役員報酬を一方的に減額された場合に差額を請求する方法

項目 内容
記事番号 RL37(在任中の役員報酬の未払・減額。巨大記事・中核柱記事)
表題 役員報酬を一方的に減額された場合に差額を請求する方法
スラッグ yakuin-hoshu-gengaku-sagaku-seikyu
想定ディレクトリ /archives/yakuin-hoshu-gengaku-sagaku-seikyu/
主キーワード 役員報酬 減額 差額 請求
検索意図 一方的に減額された役員報酬の差額を会社に請求できるかを知りたい
送客先ランディングページ 3-11 在任中の役員報酬が未払でお困りではありませんか(/mibarai_yakuin_hoshu/。主)、3-13 時効(/jikou_semmari/。補助)
作成年月日 令和8年8月14日
第1版(v01)
メタディスクリプション 役員報酬を会社から一方的に減額された場合に、減額分の差額を請求する方法を解説します。報酬額の変更に当該役員の同意を要するとされる判例法理、請求の組み立て、遅延損害金、消滅時効、退職慰労金の算定への影響、資料の集め方までを条文に即して整理します。

役員報酬を一方的に減額された場合に差額を請求する方法

「取締役会で決まったからと言われ、翌月から報酬が半分になりました」「同意した覚えはありませんが、減額された金額を受け取り続けてしまいました」「文句を言うなら辞めてもらうと言われました」。役員報酬の減額をめぐるご相談は、このような形で寄せられます。

本記事は、減額された差額の請求という金銭の問題を扱います。地位を守るという観点からの対応については、当法人が運営する別の情報提供のページにおいて取り扱っております。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っております。本記事は、支払を求める側の方に向けたものです。

1 結論 一度定められた報酬額を会社が一方的に減額することは、原則としてできません

取締役の報酬等は、定款にその額を定めていないときは、株主総会の決議によって定めなければならないとされています(会社法第361条第1項)。そして、株主総会の決議等により具体的な報酬額が定められた場合には、その額は会社と取締役との間の契約の内容となり、その後に会社が一方的にこれを減額することはできず、変更には当該取締役の同意を要すると解されています。この点は判例法理によるものであり、最高裁判所平成4年12月18日判決の示すところとされています。

したがって、同意なく減額された場合には、従前の報酬額と現に支払われた額との差額を請求し得る余地があります。もっとも、「同意がなかったこと」の評価が争点となりますので、単純な結論とはなりません。

2 役員報酬の決定の仕組み

2-1 決定の手順

段階 内容 根拠
第1 定款に額を定めるか、株主総会の決議により定めます 会社法第361条第1項
第2 実務上は、取締役全員の報酬の総額(上限)のみを株主総会で決議します 同項の運用として広く行われています
第3 各取締役への配分を取締役会に一任します 判例法理により有効と解されています
第4 取締役会が各取締役の具体的な額を決定します 会社法第362条第2項
第5 決定された額が、会社と各取締役との間の契約の内容となります 判例法理によります

監査役の報酬等については、定款にその額を定めていないときは株主総会の決議によって定めるものとされ(会社法第387条第1項)、監査役が2人以上ある場合の各監査役の報酬等について定款又は株主総会の決議がないときは、その決議の範囲内で監査役の協議によって定めるものとされています(同条第2項)。監査役の報酬の決定に取締役会が関与しない構造となっている点が、取締役の場合と異なります。

2-2 なぜ一方的な減額ができないのか

会社と役員との関係は委任に関する規定に従います(会社法第330条)。報酬の額は、会社と役員との間の合意の内容となります。契約の内容を一方の当事者が一方的に変更することができないという原則が、ここでも妥当します。

会社法第361条第1項が株主総会の決議を要求しているのは、役員が自らの報酬を決めることの弊害を防ぐためであって、会社が役員の報酬を自由に減らしてよいという趣旨ではありません。

2-3 例外的に減額が認められ得る場合

次の場合には、減額が有効とされる余地があります。

場合 検討すべき点
役員が減額に同意した場合 同意の存在及びその任意性
報酬の決定にあたり、あらかじめ減額の可能性が定められていた場合 定めの内容及び役員がこれを了解していたか
役位の変更に伴う減額であり、役位別の報酬の定めが存在する場合 役位の変更自体の有効性、定めの存在
役員が新たな地位について新たな報酬額の合意をした場合 合意の成立

役位の変更(例えば、専務取締役から平取締役への変更)に伴って報酬が下がる場合には、役位の変更そのものの有効性が先決問題となります。役位の変更が、実質的に役員を排除するための手段として行われている場合には、地位の問題として整理する必要があります。

3 実務上よく起きる問題

3-1 同意の有無が争われます

会社は、次のような事情を挙げて「同意があった」と主張することがあります。

  • 減額された報酬を、異議を述べずに受領し続けた
  • 取締役会に出席し、減額の決定に反対しなかった
  • 減額後の報酬額を前提とする書面に署名した
  • 会社の業績の悪化を理由とする減額であり、他の役員も同様に減じられた

