非常勤の監査役及び社外監査役の退職慰労金

項目 内容
記事番号 RL30(非常勤監査役・社外監査役の退職慰労金。周辺記事・専門解説記事)
表題 非常勤の監査役及び社外監査役の退職慰労金
スラッグ hijokin-shagai-kansayaku-irokin
想定ディレクトリ /archives/hijokin-shagai-kansayaku-irokin/
主キーワード 非常勤監査役 社外監査役 退職慰労金
検索意図 非常勤や社外の監査役でも退職慰労金を請求できるのか、金額の決め方はどうなるのかを知りたい
送客先ランディングページ 3-8 監査役を退任したのに退職慰労金が支払われずお困りではありませんか(/kansayaku_taishokukin/。主)
作成年月日 令和8年8月19日
第1版(v01)
メタディスクリプション 非常勤の監査役及び社外監査役の退職慰労金について、常勤の監査役との法律上の取扱いの違い、支給規程における区分、名目的な監査役と説明された場合の反論、請求の手順、消滅時効の注意点を、会社法の条文に即して整理します。

非常勤の監査役及び社外監査役の退職慰労金

非常勤の監査役や社外監査役として就任していた方から、退任に際して「非常勤であるから退職慰労金の対象ではない」「名前を貸していただけであるから支給の必要はない」と説明されたというご相談をお受けすることがあります。しかし、会社法は、常勤であるか非常勤であるか、社外であるかどうかによって、報酬等に関する規律を区別しておりません。本記事では、支払を求める側の元監査役及びその御遺族に向けて、非常勤及び社外の監査役の退職慰労金がどのように扱われるかを整理します。

1 結論 法律上の区別はなく、区別は会社の内部の定めによるものです

監査役の報酬等は、定款にその額を定めていないときは、株主総会の決議によって定めるものとされています(会社法第387条第1項)。この規定は、常勤の監査役と非常勤の監査役とを区別しておりません。社外監査役についても同様です。

したがって、非常勤であることや社外であることは、退職慰労金の請求権の発生を否定する法律上の理由とはなりません。金額に差が設けられているとすれば、それは会社の支給規程その他の内部の定め、又は株主総会の決議の内容によるものです。

論点 常勤の監査役 非常勤の監査役・社外監査役
報酬等の根拠条文 会社法第387条第1項 同左(区別されておりません)
退職慰労金が報酬等に含まれるか 含まれるものとして扱われます 同左
取締役会への一任 認められないと解されています 同左
監査役間の協議による配分 会社法第387条第2項 同左(協議の当事者となります)
金額の水準 支給規程又は決議によります 支給規程又は決議により低く定められることがあります

2 常勤及び社外の意味

常勤の監査役については、監査役会設置会社は、監査役の中から常勤の監査役を選定しなければならないとされています(会社法第390条第3項)。常勤とは、他に常勤の職を有さず、会社の営業時間中は原則として当該会社の監査役の職務に従事することをいうものと解されています。会社法は常勤の定義を置いておらず、この理解は解釈によるものです。

社外監査役については、会社法第2条第16号に定義が置かれています。就任の前の一定期間にその会社又は子会社の取締役、会計参与、執行役、支配人その他の使用人であったことがないことなど、複数の要件が定められています。要件を満たすかどうかは、経歴の事実関係によって決まります。

これらの区分は、機関設計及び責任の限定に関する規律との関係で意味を持つものであり、報酬等の請求権の存否を決めるものではありません。

3 支給規程における区分の確認

多くの会社では、役員退職慰労金支給規程において、役位ごとの係数又は倍率が定められています。非常勤の監査役について常勤の監査役より低い係数が定められている例は珍しくありません。この定めがある場合、その定めに従って算定されることになります。

問題となるのは、規程に非常勤の監査役に関する定めが置かれていない場合です。この場合、次のいずれの理解を採るかにより結論が異なります。

理解 結論 主張する側
定めがない以上、規程の適用がない 規程に基づく請求はできません 会社の側
監査役に関する定めが一般に適用される 監査役としての区分により算定します 支払を求める側
過去の支給実績により基準が確立している 実績に沿った金額を請求します 支払を求める側

