監査役が報酬について意見を述べる権利を行使する場面

項目 内容
記事番号 RL29(監査役の意見陳述権。主要記事・受任直結記事)
表題 監査役が報酬について意見を述べる権利を行使する場面
スラッグ kansayaku-hoshu-iken-chinjutsu
想定ディレクトリ /archives/kansayaku-hoshu-iken-chinjutsu/
主キーワード 監査役 報酬 意見を述べる
検索意図 監査役として報酬や退職慰労金の扱いに納得できない場合に、株主総会でどのような権利を行使できるかを知りたい
送客先ランディングページ 3-8 監査役を退任したのに退職慰労金が支払われずお困りではありませんか(/kansayaku_taishokukin/。主)
作成年月日 令和8年8月19日
第1版(v01)
メタディスクリプション 監査役は、株主総会において監査役の報酬等について意見を述べることができます(会社法第387条第3項)。この権利の内容、行使すべき場面、退職慰労金の議案が上程されない場合の扱い、意見を記録に残す方法、退任後の請求への結び付け方を整理します。

監査役が報酬について意見を述べる権利を行使する場面

監査役は、株主総会において、監査役の報酬等について意見を述べることができます。これは会社法が監査役に個別に与えている権利であり、取締役には対応する規定がありません。報酬や退職慰労金の扱いに納得できない監査役にとって、この意見陳述の権利は、会社に対して正面から異議を示し、その事実を議事録に残すための数少ない手段です。本記事では、支払を求める側の監査役及び元監査役の方に向けて、この権利をどの場面で、どのように行使するかを整理します。

1 結論 意見陳述は「記録に残す」ための手段として用います

監査役の意見陳述権は、これを行使したからといって、直ちに報酬額が変更されるものではありません。株主総会の議決権を有しない監査役が意見を述べても、決議の結果を左右する効力はないためです。

それにもかかわらずこの権利が重要であるのは、意見を述べた事実が株主総会議事録に記載され、後日の紛争において「監査役が異議を述べていた」という客観的な資料となるからです。報酬の減額や退職慰労金の不支給を争う場面では、当時異議を述べていたかどうかが、同意の有無の判断に影響し得ます。

権利 根拠 実際の効用
報酬等についての意見陳述 会社法第387条第3項 異議を述べた事実を議事録に残すことができます
選任・解任・辞任についての意見陳述 会社法第345条第4項による準用 退任の経緯に関する主張の裏付けとなり得ます
取締役会における意見陳述 会社法第383条第1項 取締役会の段階で問題を指摘した記録を残すことができます

2 報酬等についての意見陳述権の内容

監査役の報酬等は、定款にその額を定めていないときは、株主総会の決議によって定めるものとされています(会社法第387条第1項)。そして、監査役は、株主総会において、監査役の報酬等について意見を述べることができるとされています(同条第3項)。

ここでいう報酬等には、職務執行の対価としての性質を有する退職慰労金も含まれるものとして扱われています。この点は判例法理によります。したがって、監査役の退職慰労金の議案が上程される株主総会において、監査役は当該議案について意見を述べることができます。

意見の内容に制限はありません。金額が低いこと、算定の根拠が示されていないこと、他の監査役との均衡を欠くこと、支給規程の定めと異なることなど、報酬等に関する事項であれば述べることができます。会社が発言を制止する法律上の根拠はありません。

3 監査役が2人以上ある場合の協議との関係

監査役が2人以上ある場合において、各監査役の報酬等について定款の定め又は株主総会の決議がないときは、当該報酬等は、株主総会が定めた総額の範囲内において、監査役の協議によって定めるものとされています(会社法第387条第2項)。

この協議は監査役の全員によるものと解されており、一部の監査役を除外して定めることはできないと考えられています。実際には、常勤の監査役が単独で配分を決めていたり、代表取締役が事実上の配分案を示していたりする例が見られます。協議を経ていない配分がされている場合には、その点自体が主張の材料となり得ます。

退職慰労金についても、総額のみを株主総会で決議し、各監査役への配分を協議に委ねる形が採られることがあります。この場合、協議が行われていないまま支給が留保されているのであれば、協議の実施を求めることが最初の手順となります。

