退任から年数が経過していても請求できる場合

項目 内容
記事番号 RL48(時効。主要記事・受任直結記事)
表題 退任から年数が経過していても請求できる場合
スラッグ tainin-nensuu-keika-seikyu
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主キーワード 退職慰労金 何年前 請求できる
検索意図 退任から年数が経過した後でも役員退職慰労金を請求できるかを知りたい
送客先ランディングページ 3-13 役員退職慰労金の時効が心配でお困りではありませんか(/jikou_semmari/。主)
作成年月日 令和8年8月14日
第1版(v01)
メタディスクリプション 退任から年数が経過していても役員退職慰労金を請求できる場合を整理します。決議がされていない場合、会社が承認をした場合、分割払の途中で止まった場合、時効の援用がされない場合など、諦める前に確認すべき事項を条文に即して解説します。

退任から年数が経過していても請求できる場合

「もう7年も経っているので、今更どうにもならないと思っています」。このように述べて、相談自体をためらわれる方がいらっしゃいます。しかし、年数が経過していることのみをもって請求が不可能となるわけではありません。本記事では、年数が経過した後でも請求し得る場合を整理します。当事務所は役員の側にも会社の側にも立ちますが、本記事は支払を求める側の方に向けたものです。

1 結論 諦める前に確認すべき5つの点があります

番号 確認する点 理由
1 株主総会の決議がされているか 決議がなければ、起算点が到来していないと主張し得る余地があります
2 会社が支払の意思を示す発言又は書面を残していないか 債務の承認に当たれば時効が更新されます(民法第152条第1項)
3 一部の支払を受けていないか 一部の支払が承認と評価される場合があります
4 分割払の合意があり、直近の支払期日が到来していないか 各回の支払期日ごとに時効が進行するのが基本です
5 使用人としての退職金の部分がないか 適用される規定及び起算点が異なります

これらに加え、時効は当事者が援用しなければ裁判所がこれによって裁判をすることができないものとされています(民法第145条)。すなわち、期間が経過していても、会社が時効を援用しない限り、請求が認められる余地は残ります。

2 決議がされていない場合

役員退職慰労金は、原則として株主総会の決議によって具体的な請求権となると解されています(会社法第361条第1項に関する判例法理によります)。決議がされていない場合、支払を求める側からは、権利を行使することができる状態が到来していないため、消滅時効が進行していないと主張する余地があります。

もっとも、会社側からは、退任の時を起算点とする反論、又は決議を求める権利を長期間行使しなかったことを指摘する反論がされることが想定されます。したがって、この主張は「必ず認められるもの」ではなく、「主張の余地があるもの」として位置付けるべきです。

決議がされていない事案では、次の資料を確認します。

資料 確認する事項
株主総会議事録 退任の前後の総会において議案が上程されたか
取締役会議事録 支給の提案がされた記録があるか
計算書類及び附属明細書 役員退職慰労引当金の計上の有無
会社との往復の書面 支払を求めた記録、会社の回答

3 会社が承認をした場合

時効は、権利の承認があったときは、その時から新たにその進行を始めるものとされています(民法第152条第1項)。承認に当たり得るのは、次のような場合です。

会社の対応 承認に当たり得るか
「金額は○○円で間違いない。時期は改めて相談したい」と述べた 当たり得ます
退職慰労金の一部を支払った 当たり得ます
「支払う予定である」と記載した書面を交付した 当たり得ます
分割払の合意書に署名した 当たり得ます
「検討する」とのみ述べた 当たるとは限りません
「そのような債務はない」と述べた 当たりません

承認は、書面によることを要しません。もっとも、立証のためには記録が必要です。会話の後に確認の書面又は電子メールを送っておくことに意味があるのは、このためです。

また、承認により時効が更新された場合、更新の時から新たに時効が進行します。したがって、承認の時期が新しいほど、請求できる可能性が高くなります。

4 分割払の合意がある場合

退職慰労金を複数回に分けて支払う合意がされ、途中で支払が止まった事案では、各回の支払期日ごとに請求権が発生し、それぞれについて時効が進行するのが基本となります。したがって、古い回の分については時効が完成していても、新しい回の分については時効が完成していない、ということがあります。

もっとも、期限の利益の喪失に関する定めがある場合には、その定めの内容により扱いが異なります。1回でも支払を怠れば残額全部について直ちに支払わなければならない旨の定めがある場合には、その時点から残額全部について時効が進行するという考え方があり得ます。定めの文言の確認が必要です。

5 使用人分の退職金

取締役でありながら使用人としての地位を併有していた場合、使用人分の退職金については、労働基準法第115条により、退職手当の請求権は5年間行使しないときに時効によって消滅するものとされています。役員分と使用人分とは、根拠も起算点も異なりますので、一方が時効により消滅していても、他方について請求し得る場合があります。

使用人としての地位の有無は、業務の内容、指揮命令の関係、報酬の支払の形態、社会保険及び雇用保険の加入状況等により判断されます。登記上は取締役であっても、実態として使用人としての地位を併有していたと認められる場合があります。

6 時効の援用がされない場合

時効は、当事者が援用しなければ、裁判所がこれによって裁判をすることができないものとされています(民法第145条)。会社が時効を援用しないまま支払に応じる例もあります。

また、時効の完成後に会社が債務を承認した場合には、その後に時効を援用することが信義に反するとして許されないとされる場合があります。この点は判例法理によります。したがって、期間が経過している事案であっても、会社に対して請求を行い、その回答を得ること自体に意味があります。