これらの事情が「同意」と評価されるかどうかは、個別の判断となります。異議を述べずに受領を続けたことのみをもって直ちに同意があったと評価されるとは限りませんが、期間が長期にわたる場合には、会社側の主張が一定の説得力を持つことになります。したがって、減額を受け入れられない場合には、早い段階で異議を書面により明らかにしておくことが実際的です。

3-2 「業績が悪いから」という説明

会社の業績の悪化は、それ自体としては、報酬額を一方的に減額する法律上の根拠とはなりません。他方、業績の悪化を理由とする減額の提案がされ、役員がこれに同意した場合には、同意に基づく変更として有効となります。提案と同意とを区別して整理することが重要です。

3-3 減額ではなく、支払の停止

減額ではなく、報酬の支払自体が止まる事案もあります。この場合、報酬請求権は発生しているのに支払われていないという単純な未払の問題となり、請求の組み立ては減額の場合より容易です。もっとも、会社が「役員の同意により無報酬とすることが合意された」と主張することがありますので、その点の検討を要します。

3-4 減額が辞任に追い込むための手段として用いられる場合

報酬の大幅な減額と職務の取上げが同時に行われる場合、その実質は、役員を辞任に追い込むための働きかけであることがあります。この場合、差額の請求という金銭の問題と、地位を守るという問題とを同時に検討する必要があります。地位の側面については、当法人が運営する別の情報提供のページにおいて取り扱っております。

3-5 退職慰労金の算定への影響

役員退職慰労金支給規程の多くは、「退任時の月額報酬」を算定の基礎としています。したがって、退任の直前に報酬が減額されていると、退職慰労金の額も連動して減ることになります。減額の当否を争わないまま退任すると、退職慰労金の算定においても不利益が及ぶことになりますので、減額の時点での対応が重要です。

減額への対応 退職慰労金への影響
減額に異議を述べないまま退任した 減額後の額を基礎として算定される可能性が高くなります
減額に書面で異議を述べ続けた 減額前の額を基礎とすべきであるとの主張の余地が残ります
減額の差額について合意により解決した 合意の内容により算定の基礎が定まります

4 請求の組み立て

4-1 主張の構造

順位 請求原因の骨格 必要となる資料
第1 従前の報酬額が会社と役員との間の契約の内容となっていたこと 株主総会議事録、取締役会議事録、報酬の支払の記録
第2 減額について役員の同意がないこと 異議を述べた記録、議事録における反対の記載
第3 減額後に現に支払われた額 給与明細、源泉徴収票、預金の入金の記録
第4 差額及びこれに対する遅延損害金 計算書

第2の点については、「同意がないこと」を役員の側が積極的に立証しなければならないのか、「同意があったこと」を会社の側が立証すべきなのかという主張立証責任の所在が問題となります。実務上は、双方が事情を主張し合う展開となるのが通常です。

4-2 差額の計算

差額は、月ごとに計算します。

項目 内容
従前の月額報酬 減額前に支払われていた額(税込みの額を基礎とします)
減額後の月額報酬 現に支払われた額
差額 上記の差
対象期間 減額の月から現在(又は退任の月)まで
遅延損害金 各月の支払期日の翌日から年3パーセント(民法第404条、第419条)

役員報酬は毎月支払われるのが通常ですので、各月の報酬請求権ごとに支払期日が到来し、それぞれについて遅延損害金が生じます。また、消滅時効も各月の請求権ごとに進行します。

4-3 消滅時効

債権は、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき、又は権利を行使することができる時から10年間行使しないときに、時効によって消滅します(民法第166条第1項)。役員報酬は、支払期日が定められているのが通常ですので、各月の支払期日から進行するのが基本となります。

減額から数年が経過している場合には、古い月の分から順に時効にかかっていくことになります。したがって、対応の遅れがそのまま請求できる金額の減少につながります。

手段 効果 根拠
裁判上の請求 事由が終了するまで完成が猶予されます 民法第147条第1項
催告 催告の時から6か月間、完成が猶予されます 民法第150条第1項
協議を行う旨の書面による合意 一定の期間、完成が猶予されます 民法第151条
会社による承認 時効が更新されます 民法第152条第1項

5 案件で確認すべき事項

番号 確認事項 資料
1 報酬の総額(上限)に関する株主総会の決議 株主総会議事録
2 各取締役への配分に関する取締役会の決定 取締役会議事録
3 従前の月額報酬の額及び支払の実績 給与明細、源泉徴収票、預金通帳
4 減額の時期及び減額後の額 給与明細、預金通帳
5 減額の決定がされた会議体及びその手続 議事録
6 減額について自らが述べた内容 議事録、電子メール、書面
7 他の役員の報酬の変動 議事録、計算書類
8 役位の変更の有無 登記事項証明書、辞令
9 役員退職慰労金支給規程の算定の基礎 規程
10 現在も在任しているか 登記事項証明書

