在任中の非違行為を理由とする不支給の主張に反論する方法
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 記事番号 | RL22(非違行為を理由とする不支給への反論。巨大記事・中核柱記事) |
| 表題 | 在任中の非違行為を理由とする不支給の主張に反論する方法 |
| スラッグ | hiikoui-fushikyu-hanron |
| 想定ディレクトリ | /archives/hiikoui-fushikyu-hanron/ |
| 主キーワード | 役員退職慰労金 不支給 非違行為 |
| 検索意図 | 在任中の落ち度を理由に役員退職慰労金を支給しないと言われた場合に、どのように反論すればよいかを知りたい |
| 送客先ランディングページ | 3-6 在任中の落ち度を理由に役員退職慰労金を減らされお困りではありませんか(/gengaku_fushikyu_hikou/。主) |
| 作成年月日 | 令和8年8月19日 |
| 版 | 第1版(v01) |
| メタディスクリプション | 在任中の非違行為を理由とする役員退職慰労金の不支給の主張に対する反論について、不支給の根拠の確認、事実の特定を求める意味、退職慰労金の性質からの検討、手続の適正、損害賠償及び相殺の主張への対応、資料の集め方を整理します。 |
在任中の非違行為を理由とする不支給の主張に反論する方法
「在任中に会社に損害を与えたので、退職慰労金は支給しない」。このような説明を受けたというご相談は少なくありません。しかし、不支給とするためには根拠が必要であり、その根拠が示されないまま結論のみが告げられている事案が多く見られます。本記事では、支払を求める側の元役員及びその御遺族に向けて、不支給の主張に対してどのように反論するかを整理します。
1 結論 まず「根拠」と「事実」の二つを明らかにさせます
不支給の主張に対しては、次の二つを書面により明らかにするよう求めることから始めます。
| 求めるべき事項 | 内容 | 意味 |
|---|---|---|
| 第1 根拠 | どの規程のどの条項に基づく不支給か | 根拠がなければ、不支給の主張自体が成り立ちません |
| 第2 事実 | いつ、何を行ったことが非違行為に当たるとするのか | 事実が特定されなければ、反論も検証もできません |
実務上、この二つを求めた段階で、会社が具体的な回答を示すことができない事案が相当数あります。感情的な評価や漠然とした不満が「非違行為」という語で表現されているにとどまる場合があるためです。
2 不支給の根拠の確認
2-1 支給規程に不支給条項がある場合
役員退職慰労金支給規程に、一定の場合に支給しない旨又は減額する旨の条項が置かれていることがあります。この場合には、次の点を確認します。
| 確認事項 | 内容 |
|---|---|
| 要件の文言 | 「著しい背信行為」「会社に重大な損害を与えたとき」等、要件がどのように定められているか |
| 要件該当性 | 会社が主張する事実が要件に当てはまるか |
| 効果 | 全部の不支給か、減額にとどまるか |
| 決定の主体 | 誰が判断するものとされているか |
| 手続 | 本人への通知や弁明の機会に関する定めがあるか |
2-2 不支給条項がない場合
規程に不支給条項がない場合には、会社は何を根拠として不支給を主張するのかが問題となります。株主総会において支給しない旨の決議がされたというのであれば、その決議の存否及び内容を確認します。決議もなく規程上の根拠もないのであれば、不支給の主張は、単に決議を行わないという事実上の対応にとどまることになります。
3 事実の特定を求める意味
会社に対し、非違行為の内容を具体的に特定するよう求めることには、次の意味があります。
| 意味 | 内容 |
|---|---|
| 反論の前提 | 事実が特定されて初めて、事実の存否及び評価を争うことができます |
| 主張の固定 | 後から別の事由が持ち出されることを防ぎます |
| 相当性の検討 | 事実の重大性と不支給という効果との均衡を検討できます |
| 時期の確認 | いつの事実か。在任中に問題とされていたかを確認できます |
| 会社の対応の確認 | 当時、会社が何らの措置も採っていないことを指摘できます |
特に有効であるのが、最後の点です。重大な非違行為があったというのであれば、会社は在任中に何らかの措置を採っていたはずです。当時は何も行われず、退任に際して初めて持ち出されたという経過は、主張の信用性を検討する材料となります。
4 退職慰労金の性質からの検討
役員退職慰労金は、在任中の職務執行の対価としての性質を有すると解されており、会社法第361条第1項の報酬等に含まれるものとして扱われています。この点は判例法理によります。
