死亡した役員の退職慰労金を遺族が請求する手順
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 記事番号 | RL25(遺族による請求の手順。巨大記事・中核柱記事) |
| 表題 | 死亡した役員の退職慰労金を遺族が請求する手順 |
| スラッグ | shibo-yakuin-izoku-seikyu-tejun |
| 想定ディレクトリ | /archives/shibo-yakuin-izoku-seikyu-tejun/ |
| 主キーワード | 死亡 役員退職慰労金 遺族 請求 |
| 検索意図 | 在任中又は退任後に死亡した役員の退職慰労金を、遺族としてどのように請求すればよいかを知りたい |
| 送客先ランディングページ | 3-7 亡くなった役員の遺族が退職慰労金と弔慰金の支払を断られてお困りではありませんか(/shibo_taishoku_izoku/。主) |
| 作成年月日 | 令和8年8月19日 |
| 版 | 第1版(v01) |
| メタディスクリプション | 死亡した役員の退職慰労金を遺族が請求する手順について、相続の対象となる場合と受給権者の定めがある場合の違い、相続人の確定、共同相続における請求の方法、会社への請求と資料の入手、消滅時効の管理を整理します。 |
死亡した役員の退職慰労金を遺族が請求する手順
役員が在任中又は退任後に死亡した場合、その退職慰労金について、御遺族が会社に請求することになります。この場面では、通常の請求に加えて、誰が請求権者であるかという相続の問題が重なります。本記事では、支払を求める側の御遺族に向けて、請求の手順を順を追って整理します。
1 結論 まず「誰の権利か」を確定させます
死亡した役員に関する退職慰労金には、性質の異なる二つの形があります。
| 形 | 権利者 | 根拠 |
|---|---|---|
| 相続財産となる場合 | 相続人が相続分に応じて承継します | 民法第896条 |
| 受給権者の定めがある場合 | 定められた者が固有の権利として取得すると解される余地があります | 支給規程の定め |
この区別は、誰が請求できるか、相続放棄をした者が請求できるか、遺産分割の対象となるかといった点に影響します。したがって、最初に行うべきは、支給規程に受給権者の定めがあるかどうかの確認です。
2 手順の全体像
| 段階 | 行うこと |
|---|---|
| 第1 | 登記事項証明書により、死亡した役員の在任期間、役位、退任の年月日を確定します |
| 第2 | 戸籍により相続人を確定します |
| 第3 | 会社に対し、支給規程の開示を求めます |
| 第4 | 受給権者の定めの有無を確認し、請求権者を確定します |
| 第5 | 株主総会の決議の有無を確認します |
| 第6 | 書面により、決議及び支払を求めます |
| 第7 | 応答がない場合に裁判所の手続を検討します |
3 相続人の確定
相続人は、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍により確定します。会社に対して請求を行う際には、相続人であることを示す資料の提出を求められるのが通例です。
| 資料 | 内容 |
|---|---|
| 被相続人の戸籍(出生から死亡まで) | 相続人の範囲を確定するために必要となります |
| 相続人の戸籍 | 相続人であることを示します |
| 被相続人の住民票の除票 | 同一人であることの確認に用いられます |
| 法定相続情報一覧図の写し | 登記所の制度により交付を受けられます |
法定相続情報一覧図の写しは、戸籍の束に代えて用いることができ、会社への提出の負担を軽減できます。なお、登記の申請の代理については司法書士の業務となりますので、必要に応じて御案内いたします。
4 共同相続の場合の請求の方法
相続人が複数ある場合、退職慰労金の請求権をどのように扱うかが問題となります。金銭債権のような可分債権については、相続の開始と同時に法定相続分に応じて当然に分割されると解する考え方が採られています。この点は判例法理によります。
この考え方によれば、各相続人は、自らの相続分に相当する部分について、単独で会社に請求することができることになります。
| 進め方 | 内容 | 留意点 |
|---|---|---|
| 全員で共同して請求する | 相続人全員が連名で請求します | 会社が応じやすく、支払も円滑です |
| 各自が相続分に応じて請求する | 各相続人が単独で自らの分を請求します | 相続人間に対立がある場合に用いられます |
