口頭の約束しか残っていない場合の立証の組み立て
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 記事番号 | RL16(口頭の約束の立証。周辺記事・専門解説記事) |
| 表題 | 口頭の約束しか残っていない場合の立証の組み立て |
| スラッグ | koutou-yakusoku-risshou |
| 想定ディレクトリ | /archives/koutou-yakusoku-risshou/ |
| 主キーワード | 役員退職慰労金 口約束 証明 |
| 検索意図 | 退職慰労金について書面がなく口頭の約束しかない場合に、どのように立証すればよいかを知りたい |
| 送客先ランディングページ | 3-4 創業者が退任したのに役員退職慰労金の支払を断られてお困りではありませんか(/sogyosha_irokin_kyohi/。主) |
| 作成年月日 | 令和8年8月19日 |
| 版 | 第1版(v01) |
| メタディスクリプション | 役員退職慰労金について書面がなく口頭の約束しか残っていない場合の立証について、契約の成立と書面の要否、間接事実の積み上げ方、集めるべき資料の種類、会社側の反論とその検討、時効の管理を整理します。 |
口頭の約束しか残っていない場合の立証の組み立て
「先代の社長から、退任のときにはきちんと出すからと言われていました。しかし、書面は何もありません」。中小の同族会社では、重要な取決めが口頭のみで行われ、書面が作成されていない例が少なくありません。書面がないことは不利な事情ではありますが、請求ができないことを意味するものではありません。本記事では、支払を求める側の元役員及びその御遺族に向けて、口頭の約束しか残っていない場合の立証の組み立て方を整理します。
1 結論 直接の証拠がなくても、間接事実の積み上げにより示します
契約は、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しないとされています(民法第522条第2項)。したがって、口頭の約束であっても、合意としての効力を否定されるものではありません。
問題となるのは、その約束があったことをどのように示すかです。裁判所は、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果をしん酌して、自由な心証により事実についての主張を真実と認めるべきか否かを判断するものとされています(民事訴訟法第247条)。書面という直接の証拠がない場合には、周辺の事実を積み重ねることにより、約束があったことを推認させる作業を行うことになります。
| 立証の方向 | 内容 |
|---|---|
| 第1 | 約束がされた場面の具体的な再現(時期、場所、同席者、発言の内容) |
| 第2 | 約束の存在を前提とする会社の行動の指摘 |
| 第3 | 同種の取扱いが会社において行われてきたことの立証 |
| 第4 | 約束がなかったとすれば不自然である事情の指摘 |
2 なお存在し得る書面を探す
「書面が何もない」と述べられる事案でも、詳しく確認すると、断片的な記載が残っていることが少なくありません。次のものを確認します。
| 種類 | 着眼点 |
|---|---|
| 電子メール | 退任の時期、支給の話題に触れた往復がないか |
| 携帯電話の短文の通信 | 金額や時期に触れた文言が残っていないか |
| 手帳、日記、業務日誌 | 面談の日付と内容の記載がないか |
| 年賀状、書簡 | 退任後の慰労に触れる記載がないか |
| 社内の稟議書、決裁書 | 支給の検討が記録されていないか |
| 税務に関する資料 | 引当ての計上や支給の予定が現れていないか |
| 金融機関への提出資料 | 事業計画に支給の予定が記載されていないか |
私文書は、本人又はその代理人の署名又は押印があるときは、真正に成立したものと推定されます(民事訴訟法第228条第4項)。署名又は押印のある書面が一枚でも見つかれば、立証の負担は大きく軽減されます。
3 会社の行動から推認する
約束の存在は、会社が約束を前提として行動していた事実からも推認され得ます。次のような事情が該当します。
| 事情 | 推認の内容 |
|---|---|
| 計算書類に引当てが計上されている | 会社が支給の義務を認識していたことを示します |
| 取締役会又は株主総会で議題とされた | 支給を前提とする検討が行われていたことを示します |
| 支給の額の試算が行われていた | 具体的な検討が進んでいたことを示します |