4 意見陳述権を行使すべき場面

場面 述べるべき内容 後の紛争における意味
退職慰労金の議案が上程されない 上程されないことについて意見を述べ、理由の説明を求めます 会社が決議を先延ばしにしていた経緯の記録となります
金額が支給規程と異なる 規程の定めとの相違を具体的に指摘します 規程の存在及び内容を会社が認識していたことの資料となります
取締役会への一任が提案された 監査役の報酬等について一任は認められないと解される旨を述べます 決議の効力を争う際の前提事実となります
取締役の報酬等と一括して議案とされた 区別して決議すべき旨を述べます 決議の効力を争う際の前提事実となります
減額の提案がされた 同意しない旨を明確に述べます 同意の不存在を示す中核的な資料となります

特に重要であるのは、最後の減額の場面です。報酬等の額が株主総会の決議によって具体的に定められた後は、これが会社と監査役との間の契約の内容となり、監査役の同意がない限り一方的に減額することはできないと解されています。この点は判例法理によります。異議を述べた記録が残っていれば、同意がなかったことを示す有力な資料となります。

5 選任、解任及び辞任についての意見陳述

監査役は、株主総会において、監査役の選任若しくは解任又は辞任について意見を述べることができます(会社法第345条第1項、第4項)。また、監査役を辞任した者は、辞任後最初に招集される株主総会に出席して、辞任した旨及びその理由を述べることができます(同条第2項、第4項)。

退職慰労金の不支給は、退任の経緯と結び付いていることが少なくありません。監査を妨げられたことに抗議して辞任したにもかかわらず、会社が「自己都合による辞任であるから支給しない」と説明する例があります。辞任の理由を株主総会で述べておくことは、こうした説明に対する反論の基礎となります。

あわせて、監査役は、取締役に対し、監査役の選任を株主総会の目的とすること又は監査役の選任に関する議案を株主総会に提出することを請求することができます(会社法第343条第2項)。また、取締役が監査役の選任に関する議案を株主総会に提出するには、監査役の同意を得なければならないとされています(同条第1項)。

6 意見を述べた事実をどのように記録に残すか

意見を述べても、議事録に記載されなければ、後日の立証において用いることが困難となります。株主総会の議事については、議事録を作成しなければならないとされており、議事録には議事の経過の要領及びその結果、株主総会において述べられた意見又は発言があるときはその意見又は発言の内容の概要を記載するものとされています。

実際には、会社が作成する議事録に監査役の発言が記載されない例があります。この場合の対応として、次の方法が考えられます。

方法 内容 留意点
意見を書面で提出する 総会の前に、意見の内容を記載した書面を会社に交付します 交付の事実を記録に残す必要があります
配達証明付き内容証明郵便による送付 書面の内容及び到達の日を証明できる方法で送付します 費用と時間を要します
電子メールによる送付 送信の記録が残ります 会社が受領を否認する場合があります
議事録の閲覧謄写の請求 作成された議事録の記載を確認します 会社法第318条第4項によります
議事録の記載に対する異議の申入れ 記載が事実と異なる旨を書面で申し入れます 訂正がされない場合でも記録は残ります

もっとも確実であるのは、総会に先立って意見を書面で提出し、その写しを保管しておく方法です。総会の場での発言のみに頼らないことが要点となります。

7 退任後に請求へ結び付ける方法

意見陳述の権利は、監査役の地位にある間に行使するものです。退任した後は、この権利を行使することはできません。したがって、在任中に残した記録を、退任後の請求においてどのように用いるかが問題となります。

退任した監査役が用い得る手段は、株主でもある場合とそうでない場合とで異なります。株主である場合には、株主総会の招集の請求(会社法第297条)により、退職慰労金の議案を上程させることを検討する余地があります。株主でない場合には、書面による請求と、支給規程又は支給の慣行を根拠とする主張の組み立てが中心となります。

