取締役会への一任決議がされた後に金額が決まらない場合

項目 内容
記事番号 RL03(一任決議後の金額未定。周辺記事・専門解説記事)
表題 取締役会への一任決議がされた後に金額が決まらない場合
スラッグ ichinin-ketsugi-kingaku-mikettei
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主キーワード 役員退職慰労金 一任決議 金額決まらない
検索意図 株主総会で取締役会に一任する決議はされたが、取締役会が金額を決めないまま放置されている場合にどうすればよいかを知りたい
送客先ランディングページ 3-1 会社が役員退職慰労金の株主総会決議をしてくれずお困りではありませんか(/ketsugi_miryo_seikyu/。主)
作成年月日 令和8年8月19日
第1版(v01)
メタディスクリプション 株主総会が役員退職慰労金の決定を取締役会に一任した後、取締役会が金額を決めないまま放置されている場合について、一任決議が有効とされる前提、決定を求める道筋、支給基準に基づく金額の主張、資料の集め方、消滅時効の注意点を整理します。

取締役会への一任決議がされた後に金額が決まらない場合

株主総会において「役員退職慰労金の額、支払の時期及び方法は取締役会に一任する」という決議がされたにもかかわらず、その後、取締役会が金額を決めないまま年数が経過している、というご相談は少なくありません。この状態は、決議が全くされていない場合とは争点が異なります。本記事では、支払を求める側の元役員及びその御遺族に向けて、一任決議がされた後に金額が決まらない場合に何を主張し、どの順序で動くかを整理します。

1 結論 争点は「決議の有無」ではなく「決定義務の不履行」に移ります

一任決議が存在する以上、株主総会の段階の手続は済んでいます。したがって、会社が「決議がないから支払えない」と述べることは、この類型では成り立ちません。会社が述べ得るのは「取締役会がまだ決めていない」ということにとどまります。

そこで、支払を求める側は、次の2点を軸として主張を組み立てることになります。

主張の軸 内容 前提となる資料
第1の軸 一任決議は支給基準に従うことを前提としており、基準に当てはめれば金額は算定可能である 役員退職慰労金支給規程、過去の支給実績
第2の軸 取締役会が決定を行わないことは、会社が支払を免れる理由とはならない 株主総会議事録、会社への請求の記録

2 一任決議が有効とされる前提

取締役の報酬等は、定款にその額を定めていないときは、株主総会の決議によって定めなければならないとされています(会社法第361条第1項)。役員退職慰労金は、在任中の職務執行の対価としての性質を有すると解されており、同項の報酬等に含まれるものとして扱われています。この点は判例法理によります。

それでは、株主総会が具体的な金額を定めず、取締役会に一任することは許されるのでしょうか。この点については、一定の支給基準が存在し、その基準に従って金額が決定されることが前提とされている場合には、一任決議も有効であると解されています。この理解も判例法理によるものです。

この理解を裏から読むと、次のことがいえます。一任決議が有効であるということは、その前提として支給基準が存在するということであり、基準が存在する以上、金額は基準に当てはめて算定することができるはずです。取締役会が決定しないという事態は、算定が不可能であることを意味するものではありません。

3 会社側から出される説明とその検討

会社側の説明 検討の視点
取締役会でまだ議題に上げていない 一任を受けた以上、決定を行う立場にあります。上げない理由の説明を求めます
支給基準が存在しないので決められない 基準が存在しないのであれば、一任決議の有効性自体が問題となります
業績が回復してから決める 支給基準に業績条項があるかを確認します。なければ後付けの理由となります
他の役員との均衡を検討している 過去の支給実績を開示するよう求めます
取締役会の意見がまとまらない 内部の事情であり、支払を免れる法律上の理由とはなりません

これらの説明のうち、支払を求める側にとって注意を要するのは「支給基準が存在しない」というものです。会社がこれを述べる場合、会社は一任決議の前提を自ら否定していることになります。この場合には、支給の慣行、すなわち過去の支給実績から基準が確立していたという主張に重心を移すことを検討します。

