過去の支給実績が請求の根拠となる場合
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 記事番号 | RL08(支給実績による請求。周辺記事・専門解説記事) |
| 表題 | 過去の支給実績が請求の根拠となる場合 |
| スラッグ | kako-shikyu-jisseki-konkyo |
| 想定ディレクトリ | /archives/kako-shikyu-jisseki-konkyo/ |
| 主キーワード | 役員退職慰労金 支給実績 慣行 |
| 検索意図 | 支給規程がない会社で、過去に他の役員へ支給された実績を根拠に退職慰労金を請求できるかを知りたい |
| 送客先ランディングページ | 3-2 役員退職慰労金の支給規程があるのに会社が支払わずお困りではありませんか(/shikyu_kitei_ari_mibarai/。主) |
| 作成年月日 | 令和8年8月19日 |
| 版 | 第1版(v01) |
| メタディスクリプション | 役員退職慰労金支給規程がない会社において、過去の支給実績を根拠として請求を組み立てる方法について、支給の慣行が認められるための要素、実績の調べ方、会社側の反論とその検討、資料の入手手段、消滅時効の注意点を整理します。 |
過去の支給実績が請求の根拠となる場合
「規程はありませんが、先代の役員には皆さん退職慰労金が出ていました」。中小の会社では、明文の支給規程を持たないまま、慣行として役員退職慰労金の支給を続けてきた例が多く見られます。この場合、退任した役員は、過去の支給実績を根拠として請求を組み立てることになります。本記事では、支払を求める側の元役員及びその御遺族に向けて、支給実績をどのように位置付け、どのように立証するかを整理します。
1 結論 実績の積み重ねを「基準の存在」として示す作業となります
取締役の報酬等は、定款にその額を定めていないときは、株主総会の決議によって定めなければならないとされています(会社法第361条第1項)。役員退職慰労金は、在任中の職務執行の対価としての性質を有すると解されており、同項の報酬等に含まれるものとして扱われています。この点は判例法理によります。
支給規程がない会社では、この決議の内容が「支給基準に従って取締役会に一任する」という形で示されることがあります。ここでいう支給基準は、明文の規程に限られず、会社において確立した支給の慣行がこれに当たると評価される余地があります。
したがって、支払を求める側の作業は、過去の支給の事実を集め、それが偶発的なものではなく、一定の基準に従った継続的な取扱いであったことを示すことにあります。
| 示すべき事項 | 用いる資料 |
|---|---|
| 過去に複数の役員へ支給された事実 | 計算書類、勘定科目内訳明細書、株主総会議事録 |
| 支給の額に一定の規則性があること | 各役員の在任期間、役位、退任時の報酬額との対比 |
| 支給が例外的な扱いでなかったこと | 退任した役員のうち支給を受けた者の割合 |
| 会社が支給を当然の取扱いと認識していたこと | 社内の説明資料、関係者の陳述、往復の書面 |
2 支給の慣行が認められやすい事情と認められにくい事情
| 認められやすい事情 | 認められにくい事情 |
|---|---|
| 複数の役員に対して継続的に支給されている | 支給を受けた役員が1名にとどまる |
| 支給額が在任期間及び役位に対応している | 支給額に規則性がなく、その都度決められている |
| 支給の都度、株主総会の決議が行われている | 決議を経ずに支払われた例が混在している |
| 創業家以外の役員にも支給されている | 創業家の役員に限って支給されている |
| 相当の期間にわたり取扱いが継続している | 直近の数年間は支給が行われていない |
もっとも、これらは事実上の評価要素であり、いずれか一つで結論が決まるものではありません。認められにくい事情がある場合でも、他の根拠と併せて主張することにより、全体として請求が認められる余地はあります。
3 支給実績をどのように調べるか
3-1 計算書類及びその附属明細書
役員退職慰労金の支給は、計算書類において費用として計上されます。株主又は債権者は、計算書類等について閲覧謄写を請求することができます(会社法第442条第3項)。年度ごとの計上額を確認することにより、支給の有無及び金額の水準を把握することができます。
また、法人税の申告書に添付される勘定科目内訳明細書には、支払の相手方が記載されている場合があります。会社が保有する資料ですので、開示を求めるか、訴訟において文書提出命令の申立てを行うことを検討します(民事訴訟法第219条から第223条まで)。
