退任の登記はされたのに支給の手続が進まない場合

項目 内容
記事番号 RL04(退任登記後の手続停滞。周辺記事・専門解説記事)
表題 退任の登記はされたのに支給の手続が進まない場合
スラッグ tainin-touki-go-shikyu-tetsuzuki
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主キーワード 役員 退任登記 退職慰労金 進まない
検索意図 退任の登記は済んでいるのに会社が役員退職慰労金の手続を進めない場合に何ができるかを知りたい
送客先ランディングページ 3-1 会社が役員退職慰労金の株主総会決議をしてくれずお困りではありませんか(/ketsugi_miryo_seikyu/。主)
作成年月日 令和8年8月19日
第1版(v01)
メタディスクリプション 退任の登記は完了しているにもかかわらず役員退職慰労金の支給の手続が進まない場合について、登記が持つ意味と持たない意味、会社が手続を進めない理由の類型、決議を求める道筋、資料の集め方、消滅時効の管理を整理します。

退任の登記はされたのに支給の手続が進まない場合

「登記は先に済ませてほしいと言われて署名し、そのとおり退任の登記がされました。ところが、その後、退職慰労金の話が全く進みません」。このようなご相談は珍しくありません。退任の登記が完了していることは、退任の事実を客観的に示す資料となりますが、それ自体が支給の手続を進めさせる力を持つものではありません。本記事では、支払を求める側の元役員及びその御遺族に向けて、この状態で何を確認し、どの順序で動くかを整理します。

1 結論 登記は「退任した事実」を示すにとどまります

役員の退任は登記事項であり、変更が生じたときは2週間以内に変更の登記をしなければならないとされています(会社法第915条第1項)。登記がされたことにより、退任の年月日及び退任の事由が公示されます。

もっとも、退職慰労金の支給は登記事項ではありません。したがって、登記が完了していても、支給に関する会社の義務が発生したことにはなりません。役員退職慰労金は、原則として、定款の定め又は株主総会の決議によって初めて具体的な請求権となります(会社法第361条第1項)。

登記により示されること 登記により示されないこと
退任の年月日 退職慰労金の支給の約束の有無
退任の事由(辞任、任期満了、解任等) 支給規程の有無及び内容
在任期間及び役位の変遷 株主総会の決議の有無
他の役員の異動の状況 会社の支払能力

したがって、この段階で行うべきことは、登記事項証明書を取得して退任の事実を確定させたうえで、支給の根拠となる資料の確認に進むことです。

2 登記が先行することの意味

会社が退任の登記を先に済ませることには、会社の側の事情があります。登記すべき事項は、登記の後でなければ、これをもって善意の第三者に対抗することができないとされています(会社法第908条第1項)。会社としては、退任した役員が対外的に会社を代表することがないよう、速やかに登記を行う必要があります。

他方、支払を求める側から見ると、登記が完了した後は、役員としての地位に基づく権利を用いることができなくなります。取締役会への出席、議事録の閲覧といった役員としての立場によるものは、退任により失われます。この点で、登記の先行は支払を求める側にとって不利に働く面があります。

もっとも、登記事項証明書は、在任期間及び役位を証明する資料として、退職慰労金の算定の基礎を示すものとなります。誰でも交付を請求することができますので、まずこれを取得することが最初の作業となります。

3 会社が手続を進めない理由の類型

類型 会社の説明 確認すべき点
先延ばし型 次の定時株主総会で議題に上げる 実際に上程されたかを招集通知及び議事録で確認します
基準不存在型 支給規程がないので金額を決められない 過去の支給実績の有無を確認します
資力主張型 会社に資金がない 計算書類により財務状況を確認します
非違行為主張型 在任中の落ち度があるので支給しない 具体的な事実の特定を求めます
合意否認型 そのような約束はしていない 書面、電子メール、関係者の記憶を確認します
世代交代型 先代が決めたことは知らない 会社の債務であることを指摘します

いずれの類型であっても、会社が述べている理由を書面で明らかにさせることが有益です。理由が特定されれば、それに応じた反論を組み立てることができます。理由を明らかにしないまま応答を避ける対応が最も対処しにくいものです。