4 採り得る手続

4-1 書面による決定の求め

まず行うのは、会社に対する書面による求めです。一任決議の年月日及び内容を特定したうえで、取締役会において速やかに金額を決定し、支払を行うよう求めます。あわせて、支給基準の開示と、過去の支給実績の開示を求めます。

この書面は、催告として時効の完成猶予の効果を生じます(民法第150条第1項)。もっとも、猶予の期間は催告の時から6か月にとどまり、催告を繰り返しても重ねて猶予の効果は生じません(同条第2項)。この6か月は、次の手続の準備のための期間と位置付けるべきものです。

4-2 資料の入手

資料 入手の手段 根拠
株主総会議事録 株主又は債権者として閲覧謄写を請求します 会社法第318条第4項
取締役会議事録 株主として閲覧謄写を請求します(裁判所の許可を要する場合があります) 会社法第371条第2項、第3項
計算書類等 株主又は債権者として閲覧謄写を請求します 会社法第442条第3項
会計帳簿等 議決権の100分の3以上を有する株主として請求します 会社法第433条第1項
会社が保有する文書 訴訟において文書提出命令の申立てを行います 民事訴訟法第219条から第223条まで

一任決議がされた事案では、取締役会議事録の確認が特に重要です。取締役会において退職慰労金が議題として取り上げられた記録があるか、取り上げられたが結論に至らなかったのか、そもそも議題とされていないのかによって、その後の主張が変わります。

4-3 訴訟の提起

会社が応じない場合には、会社を被告として支払を求める訴えを提起することを検討します。この場合の請求の組み立ては、支給基準に当てはめて算定した金額を請求するというものが中心となります。

会社は「取締役会の決定がないから具体的請求権は発生していない」と反論することが想定されます。これに対しては、一任決議が支給基準に従うことを前提として有効とされていること、及び基準に当てはめれば金額が算定可能であることを述べることになります。決議の文言と支給基準の内容を精査したうえで、主張を組み立てる必要があります。

4-4 取締役個人に対する責任の検討

役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負うとされています(会社法第429条第1項)。一任を受けながら決定を行わない取締役に対し、この規定による請求を検討する余地があります。もっとも、要件は限定されており、会社に対する請求とあわせて位置付けを検討する必要があります。

5 消滅時効の注意点

債権は、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき、又は権利を行使することができる時から10年間行使しないときに、時効によって消滅します(民法第166条第1項)。

一任決議がされた事案では、起算点をいつと考えるかが争点となります。取締役会の決定がされていない以上、権利を行使することができる状態が到来していないと主張し得る余地があります。他方、会社側は一任決議の時又は退任の時を起算点として主張することが想定されます。

手段 効果 根拠
裁判上の請求 その事由が終了するまでの間、時効の完成が猶予されます 民法第147条第1項
催告 催告の時から6か月を経過するまでの間、時効の完成が猶予されます 民法第150条第1項
協議を行う旨の書面による合意 一定の期間、時効の完成が猶予されます 民法第151条
会社による承認 時効が更新され、新たに進行を始めます 民法第152条第1項

会社が「取締役会でまだ決めていないだけである」と述べている場合、その発言が債務の承認に当たると評価される余地があります。会社の説明は、日付とともに記録に残しておくことが有益です。

6 案件で確認すべき事項

番号 確認事項 確認の方法
1 一任決議の年月日及び議案の文言 株主総会議事録
2 一任の対象(金額のみか、支払の時期及び方法を含むか) 株主総会議事録
3 役員退職慰労金支給規程の有無及び内容 規程の写し、会社への開示の求め
4 支給基準に業績に関する条項があるか 規程の写し
5 取締役会において議題とされた記録の有無 取締役会議事録
6 過去の他の役員に対する支給の実績及び金額の水準 計算書類、社内の記録
7 退任時の月額報酬及び在任期間、役位の変遷 源泉徴収票、登記事項証明書
8 会社の説明の内容及びその時期 電子メール、書面、面談の記録
9 元役員が株主であるか及び議決権の割合 株主名簿、法人税申告書別表二
10 一任決議からの経過期間 株主総会議事録

