使用人としての地位が認められるかの判断要素

項目 内容
記事番号 RL20(使用人としての地位の判断要素。主要記事・受任直結記事)
表題 使用人としての地位が認められるかの判断要素
スラッグ shiyounin-chii-handan-yoso
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主キーワード 使用人兼務取締役 労働者性 判断
検索意図 取締役でありながら従業員としての地位も認められるかどうか、どのような要素で判断されるかを知りたい
送客先ランディングページ 3-5 使用人を兼ねる取締役の退職金が支払われずお困りではありませんか(/kenmu_yakuin_taishokukin/。主)
作成年月日 令和8年8月19日
第1版(v01)
メタディスクリプション 使用人を兼ねる取締役について使用人としての地位が認められるかの判断要素を、職務の実態、指揮命令の有無、報酬の区分、就業規則の適用、社会保険及び雇用保険の記録など、確認すべき事項ごとに整理します。

使用人としての地位が認められるかの判断要素

取締役でありながら従業員としての退職金を請求する場合、最初に争点となるのは「使用人としての地位を併有していたと認められるか」という点です。この判断は、肩書ではなく実態によって行われます。本記事では、支払を求める側の元役員及びその御遺族に向けて、どのような事情が判断の要素となるのかを整理します。

1 結論 肩書ではなく、職務の実態と処遇の実際で判断されます

労働基準法において労働者とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者をいうとされています(労働基準法第9条)。取締役であることは、この定義に当たらないことを直ちに意味するものではありません。

他方、会社と取締役との関係は委任に関する規定に従うとされています(会社法第330条)。取締役としての職務のみを行い、業務の遂行について指揮命令を受けていないのであれば、労働者に当たらないと判断されることになります。

したがって、判断は、取締役としての職務と使用人としての職務のいずれが実態であったか、両者が併存していたといえるかという観点から行われます。

2 判断の要素の一覧

区分 要素 使用人性を示す事情
職務 具体的な職名の有無 部長、工場長、支店長等の職名がある
職務 担当業務の内容 特定の部門の業務を日常的に処理していた
指揮命令 業務上の指示を受けていたか 代表取締役又は上位の役員から具体的な指示を受けていた
指揮命令 裁量の範囲 経営に関する意思決定に関与していない
勤務 出退勤の管理 出勤簿、勤怠の記録の対象となっていた
勤務 勤務場所及び時間の拘束 所定の勤務時間の適用を受けていた
報酬 役員報酬と給与の区分 両者が区別して支給されていた
報酬 賞与の支給の基準 従業員と同一の基準で支給されていた
報酬 昇給の取扱い 従業員の昇給制度の適用を受けていた
規程 就業規則の適用 適用除外とされていない
保険 雇用保険の被保険者資格 被保険者となっていた
保険 労働者災害補償保険の扱い 労働者として扱われていた
株式 株式の保有の状況 株式を保有していない、又は少数にとどまる
地位 代表権の有無 代表取締役ではない

これらは事実上の評価要素であり、いずれか一つで結論が決まるものではありません。全体を総合して判断されます。

3 特に重視されやすい事情

3-1 雇用保険の被保険者資格

取締役が雇用保険の被保険者となっているかどうかは、客観的な記録として確認しやすい事情です。被保険者となっている場合、使用人としての地位が併存していることを前提とする取扱いが行われていたことになります。

もっとも、被保険者資格の有無は、退職金規程の適用の有無を直接に決めるものではありません。あくまで判断の一要素として位置付けられます。

3-2 報酬の区分

役員報酬と使用人給与とが区別して定められ、区別して支給されていた場合には、会社自身が二つの地位を認識していたことになります。源泉徴収票、給与の明細書、株主総会における報酬の決議の内容により確認します。

使用人を兼ねる取締役の使用人としての給与については、使用人としての給与体系が明確に確立している場合には、これを含めずに取締役としての報酬の額を決議することも許されると解されています。この点は判例法理によります。区分がされていた事実は、この理解に沿った運用が行われていたことを示すものといえます。

3-3 代表権の有無

代表取締役である場合には、使用人としての地位の併有が認められにくい傾向があります。会社の業務を執行し、対外的に会社を代表する立場にある者が、同時に指揮命令を受ける立場にあるとは考えにくいためです。

他方、代表権のない取締役については、実態に応じて判断されることになります。中小の会社では、取締役でありながら実際には一従業員として働いていたという例が少なくありません。

3-4 株式の保有

相当数の株式を保有し、会社の意思決定に影響を及ぼし得る立場にある場合には、使用人としての地位が認められにくい方向に働きます。株主名簿及び法人税申告書別表二により保有の状況を確認します。

4 資料の集め方

資料 示す事実 入手の方法
辞令、任命の通知 使用人としての職名 手元の保管、会社への開示の求め
名刺、組織図、社内の名簿 対外的及び社内における位置付け 手元の保管、取引先からの入手
源泉徴収票、給与の明細書 報酬の区分 手元の保管、会社への開示の求め
就業規則、退職金規程 適用の範囲 会社への開示の求め
出勤簿、勤怠の記録 勤務時間の管理 会社への開示の求め、文書提出命令の申立て
雇用保険に関する記録 被保険者資格 手元の保管、行政機関への確認
業務上の指示を含む電子メール 指揮命令の存在 手元の保管
株主名簿 株式の保有の状況 会社への開示の求め

会社が資料を開示しない場合には、訴訟を提起したうえで文書提出命令の申立てを行うことが考えられます(民事訴訟法第219条から第223条まで)。また、第三者が保有する情報については、弁護士会を通じた照会を行う方法があります(弁護士法第23条の2)。