| 顧問の税理士に相談していた | 支給を予定していたことを示します |
| 退任の条件として説明がされた | 退任と支給が結び付いていたことを示します |
| 他の役員に同様の説明がされていた | 取扱いが一般的であったことを示します |
特に、計算書類における引当ての計上は有力な資料となります。株主又は債権者として、計算書類等の閲覧謄写を請求することができます(会社法第442条第3項)。
4 過去の支給実績との組み合わせ
口頭の約束を立証することが困難であっても、別の根拠による請求を併せて主張することができます。過去に他の役員へ退職慰労金が支給されている場合には、支給の慣行が確立していたという主張を組み立てることが考えられます。
この主張は、特定の約束の有無に依存しない点で、口頭の約束の立証よりも安定します。したがって、実務では、口頭の約束の主張と支給の慣行の主張とを並行して行い、資料の出方に応じて重心を移すことが多いといえます。
5 関係者の供述
約束の場に同席していた者、当時の役員、経理の担当者、顧問の税理士等が、事情を知っていることがあります。これらの者から陳述を得ることが考えられますが、次の点に留意が必要です。
| 留意点 | 内容 |
|---|---|
| 現在の立場 | 会社に在籍している者は協力を得にくい傾向があります |
| 接触の方法 | 相手方の立場に配慮し、慎重に進める必要があります |
| 陳述の形式 | 陳述書の作成、証人としての出頭のいずれを求めるかを検討します |
| 記憶の確度 | 年数が経過している場合には記憶が曖昧になりがちです |
| 利害関係 | 同様の立場にある元役員は、利害を共通にする場合があります |
関係者への接触は、進め方を誤ると事案全体に影響します。代理人を通じて行うことが望ましい場面が多いといえます。
6 録音がある場合
会話の当事者が自ら録音したものについては、証拠として用いることが可能である場合が多いといえます。もっとも、録音の経緯及び方法によっては、証拠としての扱いが問題となる余地があります。
既に録音がある場合には、その内容と録音の状況を整理したうえで、提出の要否及び時期を検討することになります。今後の面談について録音を検討される場合には、方法について事前に御相談いただくことをお勧めいたします。
7 会社側から出される反論
| 会社側の反論 | 検討の視点 |
|---|---|
| そのような発言はしていない | 発言の場面を具体的に特定し、周辺の事実を示します |
| 発言はしたが、社交辞令にすぎない | 会社の行動が約束を前提としていたことを示します |
| 先代個人の発言であり会社の行為ではない | 代表者としての発言であったことを示します |
| 金額の定めがなく、合意として成立していない | 支給規程又は支給実績から算定が可能であることを示します |
| 株主総会の決議がない | 決議を求める手続と並行して主張します |
「先代個人の発言である」という反論は、世代交代を経た事案で多く見られます。これに対しては、発言が代表取締役としての立場でされたこと、会社の業務に関する事項であったこと、他の役員も同席していたことなどを指摘することになります。
8 消滅時効
債権は、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき、又は権利を行使することができる時から10年間行使しないときに、時効によって消滅します(民法第166条第1項)。
口頭の約束による事案では、証拠の収集に時間を要することが通例です。資料が揃うのを待っている間に時効期間が経過することのないよう、催告(民法第150条第1項)、協議を行う旨の書面による合意(民法第151条)、裁判上の請求(民法第147条第1項)といった手段を検討しておく必要があります。
9 案件で確認すべき事項
| 番号 | 確認事項 | 確認の方法 |
|---|---|---|
| 1 | 約束がされた時期、場所及び同席者 | 記憶の整理、手帳等の記載 |
| 2 | 述べられた内容(金額、時期、条件) | 記憶の整理 |
| 3 | 約束に触れた電子メール等の有無 | 受信箱、送信箱、携帯電話の記録 |
| 4 | 計算書類における引当ての計上の有無 | 計算書類の閲覧 |
| 5 | 過去の他の役員に対する支給の実績 | 計算書類、社内の記録 |
| 6 | 役員退職慰労金支給規程の有無 | 規程の写し、会社への開示の求め |
| 7 | 退任の経緯及び退任時の説明 | 登記事項証明書、当時の資料 |
