各回の支払ごとに進行する消滅時効の管理

項目 内容
記事番号 RL13(分割払における時効管理。周辺記事・専門解説記事)
表題 各回の支払ごとに進行する消滅時効の管理
スラッグ bunkatsu-kaku-kai-jikou-kanri
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主キーワード 分割払 時効 各回 退職慰労金
検索意図 役員退職慰労金の分割払において、時効が各回ごとに進むのか、どのように管理すればよいかを知りたい
送客先ランディングページ 3-3 役員退職慰労金の分割払が途中で止まりお困りではありませんか(/bunkatsu_barai_teishi/。主)
作成年月日 令和8年8月19日
第1版(v01)
メタディスクリプション 役員退職慰労金の分割払における消滅時効の管理について、各回ごとに時効が進行する仕組み、期限の利益の喪失がある場合との違い、一部の入金がもたらす更新の効果、弁済の充当、完成猶予及び更新の手段を整理します。

各回の支払ごとに進行する消滅時効の管理

役員退職慰労金の分割払が途中で止まった事案では、放置している間に、古い回から順に時効期間が経過していくという事態が生じます。全体としてまだ請求できると考えていたところ、実際には相当の部分が時効の問題を抱えていた、ということが起こり得ます。本記事では、支払を求める側の元役員及びその御遺族に向けて、分割払における消滅時効の管理の方法を整理します。

1 結論 定めがなければ、回ごとに時効が進みます

債権は、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき、又は権利を行使することができる時から10年間行使しないときに、時効によって消滅します(民法第166条第1項)。

分割払の合意により各回に期限が付されている場合、各回の債権は、それぞれの支払期日が到来して初めて権利を行使することができる状態となります。したがって、期限の利益の喪失の定めがない限り、各回ごとに独立して時効が進行することになります。

合意の内容 時効の進行
期限の利益の喪失の定めがない 各回の支払期日ごとに、回ごとに進行します
当然喪失の定めがある 喪失事由が生じた時から、残額全部について進行すると解される余地があります
請求により喪失する定めがある 請求の意思表示が到達した時から進行すると解される余地があります

この違いは、実務上きわめて大きな意味を持ちます。当然喪失の定めがある場合には、喪失の時から残額全部について一斉に時効が進行しますので、気付かないまま経過すると全部が時効の問題を抱えることになります。

2 回ごとの管理表を作る

分割払の事案では、次のような管理表を作成することが有益です。

支払期日 金額 入金の有無 入金日 時効期間の満了の見込み
第1回から順に 合意書の定めによります 合意書の定めによります 預金通帳により確認します 預金通帳により確認します 支払期日を基準として算出します

この表を作ることにより、どの回が先に時効期間の満了を迎えるかが一覧できます。回の数が多い事案では、表を作らずに管理することは困難です。

3 一部の入金がもたらす効果

会社から一部の入金があった場合、これは債務の承認に当たると評価されることがあります。承認があったときは、時効は更新され、その時から新たに進行を始めます(民法第152条第1項)。

問題は、その入金がどの回に充当されるか、また承認の効果がどの範囲に及ぶかです。少額の入金が、債務全体の存在を認めるものとして、まだ支払期日が到来していない回を含む全体に及ぶのか、それとも充当された回に限られるのかは、入金の際の会社の説明及び当事者の認識により判断されます。

入金の際の状況 記録しておくべき事項
会社から連絡があった 連絡の日付、担当者、述べられた内容
電子メールで説明があった 本文を保存します。転送や印刷により控えを残します
説明なく入金のみがあった 入金日、金額、振込人の名義
一部を支払う旨の書面が交付された 書面の原本を保管します

「残りも必ず支払います」「今月は一部だけにさせてください」といった会社の発言は、債務の承認を示す資料となり得ます。日付とともに記録に残しておくことが重要です。

4 弁済の充当

複数の回にわたる債務がある場合、入金がどの回に充当されるかが問題となります。当事者間に充当の順序に関する合意があるときは、その順序に従います(民法第490条)。

元本のほか利息及び費用を支払うべき場合において、債務の全部を消滅させるのに足りない給付がされたときは、費用、利息、元本の順に充当することとされています(民法第489条第1項)。遅延損害金が生じている事案では、入金の全額が元本に充当されるとは限らない点に注意を要します。

また、同種の給付を目的とする数個の債務がある場合において、弁済をする者は、給付の時に、その弁済を充当すべき債務を指定することができるとされています(民法第488条第1項)。会社が特定の回に充当する旨を指定して入金した場合には、その指定が効力を持つことになります。

5 完成猶予及び更新の手段

手段 効果 根拠 実務上の留意点
裁判上の請求 その事由が終了するまでの間、完成が猶予されます 民法第147条第1項 確定判決により権利が確定したときは更新されます(同条第2項)
強制執行等 その事由が終了するまでの間、完成が猶予されます 民法第148条第1項 手続が終了したときは更新されます(同条第2項)
催告 催告の時から6か月を経過するまでの間、完成が猶予されます 民法第150条第1項 繰り返しても重ねて猶予の効果は生じません(同条第2項)
協議を行う旨の書面による合意 一定の期間、完成が猶予されます 民法第151条 書面によることを要します
承認 時効が更新され、新たに進行を始めます 民法第152条第1項 一部の入金、支払を認める書面などが該当し得ます

