監査役の退職慰労金の決め方が取締役と異なる理由

項目 内容
記事番号 RL28(監査役の退職慰労金。巨大記事・中核柱記事)
表題 監査役の退職慰労金の決め方が取締役と異なる理由
スラッグ kansayaku-taishokuirokin-kettei-tetsuzuki
想定ディレクトリ /archives/kansayaku-taishokuirokin-kettei-tetsuzuki/
主キーワード 監査役 退職慰労金 決め方
検索意図 監査役を退任したが退職慰労金が支払われず、取締役と手続が異なる理由と請求の方法を知りたい
送客先ランディングページ 3-8 監査役を退任したのに退職慰労金が支払われずお困りではありませんか(/kansayaku_taishokukin/。主)
作成年月日 令和8年8月19日
第1版(v01)
メタディスクリプション 監査役の退職慰労金は、取締役とは異なり会社法第387条を根拠として定められます。定款又は株主総会の決議による決定、監査役が2人以上ある場合の協議、取締役会への一任が認められないと解される理由、意見を述べる権利、支給規程の扱い、請求の手順を整理します。

監査役の退職慰労金の決め方が取締役と異なる理由

監査役の退職慰労金は、取締役の退職慰労金とは別の条文を根拠として定められます。取締役の報酬等が会社法第361条第1項によるのに対し、監査役の報酬等は会社法第387条第1項によります。この違いは、単なる条文番号の違いにとどまらず、誰が金額を決めるのか、取締役会に一任することができるのか、決議がされない場合に何を主張できるのかという点にまで及びます。本記事では、支払を求める側の元監査役及びその御遺族に向けて、この違いの内容と、請求において何を確認すべきかを整理します。

1 結論 根拠条文が異なり、決定の主体も異なります

比較の観点 取締役 監査役
報酬等の根拠条文 会社法第361条第1項 会社法第387条第1項
定め方 定款又は株主総会の決議 定款又は株主総会の決議
各人への配分の決定 取締役会又は代表取締役への一任が行われることがあります 監査役が2人以上ある場合は監査役の協議によります(会社法第387条第2項)
取締役会への一任 支給基準を前提とする一任は判例法理により有効と解される場合があります 監査役の独立性の確保の趣旨から認められないと解されています
株主総会での意見の陳述 監査役は報酬等について意見を述べることができます(会社法第387条第3項)
枠の設定 取締役の報酬等の総額として決議されます 取締役とは別枠で決議する必要があります

監査役の報酬等は、取締役から独立して定められなければならないという考え方が、会社法第387条の全体を貫いています。監査役は取締役の職務の執行を監査する立場にあり(会社法第381条第1項)、その報酬等を監査される側である取締役が決めることができるとすれば、監査の実効性が損なわれるためです。

この趣旨は、退職慰労金の場面でも同じように働きます。したがって、会社が「取締役会に一任されているので金額が決まらない」と説明する場合、その説明が監査役についても当てはまるのかを、まず疑う必要があります。

2 監査役の報酬等に関する会社法の定め

2-1 定款又は株主総会の決議により定めます

監査役の報酬等は、定款にその額を定めていないときは、株主総会の決議によって定めるものとされています(会社法第387条第1項)。ここでいう報酬等とは、報酬、賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益をいいます。

実務上、定款に監査役の報酬額を定めている会社はまれであり、株主総会の決議によって総額の上限を定める方法が採られていることが一般的です。したがって、請求に当たっては、過去の株主総会において監査役の報酬等の総額がどのように決議されてきたかを確認することになります。

2-2 監査役が2人以上ある場合の協議

監査役が2人以上ある場合において、各監査役の報酬等について定款の定め又は株主総会の決議がないときは、当該報酬等は、定款又は株主総会の決議による報酬等の総額の範囲内において、監査役の協議によって定めるものとされています(会社法第387条第2項)。

この点は、取締役の場合と大きく異なります。取締役においては、総額の枠の範囲内での各人への配分を取締役会又は代表取締役に一任する取扱いが広く行われております。これに対し、監査役においては、配分を決めるのは監査役自身であり、取締役の側ではありません。

したがって、監査役を退任した方が退職慰労金の支払を求める場面では、「監査役の協議が行われたか」「行われたとすればその内容はどのようなものか」が確認すべき事項となります。協議の結果は、監査役会が置かれている会社では監査役会の議事録に、置かれていない会社では協議書その他の書面に残されていることがあります。

