益を失い、残額を直ちに支払う」といった条項が置かれています。この条項の有無と書きぶりによって、支払が止まった際に採り得る手段が大きく異なります。本記事では、支払を求める側の元役員及びその御遺族に向けて、期限の利益の喪失の定めがどのような効果を持つのかを整理します。

1 結論 条項の書きぶりにより、必要な行為が変わります

期限は、債務者の利益のために定めたものと推定されます(民法第136条第1項)。分割払の各回に期限が付されている以上、期限が到来していない部分について、債権者は原則として支払を求めることができません。

期限の利益の喪失の定めは、この原則を修正し、一定の事由が生じたときに、期限が到来していない部分についても直ちに支払を求めることを可能にするものです。

類型 条項の例示的な書きぶり 債権者が行うべきこと
当然喪失型 当然に期限の利益を失う 事由の発生を主張立証すれば足ります
請求喪失型 会社は請求により期限の利益を失う 意思表示を行い、到達を立証する必要があります
催告付き型 相当の期間を定めて催告してもなお履行がないとき 催告を行い、期間の経過を待つ必要があります
定めなし 条項が置かれていない 原則として期限が到来した分のみ請求します

2 当然喪失型の条項

「当然に期限の利益を失う」と定められている場合には、条項に定める事由が生じた時点で、債権者の側で特段の行為を要することなく、残額全部の弁済期が到来します。

この類型の利点は、手続が簡明であることにあります。不履行の事実を示せば足り、意思表示の到達を立証する必要がありません。他方、注意を要するのは、期限の利益を喪失した時点から残額全部について消滅時効が進行し始めるという点です。喪失の事実に気付かないまま年数が経過すると、残額全部について時効が問題となり得ます。

3 請求喪失型の条項

「債権者の請求により期限の利益を失う」と定められている場合には、債権者が会社に対して意思表示を行うことが必要となります。この意思表示が到達しない限り、残額の弁済期は到来しません。

この類型では、次の点に留意する必要があります。

留意点 内容
到達の立証 配達証明付きの内容証明郵便によることが通例です
宛先 会社の本店の所在地に宛てます。登記事項証明書で確認します
記載内容 該当する事由、根拠となる条項、請求する金額を特定します
時期の選択 請求を行うまでは残額の時効は進行しないと解する余地があります

債権者に選択の余地が与えられている点は、実務上の利点となる場合があります。会社の資金繰りが一時的なものであり、支払計画を組み直すことで回収が見込まれるのであれば、直ちに請求せずに交渉を行うという選択もあり得ます。

4 催告付き型の条項

「相当の期間を定めて催告してもなお履行がないとき」といった定めが置かれている場合には、催告を行い、定めた期間が経過することが必要となります。催告の書面には、支払を求める金額と、期限を明示します。

この類型では、催告の要件を満たしていることの立証が争点となり得ます。書面の内容、送付の方法、到達の事実を記録に残しておく必要があります。

5 定めがない場合

条項が置かれていない場合には、期限が到来した分についてのみ請求することが原則となります。もっとも、次の対応が考えられます。

対応 内容 根拠
到来分の請求 期限が到来した回について請求し、訴訟を提起します 合意の内容によります
順次の追加 以後の回についても、期限の到来に応じて請求を追加します 合意の内容によります
法定の喪失事由の主張 担保の滅失等がある場合に期限の利益を主張できない旨を述べます 民法第137条
将来の給付の訴え あらかじめ請求する必要がある場合に将来の給付を求めます 民事訴訟法第135条
合意の締結し直し 期限の利益の喪失の定めを含む合意を新たに結びます 会社の協力が必要です

将来の給付の訴えは、あらかじめその請求をする必要がある場合に限り提起することができるとされています(民事訴訟法第135条)。会社が支払を拒む態度を明らかにしている事案では、この必要があると認められる余地があります。

6 法律上当然に期限の利益を主張できない場合

合意に定めがない場合であっても、次に掲げるときは、債務者は期限の利益を主張することができないとされています(民法第137条)。

事由
第1号 債務者が破産手続開始の決定を受けたとき
第2号 債務者が担保を滅失させ、損傷させ、又は減少させたとき
第3号 債務者が担保を供する義務を負う場合において、これを供しないとき

会社が担保として提供していた不動産を売却している場合や、担保の設定を約束しながらこれを行わない場合には、第2号又は第3号の適用を検討する余地があります。不動産の登記事項証明書により、担保権の設定及び所有権の移転の状況を確認することになります。

