役員退職慰労金の消滅時効の起算点をどう考えるか

項目 内容
記事番号 RL47(時効。巨大記事・中核柱記事)
表題 役員退職慰労金の消滅時効の起算点をどう考えるか
スラッグ taishokuirokin-jikou-kisanten
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主キーワード 役員退職慰労金 時効 起算点
検索意図 役員退職慰労金の消滅時効がいつから進行するのかを知りたい
送客先ランディングページ 3-13 役員退職慰労金の時効が心配でお困りではありませんか(/jikou_semmari/。主)、3-1 決議がされない場合(/ketsugi_miryo_seikyu/。補助)
作成年月日 令和8年8月14日
第1版(v01)
メタディスクリプション 役員退職慰労金の消滅時効の起算点について、退任の時と決議の時のいずれを基準とするかを整理します。民法第166条第1項の主観的起算点と客観的起算点、決議がない場合の考え方、分割払の場合、使用人分の退職金の時効、完成猶予及び更新の手段までを条文に即して解説します。

役員退職慰労金の消滅時効の起算点をどう考えるか

「退任してから6年が経ちました。もう時効ですか」「決議がされていないのですが、それでも時効は進むのですか」「毎年『来年こそは』と言われ続けて、いつの間にか年数が経ってしまいました」。時効に関するご相談は、この形で寄せられます。

本記事では、役員退職慰労金の消滅時効の起算点をどのように考えるかを整理します。時効の問題は、結論が明快に見える一方で、起算点の設定次第で結論が正反対になる論点です。当事務所は役員の側にも会社の側にも立ちますが、本記事は支払を求める側の方に向けたものです。

1 結論 起算点は「退任の時」とは限りません

債権は、次のいずれかの場合に、時効によって消滅します(民法第166条第1項)。

起算点 期間
第1号 債権者が権利を行使することができることを知った時(主観的起算点) 5年
第2号 権利を行使することができる時(客観的起算点) 10年

いずれか早く到来したほうにより時効が完成します。したがって、5年と10年の両方を検討する必要があります。

役員退職慰労金について重要なのは、「権利を行使することができる時」がいつかという点です。役員退職慰労金は、原則として株主総会の決議によって初めて具体的な請求権となると解されています(会社法第361条第1項に関する判例法理によります)。この理解を前提とすれば、決議がされていない段階では、そもそも権利を行使することができる状態が到来していないと主張し得る余地があります。

他方、会社側は、退任の時から時効が進行すると主張してくることが想定されます。したがって、「決議がないから時効は進んでいない」という理解に安心して手続を怠ることは、避けるべきです。

2 場合分けによる整理

事案の類型 起算点についての考え方 留意点
決議があり、支払期日が定められている 支払期日の到来の時 最も明確です
決議があるが、支払期日の定めがない 履行の請求をすることができる時 決議の時を基準とする主張と、請求の時を基準とする主張とがあり得ます
一任決議があるが取締役会が金額を決定しない 決定がされていない以上、権利の行使が可能な状態か争いとなります 取締役会に対する働きかけの記録が重要です
決議がない 権利を行使することができる状態が到来していないと主張する余地があります 会社は退任の時を起算点として主張することが想定されます
支給規程に基づく請求 規程の定める支給の時期 規程の文言を確認します
分割払の合意がある 各回の支払期日ごとに進行するのが基本です 期限の利益の喪失の定めがある場合には別の検討を要します
使用人分の退職金 労働基準法第115条により5年 役員分と分けて管理します

2-1 決議がない場合の考え方

決議がない場合について、支払を求める側は、次のような主張を組み立てることが考えられます。

第1に、役員退職慰労金の請求権は、株主総会の決議によって初めて具体化するのであるから、決議がされていない間は「権利を行使することができる時」が到来していない、という主張です。

第2に、支給規程が存在し、これに従って支給する旨の決議がされている場合には、規程の定める支給の時期が起算点となる、という主張です。

第3に、会社が「そのうち支払う」と述べていた場合、その発言が債務の承認に当たり、時効が更新されている(民法第152条第1項)という主張です。

これらの主張が認められるかどうかは、資料の状況及び事実関係により異なります。会社側からは、退任の時を起算点とする反論、又は決議を求める権利の不行使を理由とする反論がされることが想定されます。

2-2 平成29年の民法の改正との関係

債権の消滅時効に関する民法の規定は、平成29年の改正により大きく変更されました。改正前は、一般の債権について10年、商行為によって生じた債権について5年という枠組みが採られていました。改正法の施行日前に生じた債権については、なお従前の例によるとされている部分がありますので、退任の時期が古い事案では、適用される規定を個別に確認する必要があります。

したがって、退任が古い事案について、本記事の記載をそのまま当てはめることはできません。適用される法令の確認を含めてご相談ください。

3 実務上よく起きる問題

3-1 「来年こそは」と言われ続ける

最も多い経過です。会社が支払の意思を示す発言を繰り返す間に、年数が経過します。この場合、会社の発言が債務の承認(民法第152条第1項)に当たれば時効が更新されますが、「検討する」「状況が良くなれば」といった発言が承認に当たるかは、文言及び前後の状況により判断が分かれます。