いずれの場合も、在任中に述べた意見の記録は、会社が支給の必要を認識していたこと、又は減額に同意がなかったことを示す資料として機能し得ます。

8 案件で確認すべき事項

番号 確認事項 確認の方法
1 監査役としての在任期間及び常勤か非常勤かの別 登記事項証明書、就任の承諾書
2 監査役の報酬等に関する定款の定めの有無 定款
3 報酬等の総額を定めた株主総会の決議の有無 株主総会議事録
4 監査役が2人以上ある場合の協議の有無 協議の書面、監査役間の連絡の記録
5 退職慰労金の議案の上程の有無 招集通知、株主総会議事録
6 意見を述べた事実の記録の有無 議事録、提出した書面の写し
7 役員退職慰労金支給規程の有無及び監査役への適用 規程の写し
8 過去の監査役に対する支給の実績 計算書類、社内の記録
9 退任の事由及びその経緯 辞任届、往復の書面
10 退任からの経過期間 登記事項証明書

9 弁護士にご相談いただく意味

監査役の意見陳述権は、行使の時期を逃すと回復することができません。株主総会の日程が判明した段階で、何を、どのような形式で述べるかを準備しておく必要があります。

弁護士は、元監査役及び監査役の代理人として、意見の内容の組み立て、書面の作成、議事録の記載の確認、議事録の閲覧謄写の請求、退任後の請求の組み立て及び訴訟その他の裁判所の手続の遂行を行います。

よくあるご質問

質問1 監査役が意見を述べれば、報酬の減額を止めることができますか。

意見陳述自体に決議を左右する効力はありませんので、これのみによって減額を止めることはできません。もっとも、株主総会の決議によって具体的に定められた報酬額は、監査役の同意がなければ一方的に減額することができないと解されていますので、異議を述べた記録が後の主張の裏付けとなり得ます。

質問2 退職慰労金の議案が上程されない場合にも意見を述べることができますか。

報酬等に関する事項について意見を述べることができますので、議案が上程されないことについて意見を述べる余地があります。会社が発言を制止する法律上の根拠はありません。

質問3 議事録に発言が記載されませんでした。どうすればよいですか。

議事録の閲覧謄写を請求して記載を確認したうえで、記載が事実と異なる旨を書面で申し入れることが考えられます。あわせて、総会に先立って意見を書面で提出しておく方法を採ることが有効です。

質問4 既に監査役を退任しています。意見陳述の権利を行使できますか。

会社法第387条第3項の権利は監査役の地位にある者に認められるものですので、退任後に行使することはできません。ただし、辞任した監査役については、辞任後最初に招集される株主総会において辞任した旨及びその理由を述べることができる旨の規定があります。

質問5 非常勤の監査役でも同じ権利がありますか。

常勤であるか非常勤であるかによって、意見陳述の権利の有無に差は設けられておりません。監査役である限り同様に認められます。

本記事における非開示事項について

意見陳述の内容及び時期の選択、議事録の記載を争う場面での進め方、退任後の請求への結び付け方は、株主構成、機関設計、財務状況、従前の経緯等により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開しておりません。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、役員退職慰労金の未払に関するご相談をお受けしております。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、この分野に精通していることから当該分野を取り扱っております。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)
  • ご相談は事前予約制です

ご相談に際しましては、登記事項証明書、定款、株主総会議事録の写し、役員退職慰労金支給規程の写し、報酬額が分かる資料、会社との往復の書面をお持ちください。お手元になくてもご相談をお受けしております。課税関係については税理士にご確認ください。

弁護士費用につきましては、弁護士費用一覧のページをご覧ください。

本記事の根拠条文

会社法 第297条(株主による株主総会の招集の請求)、第318条第4項(株主総会議事録の閲覧謄写)、第343条第1項・第2項(監査役の選任に関する監査役の同意等)、第345条第1項・第2項・第4項(監査役の選任等についての意見の陳述)、第361条第1項(取締役の報酬等)、第383条第1項(監査役の取締役会への出席及び意見の陳述)、第387条第1項・第2項・第3項(監査役の報酬等)

民法 第166条第1項(債権の消滅時効)

判例法理による部分 退職慰労金が職務執行の対価としての性質を有する限り会社法上の報酬等に含まれること、及び株主総会の決議によって具体的に定められた報酬額を役員の同意なく一方的に減額することができないことについては、判例法理によります。個別の事案における適用は、決議の文言及び支給基準の内容により異なります。

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