7 遅延損害金の起算

遅延損害金の起算日は、期限の利益の喪失の類型により異なります。

類型 残額についての起算日
当然喪失型 喪失事由が生じた日の翌日となるのが通例です
請求喪失型 請求の意思表示が到達した日の翌日となるのが通例です
催告付き型 催告に定めた期間が経過した日の翌日となるのが通例です
定めなし 各回の支払期日の翌日から、回ごとに起算します

利率については、合意書に定めがある場合にはその定めにより、定めがない場合には法定利率によります。法定利率は変動する仕組みが採られていますので、適用される利率は履行遅滞となった時期により異なります。

8 条項を確認する際の着眼点

番号 着眼点 確認の内容
1 喪失事由の範囲 支払の遅滞のみか、他の事由(手形の不渡り、差押え、事業の廃止等)も含むか
2 遅滞の程度 1回の遅滞で足りるか、2回以上を要するか
3 猶予期間 支払期日から一定の日数の猶予が定められていないか
4 喪失の効果 残額全部か、一部にとどまるか
5 意思表示の要否 当然喪失か、請求を要するか
6 通知の方法 書面によることが定められていないか
7 遅延損害金 利率及び起算日の定めがあるか
8 担保及び保証 喪失時に実行できる担保があるか
9 公正証書 強制執行に服する旨の陳述が記載されているか
10 清算条項 他の債権について放棄したとされる記載がないか

9 弁護士にご相談いただく意味

期限の利益の喪失の条項は、短い文言でありながら、その後の手続の進め方を決定づけます。当然喪失であるのに気付かずに時効期間が経過してしまう例、請求喪失であるのに意思表示を行わないまま残額を請求してしまう例のいずれも見られます。

弁護士は、元役員の代理人として、合意書の条項の精査、必要な意思表示の実施及び到達の確保、会社の資産状況の調査、保全の手続の検討、訴訟の提起及び遂行、債務名義に基づく強制執行の手続、消滅時効の管理を行います。

よくあるご質問

質問1 条項があれば、通知をしなくても残額を請求できますか。

当然に期限の利益を失う旨の定めであれば、事由の発生により弁済期が到来すると解されます。もっとも、実務上は、請求の意思を明確にするため書面を送付しておくことが通例です。

質問2 条項がない場合、残りは請求できないのですか。

期限が到来した分については請求することができます。また、担保の滅失等がある場合には民法第137条の適用を検討する余地があり、あらかじめ請求する必要がある場合には将来の給付の訴えを検討することもできます。

質問3 当然喪失の条項がある場合、時効はいつから進みますか。

喪失事由が生じた時から残額全部について進行すると解される余地があります。喪失に気付かないまま年数が経過している場合には、早期の確認が必要です。

質問4 会社と話し合いを続けています。請求を待っても大丈夫でしょうか。

話し合いの間も時効は進行し得ます。協議を行う旨の書面による合意(民法第151条)などの措置を検討しておく必要があります。

質問5 合意書を紛失しました。条項の内容を確認する方法はありますか。

会社に写しの交付を求めるほか、公正証書によっている場合には公証役場に謄本の交付を請求することが考えられます。手元に控えがない場合の対応については、個別に御相談ください。

本記事における非開示事項について

意思表示を行う時期の判断、交渉と手続の並行の進め方、会社の反論に応じた主張の組み替え方は、株主構成、機関設計、財務状況、従前の経緯等により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開しておりません。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、役員退職慰労金の未払に関するご相談をお受けしております。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、この分野に精通していることから当該分野を取り扱っております。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)
  • ご相談は事前予約制です

ご相談に際しましては、分割払の合意書又は公正証書の写し、入金が確認できる預金通帳、登記事項証明書、会社との往復の書面をお持ちください。お手元になくてもご相談をお受けしております。課税関係については税理士にご確認ください。

弁護士費用につきましては、弁護士費用一覧のページをご覧ください。

本記事の根拠条文

会社法 第361条第1項(取締役の報酬等)

民法 第136条第1項(期限の利益)、第137条第1号・第2号・第3号(期限の利益の喪失)、第147条第1項(裁判上の請求等による時効の完成猶予)、第150条第1項(催告による時効の完成猶予)、第151条(協議を行う旨の合意による時効の完成猶予)、第152条第1項(承認による時効の更新)、第166条第1項(債権等の消滅時効)

民事訴訟法 第135条(将来の給付の訴え)

民事執行法 第22条第5号(債務名義としての執行証書)

判例法理による部分 役員退職慰労金が会社法第361条第1項の報酬等に含まれることについては、判例法理によります。期限の利益の喪失の効果及び遅延損害金の起算日は、合意書の文言により、個別の事案ごとに判断されます。

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