いずれの理解が採られるかは、規程の文言、過去の運用、他の非常勤役員に対する支給の有無によって決まります。過去に非常勤の監査役に対して支給がされた実績があるかどうかは、最初に確認すべき事項です。

4 名目的な監査役であると説明された場合

「実際には監査の業務を行っていなかった」「名前を貸していただけである」という理由で支給を拒まれる例があります。この説明に対しては、次の点を確認することになります。

第一に、監査役の職務は会社法によって定められており、監査役は取締役の職務の執行を監査するものとされています(会社法第381条第1項)。また、監査役は取締役会に出席し、必要があると認めるときは意見を述べなければならないとされています(会社法第383条第1項)。職務を行う機会が会社によって与えられていなかったのであれば、その責めは会社の側にあります。

第二に、監査役に選任され、就任を承諾し、登記もされている以上、監査役としての地位にあったことは客観的に明らかです。会社が「名目にすぎない」と主張することは、自らが適法な体制を採っていなかったことを述べるにとどまります。

第三に、監査役は、その任務を怠ったときは会社に対して損害賠償の責任を負う立場にあります。責任を負う地位にありながら対価を受けられないという扱いは、均衡を欠くものといえます。

5 会計監査に限定する定款の定めがある場合

公開会社でない株式会社は、監査役の監査の範囲を会計に関するものに限定する旨を定款で定めることができます(会社法第389条第1項)。中小の会社では、この定めが置かれている例が多く見られます。

この定めがある場合、監査役の職務の範囲は限定されますが、監査役であること自体に変わりはありません。報酬等に関する会社法第387条の適用も同様です。したがって、会計監査に限定されていることは、退職慰労金の請求を否定する理由とはなりません。

もっとも、職務の範囲が限定されていることは、金額の水準に関する会社側の主張の材料とされることがあります。この点については、支給規程の定め及び過去の支給実績を踏まえた反論を組み立てることになります。

6 請求の手順

段階 行うこと 留意点
第1 登記事項証明書により在任期間及び役位を確定します 就任及び退任の年月日を正確に把握します
第2 定款及び役員退職慰労金支給規程を入手します 会社に開示を求めることになります
第3 株主総会の決議の有無を確認します 議事録の閲覧謄写を請求します(会社法第318条第4項)
第4 過去の監査役に対する支給の実績を調べます 計算書類等の閲覧により確認します(会社法第442条第3項)
第5 書面により支給及び決議を求めます 催告による時効の完成猶予は6か月にとどまります
第6 応答がない場合に裁判所の手続を検討します 請求原因の構成を整理したうえで進めます

7 消滅時効

退職慰労金の請求権は、債権として消滅時効に服します。債権は、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき、又は権利を行使することができる時から10年間行使しないときに、時効によって消滅します(民法第166条第1項)。

非常勤の監査役の場合、退任後に会社との関係が薄れ、支給の話が立ち消えとなったまま年数が経過している事案が多く見られます。年数が経過している場合であっても、決議の有無や会社の対応により起算点の考え方が異なりますので、直ちに諦めるべきものではありません。

8 案件で確認すべき事項

番号 確認事項 確認の方法
1 監査役としての就任及び退任の年月日 登記事項証明書
2 常勤か非常勤かの別及び社外監査役に該当するか 登記事項証明書、就任時の資料
3 監査の範囲を会計に限定する定款の定めの有無 定款、登記事項証明書
4 監査役の報酬等の額を定めた決議の有無 株主総会議事録
5 在任中に受けていた報酬の額及び支払の方法 源泉徴収票、振込の記録
6 役員退職慰労金支給規程における監査役の区分 規程の写し
7 過去の非常勤の監査役に対する支給の実績 計算書類、社内の記録
8 監査役会の設置の有無 登記事項証明書
9 他に在任していた監査役の有無及び人数 登記事項証明書
10 退任からの経過期間 登記事項証明書