4 最初に行う3つの作業

4-1 登記事項証明書の取得

退任の年月日、退任の事由、在任期間、役位の変遷を確定させます。あわせて、他の役員の異動の状況、本店の所在地の変更、資本金の額の変動、会社の目的の変更なども確認します。これらは、会社の状況の変化を読み取る手掛かりとなります。

4-2 支給の根拠となる資料の確認

役員退職慰労金支給規程の写しが手元にあるかを確認します。手元にない場合には、会社に対して開示を求めます。規程は登記事項ではなく、公的に確認する方法がありませんので、入手が最初の課題となることが多いといえます。

あわせて、支給に関する書面(覚書、念書、往復の書簡、電子メール)、過去の他の役員に対する支給の実績に関する資料を確認します。

4-3 書面による請求

会社に対し、書面により、株主総会における決議及び支払を求めます。あわせて、支給規程の開示、過去の支給実績の開示、支給しない場合にはその理由の説明を求めます。

この書面は、催告として時効の完成猶予の効果を生じます(民法第150条第1項)。猶予の期間は6か月にとどまり、催告を繰り返しても重ねて猶予の効果は生じません(同条第2項)。

5 元役員が株主でもある場合

退任した役員が同時に株主でもある場合には、株主としての権利を用いることができます。総株主の議決権の100分の3以上の議決権を6か月前から引き続き有する株主は、取締役に対し、会議の目的である事項及び招集の理由を示して、株主総会の招集を請求することができます(会社法第297条第1項。公開会社でない株式会社については、6か月の保有期間の要件は課されません。同条第2項)。請求の後、遅滞なく招集の手続が行われない場合等には、裁判所の許可を得て自ら招集することができます(同条第4項)。

また、株主として、株主総会議事録の閲覧謄写(会社法第318条第4項)、計算書類等の閲覧謄写(会社法第442条第3項)、会計帳簿等の閲覧謄写(会社法第433条第1項)を請求することができます。会社の説明の当否を検証するための資料は、これらの手続によって入手することになります。

6 元役員が株主でない場合

株式を保有していない場合には、株主としての権利を用いることができません。この場合には、次の手段が中心となります。

手段 内容 根拠
債権者としての計算書類等の閲覧 退職慰労金の債権者としての地位を主張して請求します 会社法第442条第3項
登記事項証明書の取得 誰でも交付を請求することができます 商業登記の制度によります
不動産の登記事項証明書の取得 会社が所有する不動産の状況を確認します 不動産登記の制度によります
弁護士会を通じた照会 第三者が保有する情報について照会を行います 弁護士法第23条の2
文書提出命令の申立て 訴訟において会社が保有する文書の提出を求めます 民事訴訟法第219条から第223条まで

債権者としての閲覧の請求については、会社が債権の存在自体を争う場合には、その点も争いとなり得ます。もっとも、請求を行った事実自体が、会社に対して手続を進めるよう促す効果を持つことがあります。

7 消滅時効の管理

債権は、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき、又は権利を行使することができる時から10年間行使しないときに、時効によって消滅します(民法第166条第1項)。

退任の登記から年数が経過している事案では、起算点の考え方が争点となります。決議がされていない以上、権利を行使することができる状態が到来していないと主張し得る余地がある一方、会社側は退任の時を起算点として主張することが想定されます。

「次の総会で決める」という説明を受けたまま待っている間に年数が経過するという経過は、この類型において最も多く見られるものです。会社の説明を待つ姿勢は、時効との関係で不利に働き得ますので、書面による請求と記録の保存を並行して行う必要があります。

8 案件で確認すべき事項

番号 確認事項 確認の方法
1 退任の年月日及び退任の事由 登記事項証明書
2 登記の申請がいつ行われたか 登記事項証明書の記載
3 退任に際して署名した書面の内容 辞任届等の写し
4 役員退職慰労金支給規程の有無及び内容 規程の写し、会社への開示の求め
5 支給に関する約束を示す書面の有無 覚書、念書、電子メール
6 退任後の株主総会の開催状況及び議題 招集通知、株主総会議事録
7 過去の他の役員に対する支給の実績 計算書類、社内の記録
8 会社が支給しない理由として述べた内容 電子メール、書面、面談の記録
9 元役員が株主であるか及び議決権の割合 株主名簿、法人税申告書別表二
10 退任からの経過期間 登記事項証明書

