役員退職慰労金支給規程を根拠として請求する場合の組み立て
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 記事番号 | RL06(支給規程があるのに未払。巨大記事・中核柱記事) |
| 表題 | 役員退職慰労金支給規程を根拠として請求する場合の組み立て |
| スラッグ | shikyu-kitei-konkyo-seikyu |
| 想定ディレクトリ | /archives/shikyu-kitei-konkyo-seikyu/ |
| 主キーワード | 役員退職慰労金 支給規程 請求 |
| 検索意図 | 役員退職慰労金支給規程を根拠として会社に支払を請求できるかを知りたい |
| 送客先ランディングページ | 3-2 役員退職慰労金の支給規程があるのに支払われずお困りではありませんか(/shikyu_kitei_ari_mibarai/。主)、3-1 決議がされない場合(/ketsugi_miryo_seikyu/。補助) |
| 作成年月日 | 令和8年8月14日 |
| 版 | 第1版(v01) |
| メタディスクリプション | 役員退職慰労金支給規程が存在するにもかかわらず支払われない場合に、規程を根拠として請求を組み立てる方法を解説します。規程の法的性質、株主総会の決議との関係、一任決議の効力、算定式の当てはめ、会社の反論への対応、資料の入手方法までを条文及び判例法理に即して整理します。 |
役員退職慰労金支給規程を根拠として請求する場合の組み立て
「支給規程には、月額報酬に在任年数と役位別の倍率を乗じると書いてあります」「規程どおりに計算すれば金額は一義的に決まるはずなのに、会社は決議がないと言います」「規程は取締役会で決めたものだから株主総会とは関係ないと説明されました」。役員退職慰労金支給規程をめぐるご相談は、このような形で寄せられます。
本記事では、支給規程を根拠として請求を組み立てる場合の考え方を整理します。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っております。本記事は、支払を求める側の方に向けたものです。
1 結論 規程だけでは足りず、規程と決議との関係を組み立てます
役員退職慰労金支給規程が存在するというだけで、当然に具体的な請求権が生じるわけではありません。他方で、規程が存在する場合には、規程が存在しない場合と比べて、請求の組み立てははるかに容易になります。
組み立ての骨格は、次の3段構えです。
| 段階 | 主張の内容 |
|---|---|
| 第1段階 | 支給規程が存在し、その内容により支給額が一義的に、又は一定の限度で確定し得ること |
| 第2段階 | 株主総会において、規程に従って支給する旨の決議又は取締役会への一任決議がされていること |
| 第3段階 | 規程を当てはめた場合の金額が、具体的にいくらとなるか |
第2段階が欠ける場合には、支給の慣行の主張、又は決議を求める働きかけを併用します。
2 支給規程の法的性質
2-1 規程は誰が定めたものかを確認します
役員退職慰労金支給規程は、会社の内部規程です。誰が定めたかにより、位置付けが異なります。
| 制定の主体 | 位置付け | 請求への影響 |
|---|---|---|
| 株主総会 | 株主の意思により定められた支給の基準 | 会社法第361条第1項の趣旨に最も適合します |
| 取締役会 | 業務執行に関する内部の定め | 株主総会の決議との関係を別途主張する必要があります |
| 制定の経緯が不明 | 実務上しばしば見られます | 議事録及び稟議書の確認から始めます |
中小会社では、規程が存在するにもかかわらず、その制定の経緯を示す議事録が残っていないことが珍しくありません。この場合、規程の写しに押された印、作成の日付、社内での取扱いの実態等から、制定の事実を積み上げることになります。
2-2 会社法第361条第1項との関係
取締役の報酬等は、定款にその額を定めていないときは、株主総会の決議によって定めなければならないとされています(会社法第361条第1項)。役員退職慰労金は、在任中の職務執行の対価としての性質を有するものとして、同項の「報酬等」に含まれると解されています。この点は判例法理によります。
支給規程は、それ自体としては「株主総会の決議」ではありません。したがって、規程のみを根拠として請求する場合には、規程と株主総会の決議との関係をどのように構成するかが要点となります。
2-3 支給基準に従うことを前提とする一任決議
