受給権者の定めがある場合の相続財産該当性
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 記事番号 | RL27(受給権者の定めと相続財産該当性。周辺記事・専門解説記事) |
| 表題 | 受給権者の定めがある場合の相続財産該当性 |
| スラッグ | jukyu-kensha-sadame-souzoku-zaisan |
| 想定ディレクトリ | /archives/jukyu-kensha-sadame-souzoku-zaisan/ |
| 主キーワード | 死亡退職慰労金 受給権者 相続財産 |
| 検索意図 | 支給規程に受給権者の定めがある場合、死亡退職慰労金が相続財産となるのかを知りたい |
| 送客先ランディングページ | 3-7 亡くなった役員の遺族が退職慰労金と弔慰金の支払を断られてお困りではありませんか(/shibo_taishoku_izoku/。主) |
| 作成年月日 | 令和8年8月19日 |
| 版 | 第1版(v01) |
| メタディスクリプション | 支給規程に受給権者の定めがある場合の死亡退職慰労金の相続財産該当性について、固有の権利と解される場合の考え方、規程の文言の読み方、相続放棄及び遺産分割との関係、相続人間で争いとなる場合の整理を述べます。 |
受給権者の定めがある場合の相続財産該当性
役員退職慰労金支給規程に、死亡した場合の支給を受ける者(受給権者)の範囲及び順位が定められていることがあります。この定めがある場合、死亡退職慰労金が相続財産となるのか、それとも受給権者が固有の権利として取得するのかが問題となります。この区別は、誰が請求できるか、相続放棄をした者が請求できるか、遺産分割の対象となるかといった点に影響します。本記事では、支払を求める側の御遺族に向けて、この論点を整理します。
1 結論 規程の定めの内容により結論が分かれます
| 考え方 | 内容 | 結論 |
|---|---|---|
| 相続財産と解する場合 | 被相続人に帰属していた権利が相続により承継される | 相続人が相続分に応じて取得します(民法第896条) |
| 固有の権利と解する場合 | 規程が定める受給権者が、自らの権利として原始的に取得する | 相続財産とはならないと解される余地があります |
いずれと解されるかは、規程の定めの内容、支給の趣旨、実際の運用に照らして判断されます。受給権者の範囲及び順位が民法の定める法定相続人の順位と異なる定め方をされている場合には、規程が独自の受給権者を定めたものとして、固有の権利と解する余地が大きくなります。
2 規程の文言の読み方
| 着眼点 | 固有の権利と解する方向に働く定め | 相続財産と解する方向に働く定め |
|---|---|---|
| 受給権者の範囲 | 配偶者を第1順位とするなど、独自の順位が定められている | 「相続人」とのみ記載されている |
| 順位の定め | 配偶者、子、父母等の順位が具体的に定められている | 法定相続分によるとされている |
| 内縁関係の扱い | 婚姻の届出をしていない者を含める旨の定めがある | 言及がない |
| 生計維持の要件 | 生計を同じくしていた者に限る旨の定めがある | 言及がない |
| 支給の趣旨 | 遺族の生活の安定を図る旨が記載されている | 在任中の功労に報いる旨のみが記載されている |
とりわけ、内縁関係にある者を受給権者に含める定めや、生計を同じくしていたことを要件とする定めが置かれている場合には、規程が相続とは別個の基準により受給権者を定めたものと理解されやすくなります。
3 規程がない場合又は決議で定められる場合
支給規程がなく、株主総会の決議において支給の相手方が個別に定められる場合があります。この場合には、決議の内容を確認することになります。
決議において「亡くなった役員の配偶者に支給する」といった形で相手方が特定されている場合には、当該配偶者が固有の権利として取得すると解する余地があります。他方、「亡くなった役員に対して支給する」という形の決議であれば、相続財産となるという理解に親しみます。
4 区別が影響する場面
| 場面 | 相続財産と解する場合 | 固有の権利と解する場合 |
|---|---|---|
| 請求できる者 | 相続人が相続分に応じて請求します | 規程が定める受給権者が全額を請求します |
