退職金規程が適用される範囲の確認

項目 内容
記事番号 RL21(退職金規程の適用範囲。周辺記事・専門解説記事)
表題 退職金規程が適用される範囲の確認
スラッグ taishokukin-kitei-tekiyou-hani
想定ディレクトリ /archives/taishokukin-kitei-tekiyou-hani/
主キーワード 退職金規程 適用範囲 役員
検索意図 従業員の退職金規程が取締役を兼ねる自分にも適用されるのかを確認する方法を知りたい
送客先ランディングページ 3-5 使用人を兼ねる取締役の退職金が支払われずお困りではありませんか(/kenmu_yakuin_taishokukin/。主)
作成年月日 令和8年8月19日
第1版(v01)
メタディスクリプション 従業員の退職金規程が使用人を兼ねる取締役に適用されるかについて、規程に記載される事項、適用除外条項の読み方、周知の有無、規程の変更の効力、規程がない場合の主張、資料の入手方法を整理します。

退職金規程が適用される範囲の確認

使用人としての退職金を請求する場合、その根拠となるのは会社の退職金規程です。したがって、規程が存在するか、存在するとして自らに適用されるかを確認することが出発点となります。本記事では、支払を求める側の元役員及びその御遺族に向けて、退職金規程の適用の範囲をどのように確認するかを整理します。

1 結論 規程の文言と実際の運用の両方を確認します

退職金規程は、就業規則の一部として、又はこれと別個の規程として定められます。常時10人以上の労働者を使用する使用者は、退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項について、就業規則に記載しなければならないとされています(労働基準法第89条第3号の2)。

したがって、規程には「適用される労働者の範囲」が記載されているはずです。まずこの記載を確認します。そのうえで、記載と実際の運用とが一致しているかを確認します。

確認の順序 内容
第1 規程が存在するかを確認します
第2 適用される労働者の範囲に関する記載を確認します
第3 役員又は取締役を適用除外とする条項の有無を確認します
第4 実際の運用が記載と一致しているかを確認します
第5 規程の変更の有無及びその時期を確認します

2 適用除外条項の読み方

退職金規程には、「役員には適用しない」「取締役に就任した者は対象から除く」といった条項が置かれていることがあります。この条項があるからといって、直ちに請求が否定されるわけではありません。次の点を確認します。

着眼点 内容
除外の対象の特定 「役員」の意味が、取締役全部を指すのか、使用人を兼ねない者を指すのか
就任前の期間の扱い 取締役就任前の従業員としての期間について定めがあるか
打切りの定め 取締役就任時に打切り支給する旨の定めがあるか
兼務者に関する定め 使用人を兼ねる取締役に関する別の定めが置かれていないか
条項の追加の時期 いつ設けられた条項か。自らの就任の前か後か

「役員」という語が定義されていない規程では、その意味が争点となり得ます。使用人を兼ねる取締役について、使用人としての地位に基づく退職金を否定する趣旨まで含むのかは、規程全体の構造及び実際の運用から判断されることになります。

3 周知の有無

使用者は、就業規則を、常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること、書面を交付することその他の方法によって、労働者に周知させなければならないとされています(労働基準法第106条第1項)。

また、労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとされています(労働契約法第7条)。

周知がされていない規程については、労働契約の内容となっていないという主張が成り立ち得ます。もっとも、これは適用除外条項の効力を争う場面で意味を持つ一方、退職金請求の根拠となる条項についても同様に問題となり得ますので、どちらに有利に働くかは事案によります。

4 規程が変更されている場合

使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできないとされています(労働契約法第9条)。ただし、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、変更後の就業規則に定めるところによるものとされています(労働契約法第10条)。

退職金の支給水準の引下げや、適用除外条項の追加が行われている場合には、変更の時期、周知の有無、変更の必要性及び内容の相当性を確認することになります。

確認事項 資料
変更の時期及び内容 新旧の規程、変更に関する通知
周知の方法及び時期 掲示、配付、社内の連絡の記録
労働者からの意見の聴取 意見書、届出の控え
行政官庁への届出 届出の受付印のある写し
個別の同意の有無 同意書、承諾に関する書面

5 規程が存在しない場合

退職金規程が存在しない場合には、退職金の請求権は当然には発生しません。この場合には、次の主張を検討することになります。

主張 内容 前提となる資料
支給の慣行 過去に退職した従業員に対する支給の実績から基準が確立していた 過去の支給の記録、関係者の陳述
個別の合意 採用時又は退職時に支給する旨の約束があった 雇用に関する書面、往復の書面
労働条件の明示 採用時に交付された書面に退職金の記載がある 労働条件通知書
中小企業退職金共済等 外部の制度に加入している 加入に関する書面、掛金の記録

外部の退職金制度に加入している場合には、制度からの給付が別途行われることがあります。加入の有無は、給与の明細書における控除の記載や、加入時に交付された書面により確認します。

6 規程の入手

退職金規程の写しが手元にない場合には、会社に開示を求めます。就業規則は労働者に周知されるべきものですので、開示を求める根拠があります。会社が応じない場合には、次の方法を検討します。