2-3 株主総会において意見を述べる権利

監査役は、株主総会において、監査役の報酬等について意見を述べることができるものとされています(会社法第387条第3項)。この権利は、報酬等の額が不当に低く抑えられることによって監査役の地位の独立性が損なわれることを防ぐために認められているものです。

退任の直前に、退職慰労金の議案が上程されない、あるいは金額が著しく低く提案されるという事態が生じている場合、この権利の行使が、後の請求における事実関係の記録として意味を持つことがあります。

3 退職慰労金が報酬等に含まれること

退職慰労金は、在職中の職務執行の対価として支給されるものである限り、会社法にいう報酬等に含まれるものと解されています。取締役については会社法第361条第1項の報酬等として、監査役については会社法第387条第1項の報酬等として、それぞれ扱われます。

この帰結として、監査役の退職慰労金についても、定款の定め又は株主総会の決議がなければ、具体的な請求権は発生しないという整理がされます。会社が任意に支払わない場合に、単に「長年務めたのだから当然に支払われるべきである」という主張のみでは足りないのは、このためです。

もっとも、決議がされていないことは、請求が直ちに成り立たないことを意味するものではありません。支給規程が存在する場合、過去に退任した監査役に対する支給の実績がある場合、会社が支払を約束していた場合など、決議を求め、あるいは決議を経ずとも請求を組み立てる余地がある場面があります。

4 取締役会への一任が認められないと解される理由

取締役の退職慰労金については、株主総会が支給の基準を示したうえで具体的な金額の決定を取締役会に一任する決議が、一定の要件の下で有効と解されており、この点は判例法理によります。実務上も、この方式が広く用いられています。

これに対し、監査役の報酬等については、会社法第387条第2項が監査役の協議によることを明文で定めていることから、取締役会への一任は認められないと解されています。監査役の報酬等の決定を取締役の側に委ねることは、監査役の独立性を害するためです。

したがって、会社が監査役の退職慰労金について「取締役会に一任されているが、取締役会が金額を決めていない」と説明する場合、その前提となる一任決議自体の効力を検討することになります。会社の説明を鵜呑みにせず、株主総会議事録の記載を確認する必要があります。

5 取締役の報酬等と区別して決議する必要があること

監査役の報酬等は、取締役の報酬等とは別に定めなければならないものと解されています。株主総会において「役員の報酬等の総額」として一括して決議されているにすぎない場合、監査役の報酬等について適法な決議がされたといえるかが問題となり得ます。

退職慰労金の場面でも同様であり、「役員退職慰労金贈呈の件」という議案が、取締役と監査役とを区別せずに一括して上程されている場合には、その決議の効力及び監査役に対する支給の枠がどの範囲で定まったのかを検討する必要があります。

実際の議事録には、取締役分と監査役分とを分けて記載しているものと、区別せずに記載しているものとがあります。この記載の違いが、後の請求における主張の組み立てに影響します。

6 支給規程がある場合とない場合

6-1 支給規程がある場合

役員退職慰労金の支給規程が存在し、監査役もその適用の対象とされている場合には、支給の基準が客観的に定まっていることになります。この場合、支給規程の内容、制定又は改廃の経緯、過去の適用の実績を確認することが出発点となります。

支給規程は、株主総会の決議を経て制定されているものと、取締役会の決議のみで制定されているものとがあります。いずれであるかにより、規程の位置付けが異なりますので、制定の経緯を確認する必要があります。

6-2 支給規程がない場合

支給規程が存在しない場合には、過去に退任した監査役に対する支給の実績、在任期間、報酬の額、退任の経緯などから、支給の慣行が形成されていたかどうかを検討することになります。慣行の存在が認められるかは事案により異なりますので、断定はできませんが、主張を組み立てる余地があります。

7 請求の手順

順序 作業 確認する事項
1 登記事項証明書の取得 機関設計、監査役の就任及び退任の年月日
2 定款の写しの確認 監査役の報酬等に関する定めの有無、会計監査に限定する定めの有無
3 株主総会議事録の閲覧謄写 監査役の報酬等の総額の決議、退職慰労金の議案の有無
4 監査役の協議に関する記録の確認 協議の有無及び内容(会社法第387条第2項)
5 支給規程の入手 適用の対象、算定の方法、支給の時期
6 過去の支給の実績の把握 他の監査役に対する支給の有無及び水準
7 請求書面の送付 根拠、金額の算定過程、回答の期限
8 時効の管理 催告、協議を行う旨の合意、訴えの提起