| 相続放棄をした者 | 請求できません(民法第939条) | 請求し得る余地があります |
| 遺産分割 | 対象となり得ます | 対象とならないと解される余地があります |
| 相続人以外の受給権者 | 請求できません | 規程の定めにより請求し得ます |
| 被相続人の債権者 | 相続財産として引当てとなり得ます | 受給権者固有の財産となります |
| 遺言の効力 | 遺言の対象となり得ます | 遺言の対象とならないと解される余地があります |
実務上、この区別が最も鮮明に現れるのが、相続人が相続放棄をしている事案です。被相続人に多額の債務があり相続放棄をしたものの、死亡退職慰労金は受け取りたいという場合、固有の権利と解されるかどうかが結論を左右します。
5 相続人間で争いとなる場合
受給権者の定めにより特定の相続人のみが受給権者となる場合、他の相続人との間で争いが生じることがあります。例えば、配偶者が第1順位の受給権者とされている一方、子が「相続財産であるから相続分に応じて分けるべきである」と主張する場合です。
この場合、次の点を整理して検討することになります。
| 整理すべき事項 | 内容 |
|---|---|
| 規程の定めの内容 | 受給権者の範囲及び順位がどのように定められているか |
| 規程の趣旨 | 遺族の生活の安定を図る趣旨が読み取れるか |
| 過去の運用 | 過去に死亡した役員についてどのように取り扱われたか |
| 会社の認識 | 会社が誰に支給するものと理解しているか |
| 金額の大きさ | 相続財産全体に占める割合が大きいか |
会社としては、誰に支払うべきかが確定しなければ支払うことができないという立場を採ることがあります。この場合、争いが解決するまで支払が留保されることになりますので、相続人間の調整を先に進める必要が生じます。
6 会社が支払を留保する場合の対応
相続人間に争いがあることを理由に会社が支払を留保する場合、次の対応が考えられます。
| 対応 | 内容 | 留意点 |
|---|---|---|
| 規程の定めの指摘 | 受給権者が特定されている旨を示して支払を求めます | 規程の写しの提示が必要です |
| 相続人全員の合意 | 受領する者を定める合意書を作成します | 全員の協力が必要です |
| 訴訟の提起 | 会社を被告として支払を求めます | 他の相続人の関与の要否を検討します |
| 供託への対応 | 会社が供託した場合には還付の手続を検討します | 供託の原因により手続が異なります |
会社が債権者を確知することができないとして供託を行う場合があります。この場合には、供託の原因を確認したうえで、還付を受けるための手続を検討することになります。
7 資料の入手
| 資料 | 入手の手段 | 根拠 |
|---|---|---|
| 役員退職慰労金支給規程 | 会社に開示を求めます | 会社の任意の対応によります |
| 株主総会議事録 | 株主又は債権者として閲覧謄写を請求します | 会社法第318条第4項 |
| 計算書類等 | 株主又は債権者として閲覧謄写を請求します | 会社法第442条第3項 |
| 過去の支給に関する記録 | 訴訟において文書提出命令の申立てを行います | 民事訴訟法第219条から第223条まで |
8 消滅時効
債権は、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき、又は権利を行使することができる時から10年間行使しないときに、時効によって消滅します(民法第166条第1項)。相続人間の争いが続いている間も時効は進行しますので、会社に対する請求は別途行っておく必要があります。
9 案件で確認すべき事項
| 番号 | 確認事項 | 確認の方法 |
|---|---|---|
| 1 | 役員退職慰労金支給規程における受給権者の定め | 規程の写し |
| 2 | 受給権者の範囲及び順位の具体的な内容 | 規程の写し |
| 3 | 生計維持又は内縁関係に関する定めの有無 | 規程の写し |
| 4 | 規程に記載された支給の趣旨 | 規程の写し |
| 5 | 株主総会の決議の内容及び支給の相手方の記載 | 株主総会議事録 |
| 6 | 相続人の範囲及び相続放棄の有無 | 戸籍、家庭裁判所への照会 |
| 7 | 遺言の有無及び内容 | 遺言書、検認の記録 |
| 8 | 過去に死亡した役員についての取扱い | 計算書類、社内の記録 |