| 代表者を定めて請求する | 相続人の一人に委任して請求します | 委任状の作成が必要となります |
相続人間に争いがある事案では、会社が「相続人の間で話がまとまってから」と述べて支払を留保することがあります。しかし、可分債権として当然に分割されると解される場合には、各相続人の請求に応じない理由とはなりません。この点を指摘することが有益です。
5 在任中の死亡と退任後の死亡
| 場合 | 検討事項 |
|---|---|
| 在任中に死亡した | 死亡により退任となります。死亡退職慰労金として支給の対象となるかを確認します |
| 退任後、決議の前に死亡した | 決議がされていない段階の請求権の性質が問題となります |
| 決議の後、支払の前に死亡した | 具体的な請求権が発生していますので、相続の対象となります |
| 分割払の途中で死亡した | 残額について相続の対象となります |
最も争いとなりやすいのが、退任後、決議がされないまま死亡した場合です。この場合、決議がない段階で相続の対象となる権利が存在したかが問題となります。支給規程が存在し、これに従って算定される旨の決議がされている場合や、支給の慣行が確立していると認められる場合には、請求し得る余地があります。
6 会社に対する請求と資料の入手
会社に対しては、書面により、次の事項を求めます。
| 求める事項 | 内容 |
|---|---|
| 支給規程の開示 | 受給権者の定め、算定方法、弔慰金に関する定めを確認します |
| 過去の支給実績の開示 | 死亡した他の役員に対する支給の有無及び金額を確認します |
| 株主総会の決議の有無 | 決議がされている場合には議事録の交付を求めます |
| 決議及び支払 | 未了である場合には速やかに行うよう求めます |
| 支給しない場合の理由 | 書面により明らかにするよう求めます |
会社が応じない場合には、相続人としての立場に基づき、株主総会議事録の閲覧謄写(会社法第318条第4項)、計算書類等の閲覧謄写(会社法第442条第3項)を請求することを検討します。被相続人が株式を保有していた場合には、相続によりその株式も承継されますので、株主としての権利を行使し得ます。
7 弔慰金との区別
会社から支給される金銭には、退職慰労金のほか、弔慰金があります。両者は性質が異なり、支給の根拠も異なります。会社が弔慰金のみを支給して退職慰労金を支給しないという対応を採ることがありますので、支給された金銭がいずれの名目によるものかを確認する必要があります。
支給規程において、弔慰金の額が別に定められている場合には、その定めに従って算定されます。両者を合算した額のみが提示された場合には、内訳を明らかにするよう求めることになります。
8 消滅時効
債権は、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき、又は権利を行使することができる時から10年間行使しないときに、時効によって消滅します(民法第166条第1項)。
御遺族の事案では、相続の手続や葬儀の対応に追われる中で、退職慰労金の問題が後回しになりがちです。また、会社との関係が悪化していない場合には、催促をためらうことも少なくありません。その間にも時効は進行しますので、早期に手順を進める必要があります。
| 手段 | 効果 | 根拠 |
|---|---|---|
| 裁判上の請求 | その事由が終了するまでの間、時効の完成が猶予されます | 民法第147条第1項 |
| 催告 | 催告の時から6か月を経過するまでの間、時効の完成が猶予されます | 民法第150条第1項 |
| 協議を行う旨の書面による合意 | 一定の期間、時効の完成が猶予されます | 民法第151条 |
| 会社による承認 | 時効が更新され、新たに進行を始めます | 民法第152条第1項 |
9 案件で確認すべき事項
| 番号 | 確認事項 | 確認の方法 |
|---|---|---|
| 1 | 死亡の年月日及び在任中か退任後かの別 | 戸籍、登記事項証明書 |
| 2 | 在任期間及び役位の変遷 | 登記事項証明書 |
| 3 | 相続人の範囲及び相続分 | 戸籍、法定相続情報一覧図 |
| 4 | 遺言の有無及び内容 | 遺言書、検認の記録 |
| 5 | 相続放棄をした相続人の有無 | 家庭裁判所への照会 |
| 6 | 役員退職慰労金支給規程の有無及び受給権者の定め | 規程の写し、会社への開示の求め |
| 7 | 弔慰金に関する定めの有無 | 規程の写し |
| 8 | 株主総会の決議の有無 | 株主総会議事録 |