発言の記録が残っていることが重要です。会話の後に「本日のお話について、次のとおり確認いたします」という趣旨の書面又は電子メールを送っておくことは、記録として意味を持ちます。

3-2 一部の支払を受けた場合

退職慰労金の一部の支払を受けた場合、それが債務の承認に当たると評価されれば、残額についても時効が更新されます。分割払の第1回のみが支払われて止まった、という事案では、この点が重要となります。

3-3 催告を繰り返しても意味がありません

催告があったときは、その時から6か月を経過するまでの間は、時効は完成しないものとされています(民法第150条第1項)。もっとも、催告によって時効の完成が猶予されている間にされた再度の催告は、この効力を有しないものとされています(同条第2項)。したがって、内容証明郵便を毎年送り続けるという方法では、時効の完成を防ぐことはできません。

3-4 協議を行う旨の合意

権利についての協議を行う旨の合意が書面でされたときは、一定の期間、時効の完成が猶予されます(民法第151条)。会社との間で協議が続いている場合には、この合意を書面により行っておくことにより、訴訟の提起を急がずに協議を継続することができます。

4 時効の完成を防ぐ手段

手段 効果 期間 根拠
裁判上の請求(訴えの提起) 事由が終了するまで完成が猶予され、確定判決等により更新されます 訴訟の終了まで 民法第147条
支払督促の申立て 同上 手続の終了まで 民法第147条
調停の申立て 同上 手続の終了まで 民法第147条
催告 6か月間、完成が猶予されます 6か月 民法第150条第1項
協議を行う旨の書面による合意 一定の期間、完成が猶予されます 合意の内容によります 民法第151条
承認 時効が更新され、新たに進行を始めます 更新の時から新たに進行します 民法第152条第1項
仮差押え又は仮処分 その事由が終了した時から6か月を経過するまで完成が猶予されます 6か月 民法第149条

最も確実なのは、裁判上の請求です。他の手段は、いずれも期間が限られているか、相手方の対応に依存します。

5 案件で確認すべき事項

番号 確認事項 資料
1 退任の年月日 登記事項証明書
2 株主総会の決議の有無及びその年月日 株主総会議事録
3 一任決議の有無及び取締役会の決定の有無 議事録
4 支給規程における支給の時期の定め 規程
5 支払期日の定めの有無 議事録、覚書
6 会社の支払の意思を示す発言又は書面 電子メール、書簡、録音
7 一部の支払の有無 預金通帳
8 従前に行った催告の有無及び時期 内容証明郵便の控え
9 使用人としての地位の有無 雇用契約、就業規則、社会保険の記録
10 適用される法令(改正前後) 退任の時期

5-1 使用人分の退職金

取締役でありながら使用人としての地位を併有していた場合、使用人分の退職金については、労働基準法第115条により、退職手当の請求権は5年間行使しないときに時効によって消滅するものとされています。役員分と使用人分とでは、根拠となる規定も時効の起算点も異なりますので、分けて管理する必要があります。

5-2 遅延損害金の扱い

遅延損害金は、元本の債権に付随して発生します。元本が時効により消滅した場合には、遅延損害金も請求することができなくなります。他方、元本の一部について時効が完成していない場合には、その部分に対応する遅延損害金の請求は可能です。

6 弁護士にご相談いただく意味

時効の問題は、「もう手遅れである」と自ら判断して相談に至らないことが最も大きな損失を生みます。決議がされていない事案では、起算点の設定について主張の余地が残されている場合があります。他方、放置すればするほど不利になることも事実です。

弁護士は、元役員又はその相続人の代理人として、起算点に関する主張の組み立て、時効の完成を防ぐ措置の実行、資料の入手、会社との交渉、訴訟の遂行を行います。時効が迫っている場合には、まず完成を防ぐ措置を先行させ、その後に本案の準備を進めるという順序を採ることがあります。

なお、いつ、どの措置を用いるかの判断は、当事務所が個別の案件を通じて蓄積してまいりました実務上の知見に属しますので、本記事では詳細を開示しておりません。

よくあるご質問

質問1 退任から5年が経過しました。もう請求できませんか。

一律に判断することはできません。決議がされていない場合には、起算点が到来していないと主張し得る余地があります。他方、会社は退任の時を起算点として主張することが想定されます。まず事実関係と資料を確認したうえで判断することになります。

質問2 決議がないのに時効が進むというのは、おかしくありませんか。

支払を求める側からは、同様の主張が可能です。もっとも、会社が「退任の時から権利を行使することができた」と主張する余地もあり、争いとなり得ます。したがって、決議がないことを理由に安心して手続を怠ることは避けるべきです。