5-1 在任中に請求することの意味

在任したまま差額を請求することには、会社との関係が悪化するという現実の問題があります。他方、退任を待つと、時効により古い月の分から請求できなくなっていきます。また、退任時の報酬額が退職慰労金の算定の基礎となる規程の下では、減額を受け入れたまま退任することの不利益が大きくなります。

いつ、どのような形で異議を明らかにするかは、事案ごとの判断となります。少なくとも、減額に納得していないという意思を書面により記録に残しておくことには意味があります。

6 弁護士にご相談いただく意味

役員報酬の減額の事案は、「同意があったかどうか」という一点に議論が集約されます。そして、同意の有無は、当事者の発言、書面、その後の行動の積み重ねにより評価されます。したがって、対応の初期の段階で何を述べ、何を書面に残すかが、後の結論に直結します。

弁護士は、役員の代理人として、報酬額の決定の経過の確定、資料の入手、異議の記録化、会社に対する請求、消滅時効の管理、訴訟の遂行を行います。あわせて、退職慰労金の算定への影響、地位の問題との関係も整理いたします。

なお、いつ、どのような形で異議を明らかにし、どの順序で請求を行うかは、当事務所が個別の案件を通じて蓄積してまいりました実務上の知見に属しますので、本記事では詳細を開示しておりません。

よくあるご質問

質問1 減額された報酬を1年間受け取り続けてしまいました。もう請求できませんか。

受領を続けたことのみをもって直ちに同意があったと評価されるとは限りません。もっとも、期間が長期にわたるほど、会社側の主張が説得力を持つことになります。まず、異議を書面により明らかにしたうえで、請求の組み立てを検討することになります。

質問2 取締役会で減額が決議されました。決議があれば減額は有効ですか。

各取締役への配分を取締役会に一任する決議がされている場合であっても、既に具体的な額が定められた後の減額については、当該取締役の同意を要すると解されています。この点は判例法理によります。取締役会の決議があることのみをもって減額が有効となるとは限りません。

質問3 他の役員も同じ割合で減額されました。それでも争えますか。

他の役員も同様であることは、減額の合理性に関する会社側の事情として主張されることがありますが、同意を不要とする理由にはなりません。もっとも、事実上、争いにくくなる面はあります。

質問4 減額の差額を請求すると、解任されるのではないでしょうか。

株主総会は、いつでも役員を解任することができるとされています(会社法第339条第1項)。他方、解任について正当な理由がない場合には、会社に対して損害の賠償を請求することができます(同条第2項)。請求を行うかどうかは、この点も含めて検討することになります。地位の問題については、当法人が運営する別の情報提供のページにおいて取り扱っております。

質問5 監査役の報酬も同じですか。

監査役の報酬等は、定款にその額を定めていないときは株主総会の決議によって定めるものとされ(会社法第387条第1項)、各監査役の報酬等について定めがないときは監査役の協議によって定めるものとされています(同条第2項)。取締役会が減額を決定することはできない構造となっており、この点で取締役の場合よりも主張が明確になる場合があります。

質問6 差額に利息はつきますか。

金銭債務の不履行については、損害の証明を要せずに遅延損害金を請求することができます(民法第419条第1項及び第2項)。法定利率は年3パーセントとされ、3年ごとに見直されるものとされています(民法第404条)。

本記事における非開示事項について

異議を明らかにする時期及び方法、請求の順序、会社の対応に応じた組み替え方は、株主構成、財務状況、在任の継続の意思、従前の経緯等により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開しておりません。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、役員報酬の未払及び減額に関するご相談をお受けしております。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、この分野に精通していることから当該分野を取り扱っております。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)
  • ご相談は事前予約制です

ご相談に際しましては、登記事項証明書、株主総会議事録の写し、取締役会議事録の写し、給与明細、源泉徴収票、預金通帳の写し、会社との往復の書面をお持ちください。お手元になくてもご相談をお受けしております。課税関係については税理士にご確認ください。

本記事の根拠条文

会社法 第318条第4項(株主総会議事録の閲覧謄写)、第330条(株式会社と役員との関係)、第339条第1項・第2項(役員の解任及び損害賠償)、第361条第1項(取締役の報酬等)、第362条第2項(取締役会の職務)、第371条第2項・第3項(取締役会議事録の閲覧謄写)、第387条第1項・第2項(監査役の報酬等)、第442条第3項(計算書類等の閲覧等)

民法 第147条第1項(裁判上の請求等による時効の完成猶予)、第150条第1項(催告による時効の完成猶予)、第151条(協議を行う旨の合意による時効の完成猶予)、第152条第1項(承認による時効の更新)、第166条第1項(債権等の消滅時効)、第404条(法定利率)、第415条(債務不履行による損害賠償)、第419条第1項・第2項(金銭債務の特則)、第648条(受任者の報酬)

判例法理による部分 株主総会の決議等により具体的な報酬額が定められた場合に、その後の減額には当該取締役の同意を要するとされる点は、判例法理によります(最高裁判所平成4年12月18日判決)。また、各取締役への配分を取締役会に一任する決議の効力についても、判例法理によります。個別の事案における適用は、決定の経過及び資料の状況により異なります。

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