7 弁護士にご相談いただく意味

一任決議がされた事案の要点は、決議の文言と支給基準の内容の突き合わせにあります。同じ「取締役会に一任する」という文言であっても、支給基準の有無及びその内容により、請求の組み立て方が変わります。

弁護士は、元役員の代理人として、決議の文言及び支給基準の精査、会社に対する書面による請求及び資料の開示の求め、会社法上の各種の閲覧謄写の請求、消滅時効の管理及び完成猶予の措置、訴訟その他の裁判所の手続の遂行を行います。

よくあるご質問

質問1 一任決議があれば、取締役会が決めるまで請求できないのですか。

会社側はそのように主張することが想定されます。もっとも、一任決議は支給基準に従うことを前提として有効とされていると解されていますので、基準に当てはめて算定した金額を請求する組み立てが考えられます。結論は決議の文言及び基準の内容によります。

質問2 支給規程が見当たりません。それでも請求できますか。

規程が存在しないのであれば、一任決議の有効性自体が問題となり得ます。この場合には、過去の支給実績から基準が確立していたという主張に重心を移すことを検討します。

質問3 取締役会に出席していた当時の同僚に事情を聞いてもよいですか。

事実関係の把握として有益な場合がありますが、相手方の立場や守秘の問題がありますので、進め方については個別に御相談ください。

質問4 取締役会の議事録を見ることはできますか。

株主であれば、権利を行使するため必要があるときに閲覧謄写を請求することができます。監査役設置会社等においては裁判所の許可を要するものとされています(会社法第371条第2項、第3項)。株主でない元役員は、この手続を用いることができません。

質問5 金額はどのように算定するのですか。

支給規程がある場合には、規程の定める算定方法によります。一般には、退任時の月額報酬に在任年数及び役位に応じた倍率を乗じる方法が用いられることが多いといえます。具体的な倍率は会社ごとに異なりますので、規程及び過去の実績の確認が前提となります。

本記事における非開示事項について

決議の文言と支給基準の突き合わせの方法、請求の順序及び時期の選択、会社の反論に応じた主張の組み替え方は、株主構成、機関設計、財務状況、従前の経緯等により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開しておりません。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、役員退職慰労金の未払に関するご相談をお受けしております。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、この分野に精通していることから当該分野を取り扱っております。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)
  • ご相談は事前予約制です

ご相談に際しましては、登記事項証明書、株主総会議事録の写し、役員退職慰労金支給規程の写し、退任前の報酬額が分かる資料、会社との往復の書面をお持ちください。お手元になくてもご相談をお受けしております。課税関係については税理士にご確認ください。

弁護士費用につきましては、弁護士費用一覧のページをご覧ください。

本記事の根拠条文

会社法 第318条第4項(株主総会議事録の閲覧謄写)、第361条第1項(取締役の報酬等)、第371条第2項・第3項(取締役会議事録の閲覧謄写)、第429条第1項(役員等の第三者に対する損害賠償責任)、第433条第1項(会計帳簿等の閲覧謄写の請求)、第442条第3項(計算書類等の閲覧等)

民法 第147条第1項(裁判上の請求等による時効の完成猶予)、第150条第1項・第2項(催告による時効の完成猶予)、第151条(協議を行う旨の合意による時効の完成猶予)、第152条第1項(承認による時効の更新)、第166条第1項(債権等の消滅時効)

民事訴訟法 第219条から第223条まで(書証及び文書提出命令)

判例法理による部分 役員退職慰労金が会社法第361条第1項の報酬等に含まれること、及び一定の支給基準に従うことを前提とする取締役会への一任決議の効力については、判例法理によります。個別の事案における適用は、決議の文言及び支給基準の内容により異なります。

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