7 案件で確認すべき事項

番号 確認事項 資料
1 退任の年月日 登記事項証明書
2 株主総会の決議の有無 株主総会議事録
3 支給規程の有無及び支給の時期の定め 規程
4 会社の支払の意思を示す記録 電子メール、書簡
5 一部の支払の有無及び時期 預金通帳
6 分割払の合意の有無 合意書
7 使用人としての地位の有無 雇用契約、社会保険の記録
8 従前に行った請求の記録 内容証明郵便の控え
9 適用される法令(平成29年の改正の前後) 退任の時期
10 会社の現在の財務状況 計算書類

8 弁護士にご相談いただく意味

年数が経過した事案では、「請求できるかどうか」の判断そのものが専門的な検討を要します。自ら手遅れであると判断して何もしないことが、最も大きな損失を生みます。

弁護士は、元役員又はその相続人の代理人として、資料に基づく起算点の検討、承認に当たり得る事実の抽出、時効の完成を防ぐ措置、会社との交渉、訴訟の遂行を行います。年数が経過している事案では、まず措置を先行させ、その後に本案の準備を進めるという順序を採ることがあります。

なお、措置の選択及び時期の判断は、当事務所が個別の案件を通じて蓄積してまいりました実務上の知見に属しますので、本記事では詳細を開示しておりません。

よくあるご質問

質問1 10年以上前に退任しました。もう無理でしょうか。

一律に判断することはできません。決議の有無、会社の承認の有無、分割払の合意の有無を確認したうえでの判断となります。また、平成29年の民法の改正の前に生じた債権については、適用される規定を個別に確認する必要があります。

質問2 会社に請求して、時効だと言われたら終わりですか。

時効の援用がされた場合には、その主張の当否を検討することになります。起算点に関する反論、承認の主張、援用が許されないとの主張の余地がないかを検討いたします。

質問3 請求すること自体に不利益はありませんか。

請求により会社の対応が明らかになりますので、その後の方針を定めるうえで意味があります。もっとも、請求の内容及び時期によっては、会社に準備の時間を与える結果となることがありますので、進め方をご相談いただくことをお勧めいたします。

質問4 父が亡くなり、未払の退職慰労金があると分かりました。

具体的な請求権が発生していた場合には、相続により承継されます(民法第896条)。時効は、被相続人の下で進行していたものを引き継ぎます。相続人が複数である場合の権利の行使の方法についても、あわせて整理が必要です。

質問5 まず何をすればよいですか。

登記事項証明書を取得して退任の年月日を確定し、手元にある会社との往復の書面及び預金通帳を確認してください。そのうえで、できるだけ早い時期にご相談ください。

9 相談の前に確認していただきたいこと

年数が経過した事案では、次の点を事前に確認していただくと、初回のご相談において見通しをお示ししやすくなります。

番号 確認事項 確認の方法
1 退任の年月日 履歴事項全部証明書を取得します
2 退任の原因 同上(辞任、任期満了、解任等)
3 会社が現在も存続しているか 同上(解散、清算の登記の有無)
4 会社の本店の所在 同上
5 会社との最後のやりとりの時期 手元の書面、電子メール
6 一部の支払を受けた時期 預金通帳
7 手元にある資料 規程、議事録、覚書

会社が既に解散し、清算が結了している場合には、請求の相手方が存在しないことになります。他方、解散していても清算が結了していない場合には、清算人に対する請求を検討することになります。したがって、会社の現況の確認は最初に行うべき作業です。

10 時間が経過した事案における現実的な進め方

段階 内容
第1 会社の現況及び退任の年月日の確定
第2 手元の資料の確認
第3 起算点に関する複数の考え方の整理
第4 時効の完成を防ぐ措置の要否の判断
第5 会社に対する請求及び資料の開示の求め
第6 会社の回答の分析(時効の援用の有無、承認に当たる記載の有無)
第7 訴訟によるかどうかの判断

第6の段階が重要です。会社の回答に、債務の存在を前提とする記載が含まれている場合には、承認と評価される余地があります。逆に、会社が明確に時効を援用してきた場合には、援用の当否を検討することになります。

いずれにせよ、請求を行わなければ会社の対応は明らかになりません。年数が経過していることのみを理由に何もしないことは、避けるべきです。

本記事における非開示事項について

時効の完成を防ぐ措置の選択及び時期、請求の内容及び順序は、資料の状況、会社の対応、金額の大きさ等により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開しておりません。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、役員退職慰労金の未払に関するご相談をお受けしております。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、この分野に精通していることから当該分野を取り扱っております。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)
  • ご相談は事前予約制です

ご相談に際しましては、登記事項証明書、株主総会議事録の写し、支給規程の写し、会社との往復の書面、預金通帳の写しをお持ちください。お手元になくてもご相談をお受けしております。

本記事の根拠条文

会社法 第318条第4項(株主総会議事録の閲覧謄写)、第361条第1項(取締役の報酬等)、第442条第3項(計算書類等の閲覧等)

民法 第145条(時効の援用)、第147条(裁判上の請求等による時効の完成猶予及び更新)、第150条第1項(催告による時効の完成猶予)、第151条(協議を行う旨の合意による時効の完成猶予)、第152条第1項(承認による時効の更新)、第166条第1項(債権等の消滅時効)、第896条(相続の一般的効力)

労働基準法 第115条(時効)

判例法理による部分 役員退職慰労金が会社法第361条第1項の報酬等に含まれること、時効の完成後に債務の承認をした者が時効を援用することが許されない場合があることは、判例法理によります。平成29年の民法の改正の前後で適用される規定が異なる場合がありますので、退任の時期に応じて個別に確認いたします。

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