支払の時期及び方法を交渉により定める場合の条件

項目 内容
記事番号 RL33(支払条件の交渉。周辺記事・専門解説記事)
表題 支払の時期及び方法を交渉により定める場合の条件
スラッグ shiharai-jiki-houhou-koushou
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主キーワード 役員退職慰労金 分割払 交渉 条件
検索意図 会社が一括では支払えないという場合に、支払の時期や方法をどのような条件で取り決めればよいかを知りたい
送客先ランディングページ 3-9 業績が悪いことを理由に役員退職慰労金を断られてお困りではありませんか(/gyoseki_akka_kyohi/。主)
作成年月日 令和8年8月19日
第1版(v01)
メタディスクリプション 役員退職慰労金の支払の時期及び方法を交渉により定める場合の条件について、合意書に必ず入れるべき条項、期限の利益の喪失、担保及び連帯保証、公正証書によることの意味、清算条項の注意点を整理します。

支払の時期及び方法を交渉により定める場合の条件

会社が退職慰労金の支払義務自体は認めながら、一括では支払えないという場合、支払の時期及び方法を定める合意を結ぶことが現実的な選択となります。この合意の内容は、その後に会社が支払を怠った際の回収の実効性を大きく左右します。本記事では、支払を求める側の元役員及びその御遺族に向けて、合意に際して定めておくべき条件を整理します。

1 結論 「金額」よりも「不履行のときにどうするか」が要点です

分割払の合意を結ぶ際、当事者の関心は総額と各回の金額に向かいがちです。しかし、その後に問題となるのは、会社が支払を怠った場合の対応です。したがって、合意の際に最も重視すべきは、不履行が生じたときに直ちに動ける仕組みを備えておくことです。

優先度 定めるべき事項 理由
第1 期限の利益の喪失 1回の不履行で残額全部を請求できるようにします
第2 公正証書によること 訴訟を経ずに強制執行の手続に進めます
第3 担保又は連帯保証 会社の資力が不足した場合の備えとなります
第4 遅延損害金 履行を促す効果があります
第5 総額及び各回の金額 回収可能な範囲で定めます

2 合意書に入れるべき条項

条項 記載すべき内容 留意点
債務の特定 役員退職慰労金として支払うべき債務であることを明記します 他の債務と混同しないようにします
総額 支払うべき金額の総額を記載します 既払分がある場合は残額を明記します
支払期日及び金額 各回の期日と金額を具体的に記載します 末日か営業日かを明確にします
支払方法 振込先の口座、手数料の負担を定めます 手数料の負担者を明記します
期限の利益の喪失 1回でも怠ったときは当然に喪失する旨を定めます 「当然に」の文言が重要です
遅延損害金 利率及び起算日を定めます 定めがない場合は法定利率によります
担保 会社の資産に担保権を設定する旨を定めます 設定の登記まで行う必要があります
連帯保証 代表者個人の連帯保証を定めます 保証契約は書面によることを要します
公正証書 公正証書を作成する旨及び費用の負担を定めます 強制執行に服する旨の陳述を記載します
清算条項 対象となる範囲を限定します 他の請求まで放棄しないようにします

3 期限の利益の喪失の定め

期限は、債務者の利益のために定めたものと推定されます(民法第136条第1項)。したがって、期限の利益の喪失の定めがなければ、1回の不履行があっても、期限が到来していない部分について請求することができません。

定めを置く場合には、次の点を明確にします。

事項 望ましい定め方
喪失の態様 当然に喪失する旨とします(請求を要しない)
喪失事由 支払の遅滞のほか、差押え、事業の廃止、破産手続開始の申立て等を含めます
遅滞の程度 1回でも怠ったときとします
効果 残額全部について直ちに支払う旨とします

会社側からは、「2回以上怠ったとき」「催告してもなお履行がないとき」といった修正が求められることがあります。この場合、催告及び期間の経過という手間が加わりますので、応じるかどうかは会社の資力及び誠実性を踏まえて判断することになります。

4 公正証書によることの意味

合意を公正証書によって作成し、債務者が直ちに強制執行に服する旨の陳述を記載した場合、当該公正証書は債務名義となります(民事執行法第22条第5号)。これにより、会社が支払を怠った際に、訴訟を経ることなく強制執行の手続に進むことができます。

比較 公正証書による場合 私署証書による場合
不履行時の手続 直ちに強制執行の申立てが可能です 訴訟を提起して判決を得る必要があります
要する期間 短期間で執行に着手できます 訴訟に相応の期間を要します
作成の手間 公証役場での手続を要します 当事者間で作成できます
費用 公証人の手数料を要します 格別の費用を要しません

作成の手間と費用はありますが、不履行が生じた場合の差は大きなものとなります。会社が分割払を求めてくる状況では、そもそも資力に不安がある場合が多いといえますので、公正証書によることを強く検討すべき場面です。

5 担保及び連帯保証

手段 内容 留意点
不動産への抵当権の設定 会社が所有する不動産に担保権を設定します 先順位の担保権の有無及び担保余力を確認します
代表者個人の連帯保証 代表者が会社と連帯して債務を負担します 保証契約は書面によることを要します
他の資産の担保 機械設備、売掛債権等を対象とします 対抗要件の具備の方法を確認します

担保権の設定については、設定の合意にとどまらず、登記その他の対抗要件を備えるところまで行う必要があります。合意書に定めただけで登記を行わないまま放置すると、実効性がありません。