3-2 株主総会議事録
支給の都度、株主総会の決議が行われている会社では、議事録に支給の議案及び決議の結果が記載されています。株主又は債権者として閲覧謄写を請求することができます(会社法第318条第4項)。
議事録の記載から、支給の対象となった役員、金額又は算定の方法、取締役会への一任の有無を読み取ることができます。同一の文言が繰り返し用いられている場合には、取扱いが定型化していたことを示す資料となります。
3-3 会計帳簿等
総株主の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主等は、会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧謄写を請求することができます(会社法第433条第1項)。請求に際しては理由を明らかにする必要があり、会社が拒むことができる場合も定められています。株主でもある元役員は、この手続を用いる余地があります。
3-4 関係者からの事情の聴取
過去に支給を受けた元役員、当時の経理の担当者、顧問の税理士等が、支給の経緯を知っていることがあります。もっとも、現在も会社と関係を有する者に対する接触は慎重に行う必要がありますので、進め方については個別に検討することになります。
4 会社側から出される反論
| 会社側の反論 | 検討の視点 |
|---|---|
| 過去の支給は個別の事情による恩恵的なものである | 複数年にわたる継続性と金額の規則性を示します |
| 創業者に限った特別の扱いであった | 創業家以外の役員への支給の有無を確認します |
| 業績が良好であった時期の取扱いにすぎない | 支給の判断に業績が条件とされていたかを確認します |
| 今回は決議がされていない | 決議を求める手続と並行して主張します |
| 基準が存在しないので金額を算定できない | 過去の実績と在任期間及び役位との対応を示します |
これらの反論のうち、実務上多いのは「恩恵的なものであった」という主張です。これに対しては、支給が単発ではなく継続していたこと、金額が在任期間及び役位と対応していたこと、支給を受けなかった退任役員が存在しないことを示すことになります。
5 金額の主張の組み立て
過去の実績を根拠とする場合、金額の主張は、実績から読み取られる算定方法に当てはめて行うことになります。一般には、退任時の月額報酬に在任年数及び役位に応じた倍率を乗じる方法が用いられることが多いといえます。もっとも、具体的な倍率は会社ごとに異なりますので、実績から逆算して確認する作業が必要となります。
| 作業 | 内容 |
|---|---|
| 第1 | 過去に支給を受けた役員ごとに、退任時の役位、在任年数、支給額を整理します |
| 第2 | 退任時の月額報酬が判明する場合には、支給額との比を算出します |
| 第3 | 役位ごとに比の水準が揃っているかを確認します |
| 第4 | 揃っている場合には、同じ方法を自らの在任期間及び役位に当てはめます |
| 第5 | 揃っていない場合には、最も近い立場の役員との均衡を主張します |
6 消滅時効の注意点
債権は、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき、又は権利を行使することができる時から10年間行使しないときに、時効によって消滅します(民法第166条第1項)。
支給実績を根拠とする事案では、資料の収集に時間を要することが通例です。資料が揃うのを待っている間に時効期間が経過することのないよう、催告(民法第150条第1項)、協議を行う旨の書面による合意(民法第151条)、裁判上の請求(民法第147条第1項)といった手段を検討しておく必要があります。
7 案件で確認すべき事項
| 番号 | 確認事項 | 確認の方法 |
|---|---|---|
| 1 | 過去に退任した役員の氏名及び退任の年月日 | 登記事項証明書 |
| 2 | 各役員に対する支給の有無及び金額 | 計算書類、勘定科目内訳明細書、社内の記録 |
| 3 | 支給の都度の株主総会の決議の有無 | 株主総会議事録 |
| 4 | 支給の議案の文言の同一性 | 株主総会議事録 |
| 5 | 各役員の在任年数及び役位 | 登記事項証明書 |
| 6 | 各役員の退任時の月額報酬 | 会社の記録、関係者の記憶 |
| 7 | 支給を受けなかった退任役員の有無及びその事情 | 関係者からの聴取 |
