会社の支払能力を確認するための資料の集め方

会社の支払能力を確認するための資料の集め方

会社が「資金がない」と述べる場合、その説明が実態に沿うものであるかを確認する必要があります。財務状況が本当に厳しいのであれば、早期の対応と回収の方法の工夫が必要となります。他方、支払能力があるにもかかわらず支払を避けているのであれば、手続を進めることにより解決に至ります。本記事では、支払を求める側の元役員及びその御遺族に向けて、会社の支払能力を確認するための資料の集め方を整理します。

結論 立場に応じて使える手段が異なります

立場 使える手段
誰でも 商業登記事項証明書、不動産の登記事項証明書の取得
債権者 計算書類等の閲覧謄写の請求(会社法第442条第3項)
株主 上記に加え、株主総会議事録及び会計帳簿等の閲覧謄写の請求
訴訟の当事者 文書提出命令の申立て(民事訴訟法第219条から第223条まで)
弁護士に依頼した場合 弁護士会を通じた照会(弁護士法第23条の2)

したがって、まず自らがいずれの立場にあるかを確認します。非上場株式を保有していれば選択肢が広がり、保有していない場合には債権者としての請求と登記による確認が中心となります。

登記による確認

商業登記事項証明書

誰でも交付を請求することができます。次の事項を確認します。

確認事項 読み取れること
資本金の額の変動 減資が行われていないか
役員の異動 役員が短期間に入れ替わっていないか
本店の所在地の変更 事業の縮小又は移転の兆候がないか
目的の変更 事業の内容が変わっていないか
支店の廃止 事業の縮小の兆候がないか
解散又は清算に関する登記 会社が清算に向かっていないか

不動産の登記事項証明書

会社が所有する不動産について、誰でも交付を請求することができます。次の事項を確認します。

確認事項 読み取れること
所有権の移転 不動産が売却されていないか
抵当権及び根抵当権の設定 担保余力が残っているか
極度額 金融機関からの借入れの規模
仮差押え及び差押えの登記 他の債権者が既に動いていないか
登記の日付 直近に動きがないか

不動産に既に他の債権者による差押えの登記がされている場合には、回収の見込みが厳しくなります。逆に、担保が設定されていない不動産が残っている場合には、保全の対象として検討することができます。

計算書類等の閲覧謄写の請求

株主及び債権者は、株式会社の営業時間内は、いつでも、計算書類等について閲覧の請求又は謄本若しくは抄本の交付の請求をすることができるとされています(会社法第442条第3項)。

役員退職慰労金の未払を主張する元役員は、会社に対する債権者としての地位を主張し得る立場にありますので、債権者としての請求を検討する余地があります。もっとも、会社が債権の存在自体を争う場合には、この点も争いとなり得ます。

着眼点 読み取れること
現金及び預金の額 直ちに支払える資力があるか
純資産の額 債務超過となっていないか
売上高及び利益の推移 業績が実際に悪化しているか
役員報酬の総額 他の役員には支払われているか
役員貸付金及び役員借入金 会社と役員との間の貸借の状況
借入金の残高 金融機関に対する債務の規模
退職給付に関する引当て 役員退職慰労金が引き当てられていないか
特別損失 資産の処分が行われていないか

特に重視すべきは、役員報酬の総額です。会社が「資金がない」と述べながら、在任中の役員には従前どおりの報酬が支払われている場合には、優先順位の問題にすぎないことが明らかとなります。

会計帳簿等の閲覧謄写の請求

総株主の議決権の100分の3以上の議決権を有する株主等は、株式会社の営業時間内は、いつでも、会計帳簿又はこれに関する資料の閲覧又は謄写の請求をすることができるとされています(会社法第433条第1項)。請求に際しては、その理由を明らかにしなければなりません。

会社は、一定の場合には請求を拒むことができるものとされていますので、請求の理由の記載は慎重に検討する必要があります。この手続は、計算書類よりも詳細な情報を得られる一方、会社との対立を明確にする効果もありますので、時期の選択が重要となります。

弁護士会を通じた照会

弁護士は、受任している事件について、所属する弁護士会に対し、公務所又は公私の団体に照会して必要な事項の報告を求めることを申し出ることができるとされています(弁護士法第23条の2)。

この手続により、会社の取引金融機関に関する情報など、当事者が直接には入手できない情報を得られる場合があります。もっとも、照会先が回答する義務の有無や、回答の範囲については限界がありますので、確実に情報が得られるとは限りません。

訴訟における手続

手続 内容 根拠
文書提出命令の申立て 会社が保有する文書の提出を求めます 民事訴訟法第219条から第223条まで
調査嘱託の申立て 官庁又は団体に必要な調査を嘱託することを求めます 民事訴訟法第186条
財産開示手続 債務名義を有する債権者が債務者の財産の開示を求めます 民事執行法第196条以下
第三者からの情報取得手続 金融機関等から債務者の財産に関する情報を取得します 民事執行法第204条以下

財産開示手続及び第三者からの情報取得手続は、債務名義を有していることが前提となります。したがって、まず判決その他の債務名義を取得することが、資産の把握のうえでも意味を持ちます。