方法 内容 根拠
書面による開示の求め 周知義務を指摘して開示を求めます 労働基準法第106条第1項
行政機関への相談 届け出られた就業規則について相談します 行政の運用によります
文書提出命令の申立て 訴訟において会社が保有する規程の提出を求めます 民事訴訟法第219条から第223条まで
他の従業員からの入手 在職者が写しを保有している場合があります 接触の方法に配慮を要します

7 算定の方法の確認

規程が入手できた場合には、算定の方法を確認します。一般には、退職時の基本給に勤続年数に応じた係数を乗じる方法、勤続年数ごとに定額を積み上げる方法、ポイント制による方法などが用いられます。

確認事項 内容
算定の基礎となる賃金 基本給か、諸手当を含むか
勤続年数の計算 起算日、端数の扱い、休職期間の扱い
退職事由による差 自己都合と会社都合とで係数が異なるか
不支給又は減額の定め 懲戒解雇等の場合の定めがあるか
支払の時期及び方法 退職後何日以内に支払うものとされているか

8 消滅時効

使用人としての退職手当の請求権の消滅時効は5年とされています(労働基準法第115条)。起算点は退職の時と考えられます。役員としての退職慰労金の請求権とは期間も起算点も異なりますので、区別して管理する必要があります。

9 案件で確認すべき事項

番号 確認事項 確認の方法
1 退職金規程の有無及び名称 手元の写し、会社への開示の求め
2 適用される労働者の範囲に関する記載 規程の写し
3 役員又は取締役を適用除外とする条項の有無 規程の写し
4 条項が設けられた時期 新旧の規程、変更に関する通知
5 周知の方法及び時期 掲示、配付、社内の連絡の記録
6 算定の方法及び基礎となる賃金 規程の写し、給与の明細書
7 勤続年数の起算日及び通算の定め 規程の写し、雇用に関する書面
8 取締役就任時の打切り支給の有無 支払の記録、精算に関する書面
9 外部の退職金制度への加入の有無 加入に関する書面、給与の明細書
10 退職からの経過期間 雇用に関する書面、登記事項証明書

10 弁護士にご相談いただく意味

規程の適用の範囲は、条項の文言だけで決まるものではありません。周知の状況、変更の経緯、実際の運用を併せて確認する必要があります。会社が「規程の対象外である」と述べる場合であっても、その説明の根拠を資料により検証することが要点となります。

弁護士は、元役員の代理人として、規程の入手及び精査、適用の範囲に関する主張の組み立て、会社に対する開示の求め、訴訟における文書提出命令の申立て、消滅時効の管理及び完成猶予の措置、労働審判手続及び訴訟その他の裁判所の手続の遂行を行います。

よくあるご質問

質問1 規程に「役員には適用しない」とあります。もう請求できませんか。

「役員」の意味、条項が設けられた時期、実際の運用により結論が異なります。使用人を兼ねる取締役についてまで否定する趣旨であるかを検討することになります。

質問2 規程を見たことがありません。周知されていないと言えますか。

周知の有無は事実の問題です。掲示や配付の状況、他の従業員の認識などにより判断されますので、事情を整理して確認することになります。

質問3 退職の直前に規程が変更されました。

不利益な変更については、周知の有無及び変更の合理性が問題となります(労働契約法第9条、第10条)。変更の時期及び経緯を確認することが前提となります。

質問4 会社が規程を出してくれません。

周知義務を指摘して開示を求めるほか、訴訟において文書提出命令の申立てを行うことが考えられます。

質問5 規程がない会社です。請求できませんか。

規程がない場合には、過去の支給の実績、個別の合意、労働条件通知書の記載などを根拠とする主張を検討することになります。

本記事における非開示事項について

規程の入手の順序及び方法、適用の範囲に関する主張の立て方、会社の反論に応じた主張の組み替え方は、株主構成、機関設計、財務状況、従前の経緯等により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開しておりません。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、役員退職慰労金の未払に関するご相談をお受けしております。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、この分野に精通していることから当該分野を取り扱っております。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)
  • ご相談は事前予約制です

ご相談に際しましては、登記事項証明書、就業規則及び退職金規程の写し、労働条件通知書、給与の明細書、辞令、会社との往復の書面をお持ちください。お手元になくてもご相談をお受けしております。課税関係については税理士にご確認ください。

弁護士費用につきましては、弁護士費用一覧のページをご覧ください。

本記事の根拠条文

会社法 第330条(株式会社と役員との関係)、第361条第1項(取締役の報酬等)

民法 第166条第1項(債権等の消滅時効)

労働基準法 第9条(労働者)、第89条第3号の2(就業規則における退職手当に関する事項)、第90条(就業規則の作成の手続)、第106条第1項(法令等の周知義務)、第115条(時効)

労働契約法 第7条(就業規則による労働契約の内容の補充)、第9条(就業規則による労働契約の内容の変更)、第10条(変更が合理的である場合)

民事訴訟法 第219条から第223条まで(書証及び文書提出命令)

判例法理による部分 使用人としての給与体系が明確に確立している場合の取締役の報酬の決議の在り方については、判例法理によります。規程の適用の範囲は、条項の文言、周知の状況及び実際の運用に照らし、個別の事案ごとに判断されます。

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