使用人を兼ねる取締役の退職金を二つに分けて請求する方法
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 記事番号 | RL19(使用人兼務取締役の二分請求。巨大記事・中核柱記事) |
| 表題 | 使用人を兼ねる取締役の退職金を二つに分けて請求する方法 |
| スラッグ | kenmu-torishimariyaku-nibun-seikyu |
| 想定ディレクトリ | /archives/kenmu-torishimariyaku-nibun-seikyu/ |
| 主キーワード | 使用人兼務取締役 退職金 二つ |
| 検索意図 | 取締役と従業員の地位を兼ねていた場合に、役員退職慰労金と従業員の退職金を分けて請求できるかを知りたい |
| 送客先ランディングページ | 3-5 使用人を兼ねる取締役の退職金が支払われずお困りではありませんか(/kenmu_yakuin_taishokukin/。主) |
| 作成年月日 | 令和8年8月19日 |
| 版 | 第1版(v01) |
| メタディスクリプション | 使用人を兼ねる取締役が退職金を二つに分けて請求する方法について、二つの請求権の性質の違い、根拠となる規程と手続の違い、消滅時効の違い、主張の順序、資料の集め方、会社側の反論への対応を整理します。 |
使用人を兼ねる取締役の退職金を二つに分けて請求する方法
取締役でありながら、部長、工場長、支店長等の使用人としての地位を併有していた場合、退職に際して生じる金銭の請求は、性質の異なる二つに分かれます。一つは役員としての退職慰労金であり、もう一つは使用人としての退職金です。この二つは、根拠となる規程も、決定の手続も、消滅時効の期間も異なります。本記事では、支払を求める側の元役員及びその御遺族に向けて、二つに分けて請求するための整理の仕方を述べます。
1 結論 二つの請求権は、別個に主張し、別個に立証します
| 比較の観点 | 役員としての退職慰労金 | 使用人としての退職金 |
|---|---|---|
| 法律関係 | 委任に関する規定に従います(会社法第330条) | 労働契約によります |
| 根拠 | 定款の定め又は株主総会の決議(会社法第361条第1項) | 就業規則又は退職金規程 |
| 決定の手続 | 株主総会の決議を要します | 規程の定めにより当然に発生し得ます |
| 消滅時効 | 民法第166条第1項によります | 退職手当の請求権は5年とされています(労働基準法第115条) |
| 争いの場 | 訴訟が中心となります | 労働審判手続を用いる余地があります |
| 会社側の主たる反論 | 決議がないこと | 労働者に当たらないこと |
この違いを踏まえると、実務上の要点は明らかです。役員としての退職慰労金は、株主総会の決議という手続の壁があるため、時間を要することが多い一方、使用人としての退職金は、退職金規程の適用が認められれば、規程の定めに従って算定された額を請求することができます。したがって、使用人分の請求は、比較的早期に結論を得られる可能性があります。
2 使用人としての地位の併有が認められる場合
取締役が使用人としての地位を併有していると認められるかは、実質的に判断されます。単に肩書が付されているというだけでは足りず、使用人としての職務に従事し、その対価として給与が支払われていたことが必要となります。
| 認められやすい事情 | 認められにくい事情 |
|---|---|
| 部長、工場長等の具体的な職名がある | 職名がなく、取締役としての肩書のみである |
| 役員報酬と使用人給与が区別して支給されている | 報酬が一本で支給されている |
| 賞与が従業員と同じ基準で支給されている | 賞与の支給がない、又は役員賞与のみである |
| 就業規則の適用を受けていた | 就業規則の適用外とされていた |
| 出退勤の管理を受けていた | 出退勤が自由であった |
| 雇用保険の被保険者となっていた | 雇用保険の被保険者となっていない |
| 代表権がなく、業務の指揮を受けていた | 代表取締役である |
これらは事実上の評価要素であり、いずれか一つで結論が決まるものではありません。もっとも、雇用保険の被保険者となっていたかどうかは、客観的な記録として確認しやすく、実務上重視されやすい事情の一つです。
3 役員報酬と使用人給与の区分