| 8 | 会社の業績と支給の有無との対応関係 | 計算書類 |
| 9 | 元役員が株主であるか及び議決権の割合 | 株主名簿、法人税申告書別表二 |
| 10 | 退任からの経過期間 | 登記事項証明書 |
8 弁護士にご相談いただく意味
支給実績を根拠とする主張は、資料の量と整理の仕方によって説得力が大きく変わります。断片的な記憶を並べるのではなく、年度ごと、役員ごとに整理した表として示すことが要点となります。
弁護士は、元役員の代理人として、会社に対する資料の開示の求め、会社法上の各種の閲覧謄写の請求、弁護士会を通じた照会(弁護士法第23条の2)、訴訟における文書提出命令の申立て、消滅時効の管理及び完成猶予の措置、訴訟その他の裁判所の手続の遂行を行います。
よくあるご質問
質問1 支給規程がなくても請求できますか。
規程がない場合であっても、過去の支給実績から支給の基準が確立していたと認められる余地があります。実績の内容及び継続性により結論が異なりますので、資料の確認から始めることになります。
質問2 過去の支給が1件しかありません。それでも根拠となりますか。
1件のみでは慣行として確立していたと認められにくい傾向があります。もっとも、当該1件の経緯や、支給の際に会社が示した説明の内容によっては、主張の材料となる余地があります。
質問3 他の役員の支給額を知る方法はありますか。
計算書類等の閲覧謄写の請求(会社法第442条第3項)、株主総会議事録の閲覧謄写の請求(会社法第318条第4項)、株主としての会計帳簿等の閲覧謄写の請求(会社法第433条第1項)、訴訟における文書提出命令の申立てなどが考えられます。
質問4 会社が資料を出しません。どうすればよいですか。
法律上の請求権に基づく閲覧謄写の手続を用いるほか、訴訟を提起したうえで文書提出命令の申立てを行うことが考えられます。手元の資料が乏しい段階で訴訟を提起することの当否は、個別に検討する必要があります。
質問5 金額をいくらで請求すればよいのか分かりません。
過去の実績から算定方法を読み取り、これを自らの在任期間及び役位に当てはめる方法が中心となります。実績が乏しい場合には、在任期間、役位、功績の内容を踏まえた主張を組み立てることになります。
本記事における非開示事項について
支給実績の整理の方法及び提示の順序、資料の開示を求める手順、会社の反論に応じた主張の組み替え方は、株主構成、機関設計、財務状況、従前の経緯等により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開しておりません。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、役員退職慰労金の未払に関するご相談をお受けしております。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、この分野に精通していることから当該分野を取り扱っております。
- 電話番号 03-6435-8418
- 受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)
- ご相談は事前予約制です
ご相談に際しましては、登記事項証明書、株主総会議事録の写し、計算書類の写し、退任前の報酬額が分かる資料、過去の支給に関する記録、会社との往復の書面をお持ちください。お手元になくてもご相談をお受けしております。課税関係については税理士にご確認ください。
弁護士費用につきましては、弁護士費用一覧のページをご覧ください。
本記事の根拠条文
会社法 第318条第4項(株主総会議事録の閲覧謄写)、第361条第1項(取締役の報酬等)、第433条第1項(会計帳簿等の閲覧謄写の請求)、第442条第3項(計算書類等の閲覧等)
民法 第147条第1項(裁判上の請求等による時効の完成猶予)、第150条第1項(催告による時効の完成猶予)、第151条(協議を行う旨の合意による時効の完成猶予)、第166条第1項(債権等の消滅時効)
民事訴訟法 第219条から第223条まで(書証及び文書提出命令)
弁護士法 第23条の2(報告の請求)
判例法理による部分 役員退職慰労金が会社法第361条第1項の報酬等に含まれること、及び支給基準に従うことを前提とする一任決議の効力については、判例法理によります。支給の慣行が支給基準に当たると評価されるかは、実績の内容及び継続性により、個別の事案ごとに判断されます。
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