実務上多く見られるのは、株主総会において「役員退職慰労金を、当社の定める支給規程に従い支給することとし、その具体的な金額、支払の時期及び方法の決定は取締役会に一任する」旨を決議する形です。
このような一任決議は、支給基準が存在し、株主が基準の内容を知り得る状態にあり、その基準に従って金額が決定されることが前提とされている場合には、有効と解されています。この点は判例法理によりますので、決議の文言、支給基準の内容、株主が基準を知り得たかどうかを個別に検討する必要があります。
一任決議が有効である場合、その後に取締役会が具体的な金額を決定しないという状態は、株主総会の決議の欠如とは異なる問題です。この場合、会社が決定を怠っているという構成により請求を組み立てる余地があります。
3 実務上よく起きる問題
3-1 規程の存在自体を否定される
会社が「そのような規程はない」と述べる場合があります。規程は登記事項ではなく、外部から確認する方法がありません。手元に写しがない場合には、その入手が最初の課題となります。入手の方法については、関連記事「支給規程の写しを会社から入手する方法」に譲ります。
3-2 規程が退任前に廃止されたと主張される
退任の直前に規程が廃止された、又は改定されて支給額が大幅に減じられた、と主張される事案があります。廃止又は改定の効力が、既に在任していた役員に及ぶかどうかは、廃止又は改定の手続、その時期、対象となる役員の同意の有無等により判断されます。廃止の議事録の日付と、退任の日付との前後関係の確認が出発点となります。
3-3 規程の適用対象から除外されていると主張される
「非常勤の役員には適用しない」「代表取締役のみを対象とする」等、規程の適用範囲に関する反論がされることがあります。規程の文言と、過去の実際の運用とを照合し、運用が文言と異なる場合には、その運用の事実を主張することになります。
3-4 功績倍率の解釈が争われる
規程が「役位別の功績倍率を乗じる」と定めながら、倍率の具体的な数値を別表に委ね、その別表が見当たらない、という事案があります。また、「最終の月額報酬」を基礎とする規程において、退任の直前に報酬が減額されていた場合には、いずれの時点の報酬を基礎とするかが争われます。報酬の減額の経緯そのものが争点となる場合には、関連する記事もあわせてご確認ください。
3-5 「業績が悪いので支給しない」と説明される
規程に、業績に応じて支給しないことができる旨の定めがある場合と、ない場合とで、扱いが異なります。定めがない場合に、業績を理由として一方的に支給を拒むことは、規程の定めに反する取扱いとなり得ます。
4 請求の組み立て方
4-1 主張の構造
| 主張の順位 | 請求原因の骨格 | 必要となる資料 |
|---|---|---|
| 第1次的主張 | 支給規程及びこれに従う旨の株主総会の決議により、規程の定める算定方法による金額の請求権が発生した | 規程、株主総会議事録 |
| 予備的主張1 | 支給の慣行が確立しており、これに従った支給を受ける権利が生じた | 過去の支給実績の資料 |
| 予備的主張2 | 支給の合意が個別に成立した | 覚書、往復の書面、電子メール |
| 予備的主張3 | 決定を怠る取締役に対する責任 | 会社法第429条第1項の要件に関する資料 |
4-2 算定の当てはめ
支給規程の多くは、次の形の算定式を採用しています。
退任時の月額報酬 × 役位別の在任年数 × 役位別の功績倍率 の合計
この式に当てはめるためには、次の各要素を資料により確定する必要があります。
| 要素 | 確認の資料 |
|---|---|
| 退任時の月額報酬 | 源泉徴収票、報酬の支払の記録、株主総会議事録 |
| 役位ごとの在任期間 | 登記事項証明書、辞令、議事録 |
| 役位別の功績倍率 | 規程本体及び別表 |
| 加算又は減算の事由 | 規程の定め |
登記事項証明書には、取締役及び代表取締役の就任及び退任の年月日が記録されていますので、役位ごとの在任期間の主要部分は登記により確定することができます。他方、常務取締役、専務取締役等の社内の役位は登記事項ではありませんので、辞令、議事録、名刺、社内報等により立証することになります。
4-3 遅延損害金
金銭債務の不履行については、債権者は損害の証明をすることを要せず、遅延損害金を請求することができます(民法第419条第1項及び第2項)。法定利率は年3パーセントとされ、3年ごとに見直されるものとされています(民法第404条)。起算点は、支払期限の定めがある場合にはその期限の経過の時、定めがない場合には履行の請求を受けた時が基本となります。