6 清算条項の注意点

合意書の末尾に「本合意書に定めるほか、当事者間に何らの債権債務がないことを相互に確認する」といった清算条項が置かれることがあります。この条項があると、退職慰労金以外の請求(未払の役員報酬、使用人としての退職金、立替金の精算等)を行うことができなくなるおそれがあります。

確認事項 内容
他の未払の有無 役員報酬、使用人分の退職金、立替金等が残っていないか
個人保証の扱い 会社の借入れに対する個人保証が残っていないか
貸借の精算 会社との間の貸付け及び借入れが整理されているか
物品の返還 社宅、社用車、貸与された物品の扱いが定まっているか
条項の範囲 清算の対象を退職慰労金に限定できないか

清算条項を置く場合には、対象を明確に限定することを検討します。全面的な清算条項に応じる場合には、他の請求がすべて解決していることを確認したうえで判断する必要があります。

7 交渉における現実的な判断

会社の資力に不安がある事案では、次の点が判断の分かれ目となります。

判断事項 検討の視点
減額に応じるか 確実に回収できる額と、争って得られる額との比較
期間の長さ 期間が長いほど不履行の危険が高まります
頭金の有無 初回に相当額を受領できるかは重要な要素です
担保の有無 担保が得られるのであれば期間の長さを許容し得ます
手続に移る選択 交渉が長引く場合には訴訟に移る判断も必要です

交渉が長期化している間も時効は進行します。協議を行う旨の書面による合意(民法第151条)により時効の完成を猶予しておくことを検討してください。

8 案件で確認すべき事項

番号 確認事項 確認の方法
1 会社が認めている債務の額 会社からの書面
2 会社が提示する支払の期間及び各回の額 会社からの書面
3 会社の財務状況及び支払能力 計算書類
4 会社が所有する不動産及び担保余力 不動産の登記事項証明書
5 代表者個人の資力 不動産の登記事項証明書
6 他に未払となっている債権の有無 報酬の記録、立替えの記録
7 個人保証及び貸借の状況 保証契約書、計算書類
8 会社が提示した合意書の案の内容 案文
9 清算条項の有無及び範囲 案文
10 退任からの経過期間 登記事項証明書

9 弁護士にご相談いただく意味

分割払の合意は、当事者間の話合いで済ませられるように見えます。しかし、期限の利益の喪失の定めがない、担保を取らない、清算条項の範囲が広すぎるといった不備は、後に回復することができません。合意書に署名する前の確認が決定的に重要です。

弁護士は、元役員の代理人として、会社の資力の調査、支払条件の交渉、合意書の作成及び会社が提示した案文の検討、公正証書の作成の手配、担保権の設定に関する調整、消滅時効の管理、不履行が生じた場合の執行その他の手続の遂行を行います。

よくあるご質問

質問1 会社から分割払の案が示されました。応じてよいですか。

期限の利益の喪失の定め、担保又は連帯保証、清算条項の範囲を確認したうえで判断することになります。案文を御持参のうえ御相談ください。

質問2 公正証書にすると会社が嫌がります。

費用と手間を理由に難色を示されることがあります。応じない場合には、担保又は連帯保証を求める、期間を短くするなど、別の備えを検討することになります。

質問3 減額に応じるべきでしょうか。

確実に回収できる額と、争って得られる額とを比較して判断することになります。会社の資力の見通しが前提となりますので、財務状況の確認が先となります。

質問4 清算条項があると何が問題ですか。

退職慰労金以外の請求(未払の役員報酬、使用人分の退職金等)ができなくなるおそれがあります。対象を限定することを検討してください。

質問5 交渉が長引いています。時効は大丈夫ですか。

交渉中も時効は進行します。協議を行う旨の書面による合意(民法第151条)などの措置を検討しておく必要があります。

本記事における非開示事項について

減額に応じるか手続に移るかの判断、担保及び保証を求める交渉の進め方、合意書の条項の調整の方法は、株主構成、機関設計、財務状況、従前の経緯等により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開しておりません。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、役員退職慰労金の未払に関するご相談をお受けしております。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、この分野に精通していることから当該分野を取り扱っております。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)
  • ご相談は事前予約制です

ご相談に際しましては、登記事項証明書、会社が提示した合意書の案文、計算書類の写し、役員退職慰労金支給規程の写し、会社との往復の書面をお持ちください。お手元になくてもご相談をお受けしております。課税関係については税理士にご確認ください。

弁護士費用につきましては、弁護士費用一覧のページをご覧ください。

本記事の根拠条文

会社法 第361条第1項(取締役の報酬等)、第442条第3項(計算書類等の閲覧等)

民法 第136条第1項(期限の利益)、第137条(期限の利益の喪失)、第147条第1項(裁判上の請求等による時効の完成猶予)、第150条第1項(催告による時効の完成猶予)、第151条(協議を行う旨の合意による時効の完成猶予)、第152条第1項(承認による時効の更新)、第166条第1項(債権等の消滅時効)、第446条第2項(保証契約の方式)、第695条(和解)

民事執行法 第22条第5号(債務名義としての執行証書)

判例法理による部分 役員退職慰労金が会社法第361条第1項の報酬等に含まれることについては、判例法理によります。清算条項の効力の及ぶ範囲は、条項の文言及び合意の経緯に照らし、個別の事案ごとに判断されます。

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