確定判決又は確定判決と同一の効力を有するものによって確定した権利については、10年より短い時効期間の定めがあるものであっても、その時効期間は10年とされています(民法第169条第1項)。訴訟により債務名義を得ることは、回収の実効性を高めるだけでなく、時効の管理の面でも意味があります。

6 どの時点で手続に移るか

分割払が止まった事案では、次の順序で判断することが多いといえます。

段階 行うこと 判断の目安
第1 合意書を確認し、期限の利益の喪失の定めの有無を判定します 直ちに行います
第2 回ごとの管理表を作成し、満了の見込みを把握します 直ちに行います
第3 会社に催告し、支払が止まった理由の説明を求めます 不履行が確認された段階で行います
第4 協議を行う旨の書面による合意を検討します 会社が協議に応じる姿勢を示した場合
第5 会社の資産状況を調査し、保全の要否を検討します 会社の説明に不安がある場合
第6 訴訟を提起し、債務名義を取得します 催告による猶予の期間内に判断します

催告により得られる猶予は6か月にとどまります。この期間内に次の手続に進む判断を行う必要があります。

7 案件で確認すべき事項

番号 確認事項 確認の方法
1 分割払の合意の成立の時期 合意書、覚書、公正証書
2 各回の支払期日及び金額 合意書
3 期限の利益の喪失の定めの有無及び類型 合意書
4 実際に入金があった回、金額及び年月日 預金通帳
5 最後の入金の年月日 預金通帳
6 入金の際の会社の説明 電子メール、書面、面談の記録
7 会社が支払を認める発言をした時期 電子メール、書面、録音の有無
8 これまでに行った催告の有無及び時期 内容証明郵便の控え
9 充当の指定又は合意の有無 合意書、入金時の書面
10 遅延損害金の定めの有無 合意書

8 弁護士にご相談いただく意味

時効の管理は、判断を誤ると回復することができません。分割払の事案では、まだ先の回が残っているという安心感から対応が遅れやすく、気付いたときには相当の部分について時効が問題となっているということが起こります。

弁護士は、元役員の代理人として、合意書の精査、回ごとの時効期間の把握、催告及び協議を行う旨の書面による合意の実施、会社の資産状況の調査、保全の手続の検討、訴訟の提起及び遂行、債務名義に基づく強制執行の手続を行います。

よくあるご質問

質問1 支払期日が10年先まである合意です。最初の回だけ時効になることがありますか。

期限の利益の喪失の定めがない場合には、各回ごとに時効が進行しますので、古い回から順に時効期間が満了していくことになります。管理表を作成して把握しておく必要があります。

質問2 会社から1万円だけ入金がありました。意味がありますか。

債務の承認として時効の更新の効果を生じ得ます(民法第152条第1項)。金額の多寡にかかわらず、入金日と金額を記録に残しておいてください。

質問3 催告を毎年送っていれば時効を止められますか。

催告による猶予は催告の時から6か月にとどまり、繰り返しても重ねて猶予の効果は生じません(民法第150条第2項)。猶予の期間内に次の手続に進む必要があります。

質問4 会社と協議を続けています。時効は止まりますか。

協議を行う旨の合意は書面によることを要します(民法第151条)。口頭で話し合っているだけでは猶予の効果は生じませんので、書面を取り交わすことを検討してください。

質問5 判決を取れば時効は延びますか。

確定判決によって確定した権利については、時効期間は10年とされています(民法第169条第1項)。債務名義を得ることは、時効の管理の面でも意味があります。

本記事における非開示事項について

完成猶予及び更新の手段を選択する時期の判断、交渉と手続の並行の進め方、会社の反論に応じた主張の組み替え方は、株主構成、機関設計、財務状況、従前の経緯等により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開しておりません。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、役員退職慰労金の未払に関するご相談をお受けしております。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、この分野に精通していることから当該分野を取り扱っております。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)
  • ご相談は事前予約制です

ご相談に際しましては、分割払の合意書又は公正証書の写し、入金が確認できる預金通帳、これまでに送付した書面の控え、会社との往復の書面をお持ちください。お手元になくてもご相談をお受けしております。課税関係については税理士にご確認ください。

弁護士費用につきましては、弁護士費用一覧のページをご覧ください。

本記事の根拠条文

会社法 第361条第1項(取締役の報酬等)

民法 第147条第1項・第2項(裁判上の請求等による時効の完成猶予及び更新)、第148条第1項・第2項(強制執行等による時効の完成猶予及び更新)、第150条第1項・第2項(催告による時効の完成猶予)、第151条(協議を行う旨の合意による時効の完成猶予)、第152条第1項(承認による時効の更新)、第166条第1項(債権等の消滅時効)、第169条第1項(判決で確定した権利の消滅時効)、第488条第1項(同種の給付を目的とする数個の債務がある場合の充当)、第489条第1項(元本、利息及び費用を支払うべき場合の充当)、第490条(合意による弁済の充当)

判例法理による部分 役員退職慰労金が会社法第361条第1項の報酬等に含まれることについては、判例法理によります。承認の効果が及ぶ範囲及び時効の起算点は、合意書の文言並びに入金の際の当事者の認識により、個別の事案ごとに判断されます。

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