9 弁護士にご相談いただく意味

非常勤の監査役の事案では、手元に資料がほとんど残っていないことが通例です。報酬の振込の記録以外に何も持っていないという状態から、登記事項証明書、定款、議事録、計算書類を順に確認し、請求の根拠を組み立てる作業が必要となります。

弁護士は、元監査役の代理人として、事実関係の確定、会社に対する資料の開示の求め、会社法上の各種の閲覧謄写の請求、消滅時効の管理及び完成猶予の措置、訴訟その他の裁判所の手続の遂行を行います。

よくあるご質問

質問1 非常勤であることを理由に支給を断られました。争えますか。

会社法は常勤と非常勤とを区別して報酬等の規律を定めておりませんので、非常勤であること自体は請求を否定する理由とはなりません。支給規程の定め及び過去の支給実績を確認したうえで、請求の根拠を検討することになります。

質問2 監査の業務を実際には行っていませんでした。それでも請求できますか。

職務を行う機会が会社によって与えられていなかった場合には、その点を会社の側の事情として指摘する余地があります。請求できるかどうかは、決議、支給規程及び支給実績の状況によりますので、資料の確認から始めることになります。

質問3 社外監査役の退職慰労金は常勤より低いのが通常ですか。

支給規程において役位ごとの係数が定められている場合には、常勤の監査役より低く定められていることがあります。もっとも、これは会社の内部の定めによるものであり、法律上当然に低くなるものではありません。

質問4 報酬が無償であった場合はどうなりますか。

在任中の報酬が定められていなかった場合には、退職慰労金についても支給の前提を欠くという会社側の主張が想定されます。他方、支給規程が存在する場合や過去に同様の立場の監査役に支給された実績がある場合には、請求し得る余地があります。

質問5 退任してから何年も経っています。今からでも請求できますか。

消滅時効の起算点は決議の有無や会社の対応により異なりますので、年数が経過している場合であっても請求できる余地があります。経緯を整理したうえで御相談いただくことをお勧めいたします。

本記事における非開示事項について

非常勤及び社外の監査役の事案における請求の順序、資料の開示を求める方法、会社の反論に応じた主張の組み替え方は、株主構成、機関設計、財務状況、従前の経緯等により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開しておりません。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、役員退職慰労金の未払に関するご相談をお受けしております。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、この分野に精通していることから当該分野を取り扱っております。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)
  • ご相談は事前予約制です

ご相談に際しましては、登記事項証明書、定款、株主総会議事録の写し、役員退職慰労金支給規程の写し、報酬の振込が分かる資料、会社との往復の書面をお持ちください。お手元になくてもご相談をお受けしております。課税関係については税理士にご確認ください。

弁護士費用につきましては、弁護士費用一覧のページをご覧ください。

本記事の根拠条文

会社法 第2条第16号(社外監査役)、第318条第4項(株主総会議事録の閲覧謄写)、第381条第1項(監査役の権限)、第383条第1項(監査役の取締役会への出席及び意見の陳述)、第387条第1項・第2項・第3項(監査役の報酬等)、第389条第1項(会計監査に限定する定款の定め)、第390条第3項(常勤の監査役の選定)、第442条第3項(計算書類等の閲覧等)

民法 第166条第1項(債権の消滅時効)

判例法理による部分 退職慰労金が職務執行の対価としての性質を有する限り会社法上の報酬等に含まれること、及び支給基準を前提とする一任決議の効力については、判例法理によります。常勤の意義については解釈によります。個別の事案における適用は、決議の文言及び支給基準の内容により異なります。

関連するご案内

監査役を退任したのに退職慰労金が支払われずお困りではありませんか のページで、確認すべき事項と採り得る手続を整理しております。ご相談は事前予約制です。

必ず解決できますから、一緒に頑張りましょう。