5 案件で確認すべき事項
| 番号 | 確認事項 | 確認の方法 |
|---|---|---|
| 1 | 支給規程の存否及び全文(別表を含みます) | 手元の写し、会社への開示の求め |
| 2 | 規程の制定及び改廃の経緯 | 株主総会議事録、取締役会議事録 |
| 3 | 規程に従って支給する旨の株主総会の決議の有無 | 株主総会議事録 |
| 4 | 取締役会への一任決議の有無及びその文言 | 株主総会議事録 |
| 5 | 取締役会における金額の決定の有無 | 取締役会議事録 |
| 6 | 過去の他の役員に対する支給の実績及び算定の内容 | 計算書類、社内の記録 |
| 7 | 退任時の月額報酬及びその変動の経緯 | 源泉徴収票、議事録 |
| 8 | 役位ごとの在任期間 | 登記事項証明書、辞令 |
| 9 | 退任の事由 | 登記事項証明書、辞任届の写し |
| 10 | 退任からの経過期間及び時効の状況 | 登記事項証明書 |
資料の入手に用いる主な手段は、次のとおりです。
| 資料 | 手段 | 根拠 |
|---|---|---|
| 株主総会議事録 | 株主又は債権者としての閲覧謄写の請求 | 会社法第318条第4項 |
| 取締役会議事録 | 株主としての閲覧謄写の請求(裁判所の許可を要する場合があります) | 会社法第371条第2項、第3項 |
| 計算書類等 | 株主又は債権者としての閲覧等の請求 | 会社法第442条第3項 |
| 会計帳簿等 | 議決権の100分の3以上を有する株主としての請求 | 会社法第433条第1項 |
| 会社が保有する文書 | 訴訟における文書提出命令の申立て | 民事訴訟法第219条から第223条まで |
| 第三者が保有する情報 | 弁護士会を通じた照会 | 弁護士法第23条の2 |
6 弁護士にご相談いただく意味
支給規程がある事案は、一見すると単純に見えます。規程に当てはめれば金額が出るからです。しかし実際には、規程の効力、決議との関係、適用範囲、算定の基礎となる報酬額、廃止又は改定の効力といった論点が重なり、いずれか一つでも崩れると請求全体が立ち行かなくなります。
弁護士は、元役員の代理人として、規程及び決議の位置付けの整理、主張の順位付け、資料の入手、会社の反論の想定と対応、訴訟における立証の設計を行います。
なお、どの主張をどの順序で提示するか、資料をどの段階で開示するかは、当事務所が個別の案件を通じて蓄積してまいりました実務上の知見に属しますので、本記事では詳細を開示しておりません。
よくあるご質問
質問1 支給規程があれば、株主総会の決議がなくても請求できますか。
規程の存在のみで当然に請求権が生じるとは限りません。規程に従って支給する旨の株主総会の決議又は一任決議が存在するかが重要です。これらが確認できない場合には、支給の慣行その他の主張を併用することになります。
質問2 取締役会が定めた規程でも根拠になりますか。
取締役会が定めた規程は、それ自体は業務執行に関する内部の定めです。もっとも、株主総会が支給基準に従うことを前提として一任した場合には、その基準として機能し得ます。決議の文言と規程との対応関係の確認が必要です。
質問3 退任の直前に規程が廃止されました。もう請求できませんか。
廃止の効力が既に在任していた役員に及ぶかは、廃止の手続、時期、対象となる役員の同意の有無等により判断されます。廃止の議事録の日付と退任の日付との前後関係の確認から始めます。
質問4 規程の別表が見当たらず、倍率が分かりません。
過去の支給の実績から倍率を逆算し得る場合があります。計算書類、社内の記録、関係者の記憶等により、実際に用いられた倍率の水準を積み上げることになります。
質問5 同じ役位の他の役員より低い金額を提示されました。
規程の定めに従っていない可能性がありますので、規程の当てはめの検証と、過去の支給実績との均衡の主張を検討します。
質問6 規程に「業績を勘案して減額することができる」とあります。減額は避けられませんか。
減額をすることができる旨の定めがあっても、減額の幅が無制限に許されるわけではありません。減額の理由の具体性、他の役員との均衡、減額の程度の相当性を検討することになります。
7 会社の主な反論と検討の視点
規程を根拠とする請求に対し、会社が述べる反論は、おおむね次の類型に整理されます。
| 会社の反論 | 検討の視点 | 確認する資料 |
|---|---|---|