| 9 | 会社が支払を留保している理由 | 会社への書面による求め |
| 10 | 死亡からの経過期間 | 戸籍 |
10 弁護士にご相談いただく意味
この論点は、規程の文言の読み方によって結論が変わる性質のものです。同じ「受給権者」という語が用いられていても、範囲及び順位の定め方によって理解が異なります。また、相続人間の利害が対立する場面では、いずれの立場に立つかによって主張すべき内容が正反対となります。
弁護士は、御遺族の代理人として、規程の入手及び精査、受給権者の確定に関する主張の組み立て、会社に対する請求及び資料の開示の求め、会社法上の各種の閲覧謄写の請求、相続人間の調整、消滅時効の管理及び完成猶予の措置、訴訟その他の裁判所の手続の遂行を行います。なお、相続税その他の課税関係については税理士に御確認ください。
よくあるご質問
質問1 規程に「配偶者に支給する」とあります。私が全額を受け取れますか。
固有の権利と解される場合には全額を請求し得ます。規程の定め方及び支給の趣旨により判断されますので、規程全体を確認したうえで検討することになります。
質問2 相続放棄をしました。死亡退職慰労金は受け取れませんか。
相続財産となる場合には受け取ることができません。他方、受給権者の定めにより固有の権利として取得すると解される場合には、受け取り得る余地があります。
質問3 他の相続人が分けるよう求めてきました。
規程の定めの内容により結論が異なります。固有の権利と解される場合には遺産分割の対象とならないと解される余地がありますので、規程を確認したうえで検討することになります。
質問4 会社が誰に払えばよいか分からないと言っています。
規程の定めを示して支払を求めるほか、相続人全員で受領する者を定める合意書を作成する方法もあります。会社が供託した場合には還付の手続を検討します。
質問5 規程がない会社です。どうなりますか。
株主総会の決議の内容により判断されることになります。支給の相手方が個別に特定されている場合には、固有の権利と解する余地があります。
本記事における非開示事項について
規程の文言に即した主張の立て方、相続人間の調整の進め方、会社が支払を留保する場合の対応の順序は、株主構成、機関設計、財務状況、従前の経緯等により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開しておりません。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、役員退職慰労金の未払に関するご相談をお受けしております。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、この分野に精通していることから当該分野を取り扱っております。
- 電話番号 03-6435-8418
- 受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)
- ご相談は事前予約制です
ご相談に際しましては、被相続人及び相続人の戸籍、登記事項証明書、役員退職慰労金支給規程の写し、株主総会議事録の写し、会社との往復の書面をお持ちください。お手元になくてもご相談をお受けしております。課税関係については税理士にご確認ください。
弁護士費用につきましては、弁護士費用一覧のページをご覧ください。
本記事の根拠条文
会社法 第318条第4項(株主総会議事録の閲覧謄写)、第361条第1項(取締役の報酬等)、第387条第1項(監査役の報酬等)、第442条第3項(計算書類等の閲覧等)
民法 第147条第1項(裁判上の請求等による時効の完成猶予)、第150条第1項(催告による時効の完成猶予)、第166条第1項(債権等の消滅時効)、第896条(相続の一般的効力)、第898条(共同相続の効力)、第900条(法定相続分)、第907条(遺産の分割の協議又は審判)、第939条(相続の放棄の効力)
民事訴訟法 第219条から第223条まで(書証及び文書提出命令)
判例法理による部分 役員退職慰労金が会社法第361条第1項の報酬等に含まれることについては、判例法理によります。受給権者の定めがある場合に当該権利が受給権者固有のものと解されるかは、規程の定め及び支給の趣旨に照らし、個別の事案ごとに判断されます。
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