5 会社側から出される反論

会社側の反論 検討の視点
取締役会の構成員であり経営に参画していた 取締役会の開催の実態及び議事の内容を確認します
出退勤の管理を受けていない 実際の勤務の状況を関係者の陳述により示します
報酬が高額であり従業員とは異なる 他の従業員との比較のみでは決まらないことを述べます
就業規則の適用除外とされている 規程の文言と実際の運用との相違を指摘します
株式を保有している 保有の割合及び意思決定への影響の程度を示します

「取締役会の構成員であった」という反論に対しては、取締役会が実際には開催されておらず、書面のみが作成されていたという実態を示すことが考えられます。中小の会社では、この実態が認められる事案が少なくありません。

6 判断が難しい場合の進め方

使用人としての地位の併有が明確でない事案では、次の進め方が考えられます。

段階 行うこと
第1 手元の資料により、要素ごとの評価を整理します
第2 会社に対し、就業規則及び退職金規程の開示を求めます
第3 役員としての退職慰労金の請求と並行して主張します
第4 会社の反論の内容に応じて、重心を移します
第5 手続の選択(労働審判手続か訴訟か)を判断します

使用人としての地位が認められない場合であっても、役員としての退職慰労金の請求が残ります。二つを並行して主張しておくことにより、一方が認められない場合の備えとなります。

7 消滅時効

使用人としての退職手当の請求権の消滅時効は5年とされています(労働基準法第115条)。役員としての退職慰労金の請求権は、民法第166条第1項によります。二つは期間も起算点も異なりますので、区別して管理する必要があります。

8 案件で確認すべき事項

番号 確認事項 確認の方法
1 取締役への就任及び退任の年月日並びに代表権の有無 登記事項証明書
2 使用人としての職名及び担当していた業務 辞令、名刺、組織図
3 業務上の指示を受けていた相手及びその内容 電子メール、社内の記録
4 出退勤の管理の有無 出勤簿、勤怠の記録
5 役員報酬と使用人給与の区分の有無 源泉徴収票、給与の明細書
6 賞与及び昇給の取扱い 給与の明細書、社内の規程
7 就業規則の適用除外条項の有無 就業規則
8 雇用保険の被保険者資格の有無 雇用保険に関する記録
9 株式の保有の有無及び割合 株主名簿、法人税申告書別表二
10 退職からの経過期間 登記事項証明書、雇用に関する書面

9 弁護士にご相談いただく意味

使用人としての地位の有無は、複数の事情を総合して判断されます。個々の事情を並べるだけでは足りず、全体としてどのような働き方であったのかを示す整理が必要となります。

弁護士は、元役員の代理人として、要素ごとの評価の整理、資料の収集及び会社に対する開示の求め、訴訟における文書提出命令の申立て、消滅時効の管理及び完成猶予の措置、労働審判手続及び訴訟その他の裁判所の手続の遂行を行います。

よくあるご質問

質問1 登記上は取締役です。それでも従業員と認められますか。

登記上の地位のみで決まるものではなく、職務の実態により判断されます。指揮命令の有無、報酬の区分、就業規則の適用などを総合して検討することになります。

質問2 雇用保険に入っていました。決め手になりますか。

使用人としての地位を示す有力な事情となりますが、それのみで結論が決まるものではありません。他の事情と併せて主張することになります。

質問3 代表取締役でした。認められないのでしょうか。

代表権がある場合には認められにくい傾向があります。もっとも、名目上の代表者にとどまり、実際には指揮命令を受けていたという事案もありますので、実態の確認が必要です。

質問4 就業規則で役員は適用除外とされています。

規程の文言は会社側の有力な主張となりますが、実際の運用が文言と異なる場合には、その相違を指摘することが考えられます。

質問5 資料をほとんど持っていません。

会社に開示を求めるほか、訴訟において文書提出命令の申立てを行う方法があります。雇用保険に関する記録など、会社以外から確認できる資料もあります。

本記事における非開示事項について

要素ごとの評価の整理及び提示の順序、手続の選択、会社の反論に応じた主張の組み替え方は、株主構成、機関設計、財務状況、従前の経緯等により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開しておりません。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、役員退職慰労金の未払に関するご相談をお受けしております。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、この分野に精通していることから当該分野を取り扱っております。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)
  • ご相談は事前予約制です

ご相談に際しましては、登記事項証明書、辞令及び名刺、源泉徴収票及び給与の明細書、就業規則及び退職金規程の写し、雇用保険に関する記録、会社との往復の書面をお持ちください。お手元になくてもご相談をお受けしております。課税関係については税理士にご確認ください。

弁護士費用につきましては、弁護士費用一覧のページをご覧ください。

本記事の根拠条文

会社法 第330条(株式会社と役員との関係)、第361条第1項(取締役の報酬等)、第362条第2項(取締役会の権限)

民法 第166条第1項(債権等の消滅時効)、第643条(委任)

労働基準法 第9条(労働者)、第89条(就業規則の作成及び届出の義務)、第115条(時効)

民事訴訟法 第219条から第223条まで(書証及び文書提出命令)

弁護士法 第23条の2(報告の請求)

判例法理による部分 使用人としての給与体系が明確に確立している場合に使用人分給与を含めずに取締役の報酬の額を決議することが許されることについては、判例法理によります。使用人としての地位の併有の有無は、職務の実態に照らし、個別の事案ごとに判断されます。

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