対価としての性質を有する以上、在任期間中に職務を執行した事実に対応する部分については、これを全部失わせるには相応の理由が必要であるという理解が成り立ちます。一方、退職慰労金には功労に報いるという側面もあり、功労を否定すべき事情がある場合には、その限度で減額し得るという考え方が採られることがあります。
したがって、反論は次の二段構えとなります。第一に、非違行為に当たる事実がないこと。第二に、仮に何らかの事実があるとしても、全部の不支給という効果は相当性を欠くこと。
5 手続の適正
| 確認事項 | 内容 |
|---|---|
| 決定の主体 | 規程が定める主体により判断されたか |
| 会議体の決議 | 取締役会又は株主総会の決議を経ているか |
| 通知 | 不支給の理由が本人に通知されたか |
| 弁明の機会 | 規程に定めがある場合、機会が与えられたか |
| 調査 | 事実関係の調査が行われたか |
| 他の役員との均衡 | 同様の事情がある他の役員に支給されていないか |
最後の点も重要です。同じような事情があった他の役員には支給されているにもかかわらず、特定の者にのみ不支給とされている場合には、判断の公平性が問題となります。過去の支給の実績を確認することが有益です。
6 損害賠償及び相殺の主張への対応
会社が、非違行為により損害が生じたとして、損害賠償請求権との相殺を主張することがあります。取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人は、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負うとされています(会社法第423条第1項)。
二人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において、双方の債務が弁済期にあるときは、各債務者は、その対当額について相殺によってその債務を免れることができます(民法第505条第1項)。したがって、会社が損害賠償請求権を有するのであれば、相殺の主張は法律上あり得るものです。
これに対しては、次の点を確認して反論を組み立てます。
| 反論の視点 | 内容 |
|---|---|
| 任務懈怠の有無 | どの任務に違反したのかを特定させます |
| 経営判断の評価 | 判断の過程及び内容に著しい不合理がなかったことを示します |
| 損害の発生及び額 | 損害が現実に生じているか、額が算定されているか |
| 因果関係 | 行為と損害との間に因果関係があるか |
| 手続 | 会社が責任追及の手続を採っているか |
| 時効 | 損害賠償請求権について時効が問題とならないか |
会社が損害賠償を主張しながら、実際には責任追及の手続を採っていない事案が多く見られます。真に損害が生じているのであれば、会社は請求を行うはずであるという指摘は、主張の信用性を検討する材料となります。
7 資料の集め方
| 資料 | 入手の手段 | 根拠 |
|---|---|---|
| 株主総会議事録 | 株主又は債権者として閲覧謄写を請求します | 会社法第318条第4項 |
| 取締役会議事録 | 株主として閲覧謄写を請求します(裁判所の許可を要する場合があります) | 会社法第371条第2項、第3項 |
| 計算書類等 | 株主又は債権者として閲覧謄写を請求します | 会社法第442条第3項 |
| 会計帳簿等 | 議決権の100分の3以上を有する株主として請求します | 会社法第433条第1項 |
| 支給規程及び調査の記録 | 会社に開示を求め、訴訟において文書提出命令の申立てを行います | 民事訴訟法第219条から第223条まで |
会社が主張する非違行為に関する調査の記録が存在する場合には、その内容を確認することが重要です。調査が行われていないのであれば、その事実自体が主張の根拠の乏しさを示すことになります。
8 案件で確認すべき事項
| 番号 | 確認事項 | 確認の方法 |
|---|---|---|
| 1 | 会社が主張する非違行為の内容及び時期 | 会社への書面による求め |
| 2 | 不支給の根拠とされる条項 | 役員退職慰労金支給規程 |
| 3 | 不支給を決定した機関及び手続 | 株主総会議事録、取締役会議事録 |
| 4 | 在任中に問題とされた形跡の有無 | 社内の記録、往復の書面 |
| 5 | 会社が主張する損害の内容及び額 | 会社への書面による求め、計算書類 |
| 6 | 責任追及の手続の有無 | 訴訟の記録、会社からの請求の有無 |
| 7 | 同様の事情がある他の役員への支給の有無 | 計算書類、社内の記録 |
| 8 | 退任の経緯及び退任時の説明 | 登記事項証明書、当時の資料 |