株主総会議事録は、株主のほか債権者も閲覧又は謄写を請求することができます(会社法第318条第4項)。退職慰労金の支払を求める立場にある元監査役は、債権者としての請求を検討する余地があります。もっとも、会社が債権の存在自体を争う場合には、この点も争いとなり得ます。

8 消滅時効

債権は、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき、又は権利を行使することができる時から10年間行使しないときに、時効によって消滅するものとされています(民法第166条第1項)。

もっとも、監査役の退職慰労金については、株主総会の決議がされていない段階で権利を行使することができる状態にあったといえるかが問題となり得ます。起算点の考え方は事案により異なりますので、退任から年数が経過している場合であっても、直ちに諦めるべきではありません。時効の完成が迫っている場合には、催告、協議を行う旨の合意、訴えの提起などの手段を早期に検討する必要があります。

弁護士にご相談いただく意味

監査役の退職慰労金の請求は、取締役の場合とは根拠条文も手続も異なりますので、取締役についての一般的な説明をそのまま当てはめると、主張の前提を誤ることがあります。特に、取締役会への一任の可否、監査役の協議の要否、取締役の報酬等との区別といった点は、監査役に固有の論点です。

弁護士は、元監査役及びその御遺族の代理人として、機関設計の確認、議事録及び支給規程の入手、支給の慣行の立証、請求書面の作成、交渉、訴訟の提起を行います。会社に対する資料の請求を、どの順序で、どの時期に行うかにより、その後の交渉の見通しが変わります。

よくあるご質問

質問1 監査役の退職慰労金にも株主総会の決議が必要ですか。

監査役の報酬等は、定款にその額を定めていないときは、株主総会の決議によって定めるものとされています(会社法第387条第1項)。退職慰労金も職務執行の対価としての性質を有する限り報酬等に含まれるものと解されていますので、原則として定款の定め又は株主総会の決議が必要となります。

質問2 取締役会が金額を決めていないと言われました。どう考えればよいですか。

監査役の報酬等については、監査役が2人以上ある場合の各人への配分は監査役の協議によるものとされており(会社法第387条第2項)、取締役会への一任は認められないと解されています。会社の説明の前提となる決議の内容を、株主総会議事録により確認する必要があります。

質問3 監査役が1人しかいない会社の場合はどうなりますか。

監査役が1人である場合には、会社法第387条第2項にいう協議は問題となりません。定款の定め又は株主総会の決議によって定められた範囲において、監査役の報酬等が定まることになります。実際にどのように定まっていたかは、議事録及び支給規程により確認します。

質問4 取締役と監査役の退職慰労金が一括して議案とされていました。問題はありますか。

監査役の報酬等は取締役の報酬等と区別して定める必要があると解されていますので、一括した議案にとどまる場合には、監査役についての決議の効力が問題となる余地があります。議事録の記載を精査したうえで検討することになります。

質問5 監査役を退任してから年数が経っています。まだ請求できますか。

消滅時効の起算点は、決議の有無、会社の対応、分割払の合意の有無などにより異なります。年数が経過している場合であっても請求できる余地がありますので、経緯を整理したうえで御相談いただくことをお勧めいたします。

本記事における非開示事項について

請求の順序及び時期の選択、会社の対応に応じた主張の組み替え方は、株主構成、機関設計、従前の経緯等により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開しておりません。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、役員退職慰労金の未払に関するご相談をお受けしております。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、この分野に精通していることから当該分野を取り扱っております。

  • 電話番号 03-6435-8418
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弁護士費用につきましては、弁護士費用一覧のページをご覧ください。

本記事の根拠条文

会社法 第2条第16号(社外監査役)、第318条第4項(株主総会議事録の閲覧謄写)、第336条第1項・第2項(監査役の任期)、第343条第1項(監査役の選任に関する監査役の同意)、第361条第1項(取締役の報酬等)、第381条第1項(監査役の権限)、第387条第1項・第2項・第3項(監査役の報酬等)、第389条第1項(会計監査に限定する定款の定め)

民法 第166条第1項(債権の消滅時効)

判例法理による部分 退職慰労金が職務執行の対価としての性質を有する限り会社法上の報酬等に含まれること、及び支給基準を前提とする一任決議の効力については、判例法理によります。個別の事案における適用は、決議の文言及び支給基準の内容により異なります。

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