調査の順序

段階 行うこと 費用及び時間
第1 商業登記事項証明書を取得します 低廉かつ迅速です
第2 会社の本店及び事業所の不動産の登記事項証明書を取得します 低廉かつ迅速です
第3 計算書類等の閲覧謄写を請求します 会社の対応により期間を要します
第4 株主である場合には会計帳簿等の閲覧謄写を検討します 争いとなる場合があります
第5 弁護士会を通じた照会を検討します 回答までに期間を要します
第6 訴訟を提起し、文書提出命令の申立てを検討します 相応の期間を要します

費用と時間の負担が小さい手段から順に進めるのが実際です。登記による確認は、比較的短期間で行うことができ、会社に知られることもありません。

資産の流出の兆候

兆候 確認の方法
不動産の所有権の移転 不動産の登記事項証明書
新たな担保権の設定 不動産の登記事項証明書
新会社の設立 商業登記の調査、取引先からの情報
事業の移転 取引先からの情報、会社の広報
従業員の大量の退職 関係者からの情報
本店の移転 商業登記事項証明書

これらの兆候が見られる場合には、保全の手続を検討する必要が生じます。時間の経過が回収可能性を直接に低下させますので、早期の判断が求められます。

案件で確認すべき事項

番号 確認事項 確認の方法
1 元役員が株主であるか及び議決権の割合 株主名簿、法人税申告書別表二
2 会社の資本金の額及びその変動 商業登記事項証明書
3 会社が所有する不動産の有無及び所在 不動産の登記事項証明書
4 不動産に対する担保権及び差押えの登記 不動産の登記事項証明書
5 直近数期の純資産及び損益の状況 計算書類
6 在任中の役員に対する報酬の支給の状況 計算書類
7 借入金の残高及び取引金融機関 計算書類、不動産の登記事項証明書
8 役員貸付金及び役員借入金の状況 計算書類、勘定科目内訳明細書
9 資産の流出の兆候の有無 登記の調査、関係者からの情報
10 他の債権者の動向 不動産の登記事項証明書

弁護士にご相談いただく意味

資産の調査は、順序と時期の選択が重要です。会社に知られずに行える調査を先に済ませ、必要な情報を得たうえで請求に移ることにより、会社が資産を移す前に手を打つことができます。逆に、調査の意図が早期に伝わると、資産の移転を招くおそれがあります。

弁護士は、元役員の代理人として、登記による調査、会社法上の各種の閲覧謄写の請求、弁護士会を通じた照会、訴訟における文書提出命令及び調査嘱託の申立て、債務名義取得後の財産開示手続及び第三者からの情報取得手続、保全の手続の検討及び申立てを行います。

よくあるご質問

質問1 非上場株式を持っていません。決算書を見られますか。

役員退職慰労金の債権者としての地位を主張して、計算書類等の閲覧謄写を請求することを検討できます(会社法第442条第3項)。会社が債権の存在を争う場合には、その点も争いとなり得ます。

質問2 会社に知られずに調べる方法はありますか。

商業登記事項証明書及び不動産の登記事項証明書の取得は、会社に知られることなく行うことができます。まずこれらから始めることが通例です。

質問3 会社の預金口座を調べられますか。

債務名義を有している場合には、第三者からの情報取得手続により金融機関から情報を得られる場合があります。債務名義がない段階では、直接に調べる方法は限られます。

質問4 会計帳簿の閲覧を請求すると会社と対立しますか。

会社が拒む場合には争いとなり得ます。時期の選択及び請求の理由の記載については、慎重に検討する必要があります。

質問5 会社が不動産を売却していました。どうすればよいですか。

資産の流出が進んでいる可能性がありますので、保全の手続を早期に検討することになります。売却の相手方及び時期を確認したうえで対応を判断します。

本記事における非開示事項について

調査の順序及び時期の選択、会計帳簿閲覧謄写請求を行う時期の判断、保全の要否及び対象財産の選定は、株主構成、機関設計、財務状況、従前の経緯等により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開していません。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、役員退職慰労金の未払に関するご相談をお受けしています。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、この分野に精通していることから当該分野を取り扱っています。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • ご相談は事前予約制です

ご相談に際しましては、登記事項証明書、役員退職慰労金支給規程の写し、計算書類の写し、会社が所有する不動産に関する情報、会社との往復の書面をお持ちください。お手元になくてもご相談をお受けしています。課税関係については税理士にご確認ください。

弁護士費用につきましては、弁護士費用一覧のページをご覧ください。

本記事の根拠条文

会社法 第318条第4項(株主総会議事録の閲覧謄写)、第361条第1項(取締役の報酬等)、第433条第1項(会計帳簿等の閲覧謄写の請求)、第442条第3項(計算書類等の閲覧等)

民法 第166条第1項(債権等の消滅時効)

民事訴訟法 第186条(調査の嘱託)、第219条から第223条まで(書証及び文書提出命令)

民事執行法 第196条以下(財産開示手続)、第204条以下(第三者からの情報取得手続)

民事保全法 第20条第1項(仮差押命令の必要性)

弁護士法 第23条の2(報告の請求)

判例法理による部分 役員退職慰労金が会社法第361条第1項の報酬等に含まれることについては、判例法理によります。債権者としての閲覧謄写の請求の可否は、債権の存否に関する会社の対応により、個別の事案ごとに問題となります。

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