9 弁護士にご相談いただく意味

この類型では、会社が明確に拒絶しているわけではなく、応答を避けているだけという状態が続くことが多くあります。争いが表面化していないため、時間だけが経過しやすいことが最大の危険です。

弁護士は、元役員の代理人として、事実関係の確定、会社に対する書面による請求及び資料の開示の求め、会社法上の各種の閲覧謄写の請求、消滅時効の管理及び完成猶予の措置、訴訟その他の裁判所の手続の遂行を行います。代理人からの書面が届くことにより、会社が理由を明らかにせざるを得なくなる場面もあります。

よくあるご質問

質問1 退任の登記がされていれば、退職慰労金は当然に支払われるのですか。

退職慰労金の支給は登記事項ではありませんので、登記の完了によって支給の義務が生じるものではありません。定款の定め又は株主総会の決議、支給規程、支給の慣行のいずれを根拠とするかを検討することになります。

質問2 登記に署名したことが不利に働きますか。

退任すること自体に争いがないのであれば、登記への協力が直ちに不利に働くものではありません。もっとも、退任に際して署名した書面の中に、金銭の清算が済んだ旨の記載が含まれている場合には、その効力が争点となり得ます。書面の写しを確認することが重要です。

質問3 会社が理由を言わずに応答しません。どうすればよいですか。

書面により、支給しない場合はその理由を明らかにするよう求めることが考えられます。応答がない場合には、資料の入手のための手続及び訴訟の提起を検討することになります。

質問4 退任してから何年も経ちました。今からでも間に合いますか。

起算点の考え方により結論が分かれます。決議がされていない事案では、請求できる余地がありますので、経緯を整理したうえで早期に御相談いただくことをお勧めいたします。

質問5 会社の役員は親族です。話し合いで済ませたいのですが。

協議による解決を目指すこと自体は差し支えありません。ただし、協議が続いている間も時効は進行し得ますので、協議を行う旨の書面による合意(民法第151条)などの措置を検討しておく必要があります。

本記事における非開示事項について

会社が応答を避けている段階における請求の順序及び時期の選択、資料の開示を求める方法、会社の反論に応じた主張の組み替え方は、株主構成、機関設計、財務状況、従前の経緯等により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開しておりません。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、役員退職慰労金の未払に関するご相談をお受けしております。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、この分野に精通していることから当該分野を取り扱っております。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)
  • ご相談は事前予約制です

ご相談に際しましては、登記事項証明書、退任に際して署名した書面の写し、役員退職慰労金支給規程の写し、退任前の報酬額が分かる資料、会社との往復の書面をお持ちください。お手元になくてもご相談をお受けしております。課税関係については税理士にご確認ください。

弁護士費用につきましては、弁護士費用一覧のページをご覧ください。

本記事の根拠条文

会社法 第297条第1項・第2項・第4項(株主による株主総会の招集の請求)、第318条第4項(株主総会議事録の閲覧謄写)、第361条第1項(取締役の報酬等)、第433条第1項(会計帳簿等の閲覧謄写の請求)、第442条第3項(計算書類等の閲覧等)、第908条第1項(登記の効力)、第915条第1項(変更の登記)

民法 第147条第1項(裁判上の請求等による時効の完成猶予)、第150条第1項・第2項(催告による時効の完成猶予)、第151条(協議を行う旨の合意による時効の完成猶予)、第152条第1項(承認による時効の更新)、第166条第1項(債権等の消滅時効)

民事訴訟法 第219条から第223条まで(書証及び文書提出命令)

弁護士法 第23条の2(報告の請求)

判例法理による部分 役員退職慰労金が会社法第361条第1項の報酬等に含まれること、及び定款の定め又は株主総会の決議がない場合の請求の可否については、判例法理によります。個別の事案における適用は、決議の文言及び支給基準の内容により異なります。

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