| 9 | 在任期間、役位及び退任時の報酬額 | 登記事項証明書、源泉徴収票 |
| 10 | 退任からの経過期間 | 登記事項証明書 |
9 弁護士にご相談いただく意味
不支給の主張に対しては、感情的に応酬しても事態は動きません。根拠と事実を明らかにさせ、資料に基づいて一つずつ検討していく作業が必要となります。会社が事実を特定できない場合には、その事実自体が有力な材料となります。
弁護士は、元役員の代理人として、会社に対する根拠及び事実の特定の求め、支給規程及び手続の検証、損害賠償及び相殺の主張に対する反論の組み立て、会社法上の各種の閲覧謄写の請求、消滅時効の管理及び完成猶予の措置、訴訟その他の裁判所の手続の遂行を行います。当事務所は会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、会社がどのような主張を組み立てるかを承知していることが、支払を求める側の作業にも生きております。
よくあるご質問
質問1 会社が理由を具体的に言いません。どうすればよいですか。
書面により、根拠となる条項と、該当するとする事実の特定を求めることが第一歩となります。回答がない場合には、その事実自体を後の主張において指摘することになります。
質問2 実際に落ち度があった場合、全く請求できないのですか。
何らかの事情がある場合であっても、全部の不支給という効果が相当であるかは別に検討されます。減額の程度の相当性を争う余地があります。
質問3 会社が損害賠償と相殺すると言っています。
任務懈怠の有無、損害の発生及び額、因果関係を確認したうえで反論を組み立てることになります。会社が責任追及の手続を採っていない場合には、その点も指摘します。
質問4 在任中には何も言われませんでした。
当時何らの措置も採られていないことは、主張の信用性を検討する材料となります。当時の社内の記録や往復の書面を確認しておくことが有益です。
質問5 他の役員には同じことがあっても支給されています。
判断の公平性を問題とする材料となります。過去の支給の実績を計算書類等により確認することになります。
本記事における非開示事項について
会社に事実の特定を求める書面の組み立て方、反論の順序及び時期の選択、相殺の主張への対応の進め方は、株主構成、機関設計、財務状況、従前の経緯等により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開しておりません。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、役員退職慰労金の未払に関するご相談をお受けしております。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、この分野に精通していることから当該分野を取り扱っております。
- 電話番号 03-6435-8418
- 受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)
- ご相談は事前予約制です
ご相談に際しましては、登記事項証明書、役員退職慰労金支給規程の写し、株主総会議事録及び取締役会議事録の写し、退任前の報酬額が分かる資料、会社との往復の書面をお持ちください。お手元になくてもご相談をお受けしております。課税関係については税理士にご確認ください。
弁護士費用につきましては、弁護士費用一覧のページをご覧ください。
本記事の根拠条文
会社法 第318条第4項(株主総会議事録の閲覧謄写)、第361条第1項(取締役の報酬等)、第371条第2項・第3項(取締役会議事録の閲覧謄写)、第423条第1項(役員等の株式会社に対する損害賠償責任)、第424条(責任の免除)、第429条第1項(役員等の第三者に対する損害賠償責任)、第433条第1項(会計帳簿等の閲覧謄写の請求)、第442条第3項(計算書類等の閲覧等)
民法 第147条第1項(裁判上の請求等による時効の完成猶予)、第150条第1項(催告による時効の完成猶予)、第166条第1項(債権等の消滅時効)、第505条第1項(相殺の要件)
民事訴訟法 第219条から第223条まで(書証及び文書提出命令)
判例法理による部分 役員退職慰労金が会社法第361条第1項の報酬等に含まれること、及び退職慰労金が職務執行の対価としての性質と功労に報いる性質とを併有すると解されることについては、判例法理によります。不支給又は減額の当否は、規程の定め、事実の内容及び手続に照らし、個別の事案ごとに判断されます。
関連するご案内
在任中の落ち度を理由に役員退職慰労金を減らされお困りではありませんか のページで、確認すべき事項と採り得る手続を整理しております。ご相談は事前予約制です。
必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。

