同意のない減額であることをどのように示すか

項目 内容
記事番号 RL38(在任中の役員報酬の未払・減額。主要記事・受任直結記事)
表題 同意のない減額であることをどのように示すか
スラッグ doui-nashi-gengaku-risshou
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主キーワード 役員報酬 減額 同意 立証
検索意図 役員報酬の減額に同意していないことをどのように証明するかを知りたい
送客先ランディングページ 3-11 在任中の役員報酬が未払でお困りではありませんか(/mibarai_yakuin_hoshu/。主)
作成年月日 令和8年8月14日
第1版(v01)
メタディスクリプション 役員報酬の減額について同意していないことをどのように示すかを解説します。同意があったとされやすい事情、これに対する反論の視点、異議を記録に残す方法、減額後の受領を続けた場合の評価、資料の整理の順序までを条文及び判例法理に即して整理します。

同意のない減額であることをどのように示すか

役員報酬の減額をめぐる紛争は、最終的には「同意があったかどうか」という一点に集約されます。会社は「本人も納得していた」と述べ、役員の側は「押し切られただけである」と述べます。本記事では、同意がなかったことをどのように示すかを整理します。当事務所は役員の側にも会社の側にも立ちますが、本記事は差額の支払を求める側の方に向けたものです。

1 結論 「積極的に反対した記録」と「受領の態様」の2つが柱になります

同意の有無は、次の2つの側面から評価されます。

側面 内容 主となる資料
明示の意思表示 減額に反対する意思を明らかにしていたか 書面、電子メール、議事録の記載
黙示の承諾と評価され得る行動 異議を述べずに減額後の報酬を受領し続けたか 給与明細、預金通帳、期間の長さ

第1の側面については、記録が残っているかどうかが決定的です。第2の側面については、受領を続けたという事実に対して、どのような説明を付けることができるかが問題となります。

2 同意があったとされやすい事情

会社側が「同意があった」と主張するにあたり、しばしば挙げられるのは、次の各事情です。

会社側が挙げる事情 反論の視点
減額後の報酬を長期間受領し続けた 生活の必要から受領せざるを得なかったこと、受領が承諾を意味しないと述べていたこと
減額を決定した取締役会に出席していた 出席と賛成とは異なること、議事録に反対の記載があるか、議事録の記載自体が正確か
減額後の額を前提とする書面に署名した 書面の性質(受領の確認にすぎないか、変更の合意か)、署名の経緯
「分かりました」と述べた 事実の了知と法的な同意とは異なること、その場の状況
他の役員も同様に減額された 他の役員の同意は本人の同意を意味しないこと
会社の業績が悪く、やむを得なかった 業績の悪化は一方的な減額を正当化する法律上の根拠とならないこと

これらのうち、最も重い意味を持ちやすいのは、長期間の受領です。期間が長くなるほど、「異議を述べる機会があったのに述べなかった」という評価に傾きやすくなります。

3 異議を記録に残す方法

3-1 書面によることが基本です

減額の通知を受けた時点で、書面により異議を述べます。記載すべき事項は、次のとおりです。

  • 従前の報酬額及び減額後の額
  • 減額に同意していない旨
  • 減額後の額を受領することが同意を意味するものではない旨
  • 従前の額との差額について、支払を求める権利を留保する旨
  • 減額の根拠及び決定の経過について説明を求める旨

配達の記録が残る方法により送付し、控えを保存します。会社の担当者に手渡す場合には、受領した旨の記載を求めます。

3-2 議事録への記載を求めます

取締役会において減額が議題とされる場合には、反対の意見を述べたうえで、その旨を議事録に記載するよう求めます。取締役会の決議に参加した取締役であって議事録に異議をとどめないものは、その決議に賛成したものと推定されます(会社法第369条第5項)。この推定を避けるためには、異議をとどめた旨が議事録に記載されることが重要です。

議事録の記載が実際と異なる場合には、その旨を書面により指摘し、訂正を求めます。訂正に応じない場合であっても、指摘した書面が記録として残ります。

3-3 電子メール及び通信の記録

会社との間の電子メール、文書のやりとり、通話の記録は、その時点での認識を示す資料となります。減額の通知を受けた直後のやりとりは、特に意味を持ちます。

3-4 受領を続ける場合の説明の付け方

減額後の報酬を受領しないという選択は、生活の維持の観点から現実的でないことが多くあります。受領を続けること自体は避けられないとしても、受領が同意を意味しないことを明らかにしておくことにより、後の評価が変わり得ます。

一定の期間ごとに、差額の支払を求める書面を送付し、その都度、権利を留保する旨を明らかにしておく方法があります。もっとも、催告による時効の完成猶予の効果は催告の時から6か月にとどまり、催告を繰り返しても重ねて猶予の効果は生じません(民法第150条第1項及び第2項)。書面の送付は、同意の不存在を示すための記録という位置付けであって、時効の管理としては別の手段を要します。

4 既に時間が経過してしまった場合

減額から数年が経過し、その間に異議を述べていなかったという事案も多くあります。この場合、次の視点から検討します。

検討の視点 内容
減額の決定の手続 会社の内部で正規の手続が履践されていたか、議事録が作成されているか
減額の通知の有無 そもそも減額の理由の説明を受けていたか
従前の報酬額の決定の経過 具体的な額が会社の決定として定められていたか
減額の幅 幅が大きいほど、黙示の承諾を認定することに慎重となり得ます
その後の会社の言動 「業績が回復したら戻す」等の発言があったか
退職慰労金の算定への影響 減額を前提とする算定が提示されているか

「業績が回復したら元に戻す」という趣旨の発言があった場合には、減額が一時的な措置として了解されたにとどまり、恒久的な変更に同意したものではないという主張の余地が生じます。この発言の記録の有無を確認します。