取締役の報酬等は、定款にその額を定めていないときは、株主総会の決議によって定めなければならないとされています(会社法第361条第1項)。使用人を兼ねる取締役の使用人としての給与については、使用人としての給与体系が明確に確立している場合には、これを含めずに取締役としての報酬の額を決議することも許されると解されています。この点は判例法理によります。
この理解の裏返しとして、役員報酬と使用人給与とが区別して定められ、区別して支給されていた事実は、使用人としての地位の併有を示す資料となります。源泉徴収票、給与の明細書、振込の記録により確認することになります。
4 請求の順序
| 段階 | 行うこと | 留意点 |
|---|---|---|
| 第1 | 退職金規程の有無及び適用の範囲を確認します | 役員を適用除外とする条項の有無を確認します |
| 第2 | 使用人としての在職期間及び給与の額を確定します | 取締役就任の前後の扱いを整理します |
| 第3 | 使用人分の退職金を算定し、書面により請求します | 規程の算定方法に当てはめます |
| 第4 | 役員としての退職慰労金について決議及び支払を求めます | 支給規程及び支給実績を確認します |
| 第5 | 応答がない場合に手続を検討します | 使用人分は労働審判手続を用いる余地があります |
二つを同時に請求することも、順次請求することも可能です。使用人分について先に請求し、その結果を踏まえて役員分の交渉を進める、という進め方が有効な場合もあります。もっとも、二つを切り離すことにより会社の対応が硬化することもありますので、順序の選択は事案により異なります。
5 取締役就任の前の期間の扱い
従業員として勤務した後に取締役に就任した場合、取締役就任の時点で使用人としての退職金が精算されているかが問題となります。
| 類型 | 内容 | 請求の組み立て |
|---|---|---|
| 精算済み | 取締役就任時に使用人分の退職金が支払われている | 就任後の期間について、使用人分の有無を検討します |
| 未精算 | 取締役就任時に支払われていない | 従業員としての期間を通算して請求することを検討します |
| 打切り支給 | 就任時に打切りとする扱いがされている | 打切りの合意の有無及び効力を検討します |
未精算である場合には、従業員として勤務した期間も含めて退職金規程を適用すべきであるという主張が成り立ち得ます。この場合、期間が長期に及ぶため、金額の差が大きくなります。取締役就任の際に退職金が支払われた記録があるかどうかは、最初に確認すべき事項です。
6 消滅時効の違い
役員としての退職慰労金の請求権は、債権として消滅時効に服します。債権は、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき、又は権利を行使することができる時から10年間行使しないときに、時効によって消滅します(民法第166条第1項)。
他方、使用人としての退職手当の請求権の消滅時効は5年とされています(労働基準法第115条)。起算点は退職の時と考えられます。
この違いにより、事案によっては、一方について時効が問題となり、他方については問題とならないという状態が生じ得ます。二つを区別して管理する必要があります。
7 会社側から出される反論
| 会社側の反論 | 検討の視点 |
|---|---|
| 取締役であるから労働者に当たらない | 使用人としての職務の実態を具体的に示します |
| 退職金規程は役員には適用されない | 使用人としての地位に基づく請求であることを述べます |
| 報酬は一本で支給しており区分がない | 職務の実態、就業規則の適用、雇用保険の記録を示します |
| 取締役就任時に精算済みである | 支払の記録及び精算の合意の有無を確認します |
| 役員退職慰労金に含めて考えるべきである | 根拠となる規程及び手続が異なることを述べます |
8 案件で確認すべき事項
| 番号 | 確認事項 | 確認の方法 |
|---|---|---|
| 1 | 取締役への就任及び退任の年月日 | 登記事項証明書 |
| 2 | 従業員としての入社の年月日 | 雇用に関する書面、社会保険の記録 |
| 3 | 使用人としての職名及び職務の内容 | 辞令、名刺、組織図 |
| 4 | 役員報酬と使用人給与の区分の有無 | 源泉徴収票、給与の明細書 |
| 5 | 就業規則及び退職金規程の適用の有無 | 規程の写し、適用除外条項の確認 |
| 6 | 雇用保険の被保険者となっていたか | 雇用保険に関する記録 |