| 8 | 事情を知る関係者の氏名及び現在の立場 | 記憶の整理 |
| 9 | 会社が支給を否定した時期及び理由 | 電子メール、書面、面談の記録 |
| 10 | 退任からの経過期間 | 登記事項証明書 |
10 弁護士にご相談いただく意味
口頭の約束の事案では、「証拠がないから無理である」と諦められてしまうことが少なくありません。しかし、実際には、会社の側に残っている資料に手掛かりが含まれていることがあります。会社法上の閲覧謄写の請求、弁護士会を通じた照会(弁護士法第23条の2)、訴訟における文書提出命令の申立て(民事訴訟法第219条から第223条まで)といった手続により、資料を引き出せる場合があります。
弁護士は、元役員の代理人として、事実関係の整理、残存する資料の探索、会社に対する資料の開示の求め、会社法上の各種の閲覧謄写の請求、関係者からの陳述の取得、消滅時効の管理及び完成猶予の措置、訴訟その他の裁判所の手続の遂行を行います。
よくあるご質問
質問1 書面が全くありません。それでも請求できますか。
契約は書面によらなくても成立し得ますので、書面がないこと自体で請求ができなくなるものではありません。周辺の事実を積み重ねる作業と、支給の慣行を根拠とする主張とを並行して検討することになります。
質問2 約束をした先代は既に亡くなっています。
直接の関係者が亡くなっている場合、立証は難しくなります。他方、会社の資料や他の関係者の記憶が残っている場合もありますので、確認から始めることになります。
質問3 金額まで具体的に言われていました。有利になりますか。
金額に触れた発言があったことは、合意の内容が特定されていたことを示す事情となり得ます。発言の場面を具体的に整理しておくことが有益です。
質問4 今から会社に電話して認めさせてもよいですか。
進め方によっては事案全体に影響しますので、事前に御相談いただくことをお勧めいたします。会社が支払を認める発言をした場合には、債務の承認として時効の更新の効果を生じ得ます。
質問5 当時の同僚に事情を聞いてもよいですか。
相手方の現在の立場によっては、接触が事案に影響することがあります。代理人を通じて行うことが望ましい場合が多いといえます。
本記事における非開示事項について
間接事実の選択及び提示の順序、関係者への接触の方法、資料の開示を求める手順、会社の反論に応じた主張の組み替え方は、株主構成、機関設計、財務状況、従前の経緯等により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開しておりません。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、役員退職慰労金の未払に関するご相談をお受けしております。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、この分野に精通していることから当該分野を取り扱っております。
- 電話番号 03-6435-8418
- 受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)
- ご相談は事前予約制です
ご相談に際しましては、登記事項証明書、当時の電子メール及び手帳等の記録、計算書類の写し、退任前の報酬額が分かる資料、会社との往復の書面をお持ちください。お手元になくてもご相談をお受けしております。課税関係については税理士にご確認ください。
弁護士費用につきましては、弁護士費用一覧のページをご覧ください。
本記事の根拠条文
会社法 第318条第4項(株主総会議事録の閲覧謄写)、第361条第1項(取締役の報酬等)、第442条第3項(計算書類等の閲覧等)
民法 第147条第1項(裁判上の請求等による時効の完成猶予)、第150条第1項(催告による時効の完成猶予)、第151条(協議を行う旨の合意による時効の完成猶予)、第152条第1項(承認による時効の更新)、第166条第1項(債権等の消滅時効)、第522条第2項(契約の成立と方式)
民事訴訟法 第219条から第223条まで(書証及び文書提出命令)、第228条第4項(私文書の成立の推定)、第247条(自由心証主義)
弁護士法 第23条の2(報告の請求)
判例法理による部分 役員退職慰労金が会社法第361条第1項の報酬等に含まれることについては、判例法理によります。口頭の合意の成否は、証拠に基づき、個別の事案ごとに判断されます。
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