| 規程は存在しない | 計算書類における過去の支給の計上、引当金の計上 | 計算書類、附属明細書 |
| 規程は取締役会が定めた内部の基準にすぎない | 株主総会が支給基準に従うことを前提に一任したか | 株主総会議事録 |
| 株主総会の決議がない | 支給の慣行、株主全員の了解の有無 | 議事録、過去の支給実績 |
| 規程は退任前に廃止された | 廃止の手続、時期、在任していた役員への効力 | 廃止の議事録 |
| 規程の適用対象ではない | 規程の文言と実際の運用との一致 | 規程、過去の支給実績 |
| 算定の基礎となる報酬額が異なる | 報酬の減額の経緯、減額の効力 | 議事録、給与明細 |
| 在任中の非違行為があるため減額する | 事実の有無、減額の程度の相当性 | 当時の資料 |
| 会社に支払能力がない | 請求権の存否とは別の問題 | 計算書類 |
これらの反論は、しばしば同時に、又は順次に主張されます。一つの反論を封じると次の反論が出てくるという展開になりますので、あらかじめ全体を想定して資料を整えておくことが有用です。
8 金額の主張を裏付ける資料
規程に当てはめた金額を主張するにあたり、次の資料を整えます。
| 資料 | 立証する事項 |
|---|---|
| 登記事項証明書 | 取締役及び代表取締役としての在任期間 |
| 辞令、社内報、名刺 | 常務取締役、専務取締役等の社内の役位及びその期間 |
| 源泉徴収票 | 各年の報酬の額 |
| 株主総会議事録及び取締役会議事録 | 報酬の額の決定の経過 |
| 規程及び別表 | 算定方法及び功績倍率 |
| 過去の支給の実績 | 実際に用いられた算定方法 |
| 計算書類及び附属明細書 | 引当金の計上額 |
社内の役位は登記事項ではありませんので、辞令その他の資料により立証する必要があります。中小会社では辞令が発行されていないことがありますので、社内報、対外的な文書、名刺、取引先とのやりとりの記録等を積み上げることになります。
役員退職慰労引当金が計上されている場合、その計上額は、会社自身が用いた算定の結果を示すものとして、有力な資料となります。
本記事における非開示事項について
主張の順序、資料の開示の時期、会社の反論に応じた組み替え方は、規程の内容、株主構成、財務状況、従前の経緯等により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開しておりません。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、役員退職慰労金の未払に関するご相談をお受けしております。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、この分野に精通していることから当該分野を取り扱っております。
- 電話番号 03-6435-8418
- 受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)
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ご相談に際しましては、役員退職慰労金支給規程の写し(別表を含みます)、登記事項証明書、株主総会議事録の写し、源泉徴収票、会社との往復の書面をお持ちください。お手元になくてもご相談をお受けしております。課税関係については税理士にご確認ください。
本記事の根拠条文
会社法 第318条第4項(株主総会議事録の閲覧謄写)、第330条(株式会社と役員との関係)、第361条第1項(取締役の報酬等)、第371条第2項・第3項(取締役会議事録の閲覧謄写)、第387条第1項(監査役の報酬等)、第429条第1項(役員等の第三者に対する損害賠償責任)、第433条第1項(会計帳簿等の閲覧謄写の請求)、第442条第3項(計算書類等の閲覧等)
民法 第404条(法定利率)、第415条(債務不履行による損害賠償)、第419条第1項・第2項(金銭債務の特則)、第648条(受任者の報酬)
民事訴訟法 第219条から第223条まで(書証及び文書提出命令)
弁護士法 第23条の2(報告の請求)
判例法理による部分 役員退職慰労金が会社法第361条第1項の報酬等に含まれること、支給基準に従うことを前提とする取締役会への一任決議の効力については、判例法理によります。個別の事案における適用は、決議の文言及び支給基準の内容により異なります。
関連するご案内
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