なお、減額から時間が経過している場合、各月の報酬請求権が順次時効にかかっていきます(民法第166条第1項)。同意の有無を検討する前に、時効の管理を先に行う必要があります。

5 案件で確認すべき事項

番号 確認事項 資料
1 従前の報酬額がどのように定められたか 株主総会議事録、取締役会議事録
2 減額の決定がどの会議体で行われたか 議事録
3 減額の通知の方法及び時期 通知書、電子メール
4 減額に対して述べた内容 議事録、書面、電子メール
5 減額後の受領の状況及び期間 給与明細、預金通帳
6 減額の幅 給与明細
7 他の役員の報酬の変動 議事録、計算書類
8 減額後に会社が述べた内容 記録
9 役位の変更の有無 登記事項証明書、辞令
10 現在も在任しているか 登記事項証明書

資料の入手には、株主総会議事録の閲覧謄写(会社法第318条第4項)、取締役会議事録の閲覧謄写(会社法第371条第2項、第3項)、計算書類等の閲覧等(会社法第442条第3項)を用います。訴訟の段階では、文書提出命令の申立て(民事訴訟法第219条から第223条まで)を検討します。

6 弁護士にご相談いただく意味

同意の有無は、事実の評価の問題です。同じ事実関係であっても、どの事情を強調し、どのように位置付けるかにより、評価は変わり得ます。また、これから採る行動そのものが、後に「同意の有無」を判断する材料となります。したがって、対応の初期の段階での助言に意味があります。

弁護士は、役員の代理人として、報酬額の決定の経過の確定、異議の記録化、資料の入手、会社に対する請求、消滅時効の管理、訴訟における立証の設計を行います。

なお、異議を明らかにする時期及び表現、資料の提示の順序は、当事務所が個別の案件を通じて蓄積してまいりました実務上の知見に属しますので、本記事では詳細を開示しておりません。

よくあるご質問

質問1 減額の通知に「了承しました」と返信してしまいました。

その返信が、事実を了知した旨にとどまるのか、報酬額の変更に同意する意思表示に当たるのかは、文面全体及び前後の経緯により判断されます。文面をご持参のうえご相談ください。

質問2 取締役会に出席していましたが、何も言いませんでした。

取締役会の決議に参加した取締役であって議事録に異議をとどめないものは、その決議に賛成したものと推定されます(会社法第369条第5項)。もっとも、自らの報酬に関する事項について、その取締役が決議に参加し得るかという別の問題もあります。議事録の記載を確認したうえで検討します。

質問3 減額を受け入れないと表明したら、解任されるのではないでしょうか。

株主総会は、いつでも役員を解任することができるとされています(会社法第339条第1項)。他方、解任について正当な理由がない場合には、会社に対して損害の賠償を請求することができます(同条第2項)。この点も含めて対応を検討することになります。

質問4 書面を出すと、かえって関係が悪化しませんか。

現実の懸念として理解いたします。もっとも、記録を残さないまま時間が経過すると、後になって同意がなかったことを示すのが難しくなります。表現の程度を含め、事案に応じた対応を検討いたします。

質問5 口頭で「納得していない」と何度も伝えました。それでは足りませんか。

口頭の申入れも意味を持ちますが、記録がないと立証が困難です。同席者の陳述、その後の電子メールでの言及等により補うことを検討します。

7 同意がないことを示す資料の整理表

主張を組み立てるにあたり、次の表の形で資料を整理すると、争点が明確になります。

時点 出来事 自らが述べた内容 資料
減額の前 従前の報酬額の決定 議事録、給与明細
減額の通知 会社からの通知 その場での応答 通知書、記録
減額の決定 会議体における決定 反対の意見の有無 議事録
減額の直後 最初の減額後の支払 異議の申出の有無 給与明細、書面
その後 継続的な受領 定期的な異議の有無 書面、電子メール
現在 請求 差額の請求 請求書

この表を作成すると、記録が欠けている時点が明らかになります。欠けている部分については、同席者の記憶、周辺の資料により補うことを検討します。

なお、減額の通知を受けた直後の応答が最も重要です。この時点での記録が残っている場合には、その後に受領を続けたことの評価が変わり得ます。

本記事における非開示事項について

異議を明らかにする時期、表現の程度、資料の提示の順序は、株主構成、在任の継続の意思、従前の経緯等により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開しておりません。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、役員報酬の未払及び減額に関するご相談をお受けしております。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、この分野に精通していることから当該分野を取り扱っております。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)
  • ご相談は事前予約制です

ご相談に際しましては、給与明細、源泉徴収票、預金通帳の写し、減額の通知書、議事録の写し、会社との往復の書面をお持ちください。お手元になくてもご相談をお受けしております。

本記事の根拠条文

会社法 第318条第4項(株主総会議事録の閲覧謄写)、第330条(株式会社と役員との関係)、第339条第1項・第2項(役員の解任及び損害賠償)、第361条第1項(取締役の報酬等)、第369条第5項(取締役会の決議に異議をとどめない取締役の賛成の推定)、第371条第2項・第3項(取締役会議事録の閲覧謄写)、第387条第1項・第2項(監査役の報酬等)、第442条第3項(計算書類等の閲覧等)

民法 第150条第1項・第2項(催告による時効の完成猶予)、第166条第1項(債権等の消滅時効)、第415条(債務不履行による損害賠償)、第419条(金銭債務の特則)

民事訴訟法 第219条から第223条まで(書証及び文書提出命令)

判例法理による部分 具体的な報酬額が定められた後の減額に当該取締役の同意を要するとされる点は、判例法理によります(最高裁判所平成4年12月18日判決)。同意の有無の評価は、個別の事案における事実関係により異なります。

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