| 9 | 過去に死亡した役員への支給の実績 | 計算書類、社内の記録 |
| 10 | 被相続人が保有していた株式の有無 | 株主名簿、法人税申告書別表二 |
10 弁護士にご相談いただく意味
御遺族の事案では、会社との関係が親族関係と重なっていることが少なくありません。感情の問題と法的な請求とを切り分け、資料に基づいて進めることが要点となります。また、相続人が複数ある場合には、相続人間の意向の調整も必要となります。
弁護士は、御遺族の代理人として、相続人の確定、支給規程の入手及び受給権者の定めの確認、会社に対する請求及び資料の開示の求め、会社法上の各種の閲覧謄写の請求、消滅時効の管理及び完成猶予の措置、訴訟その他の裁判所の手続の遂行を行います。なお、相続税その他の課税関係については税理士に、相続登記の申請については司法書士に、それぞれ御確認いただくことになります。
よくあるご質問
質問1 夫が在任中に亡くなりました。何から始めればよいですか。
登記事項証明書により在任期間及び役位を確定し、戸籍により相続人を確定したうえで、会社に対して支給規程の開示を求めることから始めることになります。
質問2 相続人が複数います。全員でないと請求できませんか。
可分債権として当然に分割されると解される場合には、各相続人が自らの相続分に相当する部分について単独で請求し得ます。もっとも、円滑な支払のためには全員での請求が望ましい場合もあります。
質問3 会社が「相続人の話がまとまってから」と言います。
当然に分割されると解される場合には、支払を留保する理由とはなりません。この点を書面により指摘することが考えられます。
質問4 相続放棄をしました。退職慰労金は受け取れませんか。
相続財産となる場合には受け取ることができません。もっとも、支給規程に受給権者の定めがあり、固有の権利として取得すると解される場合には、別の検討を要します。
質問5 弔慰金だけを渡され、退職慰労金は出ないと言われました。
両者は性質が異なりますので、支給規程における定めを確認したうえで、退職慰労金について別途請求することを検討することになります。
本記事における非開示事項について
相続人間の意向の調整の進め方、会社に対する請求の順序及び時期の選択、会社の反論に応じた主張の組み替え方は、株主構成、機関設計、財務状況、従前の経緯等により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開しておりません。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、役員退職慰労金の未払に関するご相談をお受けしております。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、この分野に精通していることから当該分野を取り扱っております。
- 電話番号 03-6435-8418
- 受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)
- ご相談は事前予約制です
ご相談に際しましては、被相続人及び相続人の戸籍、登記事項証明書、役員退職慰労金支給規程の写し、株主総会議事録の写し、報酬額が分かる資料、会社との往復の書面をお持ちください。お手元になくてもご相談をお受けしております。課税関係については税理士にご確認ください。
弁護士費用につきましては、弁護士費用一覧のページをご覧ください。
本記事の根拠条文
会社法 第318条第4項(株主総会議事録の閲覧謄写)、第361条第1項(取締役の報酬等)、第387条第1項(監査役の報酬等)、第433条第1項(会計帳簿等の閲覧謄写の請求)、第442条第3項(計算書類等の閲覧等)
民法 第147条第1項(裁判上の請求等による時効の完成猶予)、第150条第1項(催告による時効の完成猶予)、第151条(協議を行う旨の合意による時効の完成猶予)、第152条第1項(承認による時効の更新)、第166条第1項(債権等の消滅時効)、第896条(相続の一般的効力)、第898条(共同相続の効力)、第900条(法定相続分)、第907条(遺産の分割の協議又は審判)、第939条(相続の放棄の効力)
判例法理による部分 役員退職慰労金が会社法第361条第1項の報酬等に含まれること、及び金銭債権のような可分債権が相続の開始と同時に法定相続分に応じて当然に分割されると解されることについては、判例法理によります。受給権者の定めがある場合の権利の性質は、規程の定めに照らし、個別の事案ごとに判断されます。
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