質問3 毎年、内容証明郵便を送っています。それで時効は止まっていますか。

催告による時効の完成猶予は、催告の時から6か月にとどまり、猶予されている間の再度の催告は効力を有しません(民法第150条第1項及び第2項)。内容証明郵便を送り続けるだけでは、時効の完成を防ぐことはできません。

質問4 社長が「必ず払う」と言いました。時効は止まりますか。

その発言が債務の承認に当たると評価されれば、時効が更新されます(民法第152条第1項)。もっとも、発言の文言及び前後の状況により判断が分かれますので、記録を残しておくことが重要です。

質問5 時効が迫っています。今日できることは何ですか。

まず、訴えの提起、支払督促の申立て、調停の申立てのいずれを採るかを検討します。準備の時間がない場合には、催告により6か月の猶予を得たうえで準備を進めるという方法もあります。ただし、猶予は1回限りと考えるべきです。

質問6 父が請求しないまま亡くなりました。相続人が請求する場合の時効はどうなりますか。

相続により承継された債権の時効は、被相続人の下で進行していた時効を引き継ぎます。相続によって新たに進行を始めるものではありません。相続の開始により相続人が権利を知った時をどう評価するかは、事案により検討を要します。

7 類型ごとの見通しの整理

事案の類型 支払を求める側の主張 会社側が述べると想定される反論
決議がなく、支給規程もない 権利を行使することができる状態が到来していない 退任の時から起算すべきである
決議がなく、支給規程がある 規程の定める支給の時期から起算する 決議がない以上、権利は発生していない
一任決議があり、取締役会の決定がない 決定がされていない以上、起算点が到来していない 相当期間の経過により起算すべきである
決議があり、支払期日の定めがある 期日から起算する 期日から既に経過している
分割払の合意がある 各回の支払期日から起算する 期限の利益の喪失により全額について起算する
会社が支払の意思を示していた 承認により時効が更新された 承認に当たる発言ではない

いずれの類型であっても、支払を求める側の主張が当然に認められるわけではありません。他方、会社側の主張が当然に通るものでもありません。資料の状況により結論が分かれます。

8 時効に関する誤解の整理

よくある理解 実際
退任から5年で必ず時効になる 起算点の考え方により異なります。10年の期間もあります
決議がなければ時効は進まない 主張の余地はありますが、会社は退任の時からの進行を主張します
内容証明郵便を送れば時効は止まる 催告による猶予は6か月にとどまり、繰り返しても効力は生じません
時効が過ぎたら請求できない 時効は援用されなければ裁判所が判断の基礎とすることができません
相続すれば時効は最初から進む 被相続人の下で進行していた時効を引き継ぎます
会社が認めれば時効は関係ない 承認により更新されますが、承認の立証が必要です

これらの誤解により、請求を諦めてしまう例、逆に安心して放置してしまう例の双方があります。いずれも、結果として不利益を生じさせます。

9 時効に関する管理の実務

時効の管理は、次の順序で行います。

順序 作業
1 退任の年月日を登記により確定します
2 決議の有無及びその年月日を確認します
3 起算点についての複数の考え方を並べ、それぞれの完成日を算出します
4 最も早い完成日を基準として、措置の要否を判断します
5 措置を実行し、その記録を保存します
6 措置の効果が及ぶ期間を管理します

起算点について複数の考え方があり得る場合には、最も早い完成日を前提として措置を講じるのが安全です。

本記事における非開示事項について

時効の完成を防ぐ措置の選択及び時期、本案の準備との組合せ方は、資料の状況、会社の対応、金額の大きさ等により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開しておりません。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、役員退職慰労金の未払に関するご相談をお受けしております。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、この分野に精通していることから当該分野を取り扱っております。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • 受付時間 8時00分から21時00分まで(土曜日・日曜日・祝日も受付)
  • ご相談は事前予約制です

時効が迫っている場合には、その旨をお申し出ください。ご相談に際しましては、登記事項証明書、株主総会議事録の写し、支給規程の写し、会社との往復の書面、預金通帳の写しをお持ちください。お手元になくてもご相談をお受けしております。

本記事の根拠条文

会社法 第318条第4項(株主総会議事録の閲覧謄写)、第330条(株式会社と役員との関係)、第361条第1項(取締役の報酬等)、第371条第2項・第3項(取締役会議事録の閲覧謄写)

民法 第147条(裁判上の請求等による時効の完成猶予及び更新)、第149条(仮差押え等による時効の完成猶予)、第150条第1項・第2項(催告による時効の完成猶予)、第151条(協議を行う旨の合意による時効の完成猶予)、第152条第1項(承認による時効の更新)、第166条第1項(債権等の消滅時効)、第896条(相続の一般的効力)

労働基準法 第115条(時効)

判例法理による部分 役員退職慰労金が会社法第361条第1項の報酬等に含まれること、株主総会の決議によって具体的な請求権が生ずることは、判例法理によります。決議がされていない場合の消滅時効の起算点については、事案により判断が分かれ得ます。平成29年の民法の改正の前後で適用される規定が異なる場合がありますので、退任の時期に応じて個別に確認いたします。

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