| 7 | 出退勤の管理及び賞与の支給の状況 | 勤怠の記録、給与の明細書 |
| 8 | 取締役就任時の退職金の支払の有無 | 支払の記録、精算に関する書面 |
| 9 | 役員退職慰労金支給規程の有無 | 規程の写し |
| 10 | 退職からの経過期間 | 登記事項証明書、雇用に関する書面 |
9 弁護士にご相談いただく意味
この類型の難しさは、一つの退職に対して二つの法律関係が重なっている点にあります。会社法上の主張と労働法上の主張は、根拠も手続も異なりますので、どちらか一方の枠組みだけで組み立てると、請求できるはずの部分を落とすことになります。
弁護士は、元役員の代理人として、二つの請求権の切り分け、退職金規程及び支給規程の確認、使用人としての地位を示す資料の収集、会社に対する請求及び資料の開示の求め、消滅時効の管理及び完成猶予の措置、労働審判手続及び訴訟その他の裁判所の手続の遂行を行います。
よくあるご質問
質問1 取締役であっても従業員の退職金をもらえるのですか。
使用人としての地位を併有していたと認められる場合には、退職金規程の適用を主張し得ます。実態がどうであったかにより結論が異なりますので、資料の確認から始めることになります。
質問2 報酬が一本で支給されていました。不利になりますか。
区分がないことは会社側の反論の材料となりますが、決定的とは限りません。職務の実態、就業規則の適用、雇用保険の記録などを併せて示すことになります。
質問3 二つを同時に請求してもよいですか。
同時に請求することも、順次請求することも可能です。会社の対応や資料の状況により、順序を検討することになります。
質問4 従業員であった期間も通算できますか。
取締役就任時に退職金が精算されていない場合には、通算を主張し得る余地があります。就任時の支払の記録の有無を確認することが前提となります。
質問5 労働審判手続とはどのようなものですか。
労働に関する紛争について、裁判所において行われる手続です。使用人分の請求について用いる余地がありますが、事案の内容により適否が異なりますので、個別に検討することになります。
本記事における非開示事項について
二つの請求を行う順序及び時期の選択、労働審判手続と訴訟の使い分け、会社の反論に応じた主張の組み替え方は、株主構成、機関設計、財務状況、従前の経緯等により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開しておりません。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、役員退職慰労金の未払に関するご相談をお受けしております。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、この分野に精通していることから当該分野を取り扱っております。
- 電話番号 03-6435-8418
- 受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)
- ご相談は事前予約制です
ご相談に際しましては、登記事項証明書、就業規則及び退職金規程の写し、役員退職慰労金支給規程の写し、源泉徴収票及び給与の明細書、辞令、会社との往復の書面をお持ちください。お手元になくてもご相談をお受けしております。課税関係については税理士にご確認ください。
弁護士費用につきましては、弁護士費用一覧のページをご覧ください。
本記事の根拠条文
会社法 第318条第4項(株主総会議事録の閲覧謄写)、第330条(株式会社と役員との関係)、第361条第1項(取締役の報酬等)、第442条第3項(計算書類等の閲覧等)
民法 第147条第1項(裁判上の請求等による時効の完成猶予)、第150条第1項(催告による時効の完成猶予)、第151条(協議を行う旨の合意による時効の完成猶予)、第166条第1項(債権等の消滅時効)、第643条(委任)
労働基準法 第9条(労働者)、第89条(就業規則の作成及び届出の義務)、第115条(時効)
判例法理による部分 役員退職慰労金が会社法第361条第1項の報酬等に含まれること、及び使用人としての給与体系が明確に確立している場合に使用人分給与を含めずに取締役の報酬の額を決議することが許されることについては、判例法理によります。使用人としての地位の併有の有無は、職務の実態に照らし、個別の事案ごとに判断されます。
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