役員退職慰労金の支給を取締役会に一任できるか―最高裁判所昭和39年12月11日判決の解説

この記事の位置付け

本ページは、株主総会が役員退職慰労金の金額等を取締役会に一任した決議の効力について判断した最高裁判所の判決を、判決文に基づいて解説するページです。退職慰労金規程があるにもかかわらず支給決議がされない場合の請求方法全般については、次のページで整理しています。

▶ 支給規程があれば株主総会の決議がなくても支払われるのか

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役員退職慰労金の支給について、株主総会が「金額、時期及び方法は取締役会に一任する」との決議を行うことは、中小企業から上場会社に至るまで広く見られる実務です。他方、役員の報酬は定款又は株主総会の決議によって定めるべきものとされているため、金額を定めずに取締役会へ委ねる決議がそもそも有効であるのかが問題となります。本ページでは、この点について判断した最高裁判所第二小法廷昭和39年12月11日判決を、判決文に記載された内容に基づいて解説します。

裁判例の基本情報

裁判所・裁判日 最高裁判所第二小法廷 昭和39年12月11日判決
事件番号 昭和38年(オ)第120号
事件名 株主総会決議無効確認請求事件
原審 名古屋高等裁判所 昭和37年10月31日判決
結論 上告棄却(裁判官全員一致)

本ページでは、当事者を「会社A」(被上告人である株式会社)及び「常任監査役B」(退職慰労金の支給対象となった役員)と表記します。上告人は、会社Aの退職慰労金支給決議の無効確認を求めた者です。

事案の概要

判決文によれば、原判決は次の事実を認定しており、最高裁判所はこの事実認定を証拠により是認できるとしています。

  • 会社Aでは、従来から、退職した役員に慰労金を支給する際には、その都度株主総会の議に付していました。
  • 株主総会は、慰労金の金額、時期及び方法を取締役会に一任していました。
  • 取締役会は、自由な判断によるのではなく、会社の業績、退職役員の勤続年数、担当業務、功績の軽重等から割り出した一定の基準により慰労金を決定しており、この決定方法は会社Aにおける慣例となっていました。
  • 辞任した常任監査役Bに対する退職慰労金に関する本件決議も、この慣例によって定めるべきことを黙示して行われたものでした。

上告人は、本件決議は退職慰労金の金額等を取締役会に一任するものであり、役員の報酬を株主総会で定めるべきとする商法の規定の趣旨に反して無効であると主張しました。

争点

株主総会が役員退職慰労金の金額、支給期日及び支給方法を取締役会の決定に委ねた決議が、役員の報酬は定款又は株主総会決議で定めるとする規定(当時の商法第280条、第269条)に反して無効となるかが争点です。

最高裁判所の判断

退職慰労金は報酬に含まれること

最高裁判所は、株式会社の役員に対する退職慰労金は、「その在職中における職務執行の対価として支給されるものである限り」、商法第280条、第269条にいう報酬に含まれると判断しました。その上で、定款にその額の定めがない限り株主総会の決議をもって定めるべきものであり、「無条件に取締役会の決定に一任することは許されない」として、上告人の主張のこの部分は正当であると述べています。

一定の基準に従う趣旨の一任決議は有効であること

しかし、最高裁判所は、会社Aの本件決議は、金額、支給期日及び支給方法を無条件に取締役会の決定に一任した趣旨ではなく、前記の一定の基準に従うべき趣旨であるとし、そうである以上「株主総会においてその金額等に関する一定の枠が決定されたもの」というべきであるから、同条の趣旨に反する無効の決議であるということはできないと判断しました。

結論

最高裁判所は、原判決に違法はないとして、上告を棄却しました。

判決の読み方と実務上の着眼点

無条件の一任と基準に従う一任の区別

本判決は、取締役会への一任決議を一律に有効としたものではありません。判決文は、無条件の一任は許されないことを明示した上で、会社に確立した支給基準があり、取締役会がその基準に従って金額を決定する趣旨で決議されている場合には、株主総会が金額等の「一定の枠」を定めたものと評価できるとしています。したがって、一任決議の有効性を検討する際には、次の点が重要となります。

  • 会社に役員退職慰労金の支給基準(退職慰労金規程、内規、従前の支給慣行等)が存在するか。
  • その基準が、業績、在任年数、役職、功績等から金額を算出できる程度に具体的なものであるか。
  • 株主総会の決議が、明示又は黙示に、その基準に従って決定する趣旨で行われたといえるか。

本件では、決議の文言上基準への言及がなくとも、会社の慣例に従って定める趣旨が黙示されていたと認定されている点に留意が必要です。

退職した役員の側から見た意味

一任決議が有効とされる場合、取締役会は基準に従って金額を決定すべき立場に置かれます。一任決議後に取締役会が金額を決定しない場合や、基準と異なる低額の決定がされた場合の対応については、取締役会への一任決議がされた後に金額が決まらない場合で整理しています。

本判決が扱っていない事項

  • 本判決は、昭和39年当時の商法第280条、第269条を前提とする判断です。現行の会社法では、取締役の報酬等は会社法第361条、監査役の報酬等は会社法第387条が規定しており、本判決の考え方は現行法の下でも参照されていますが、現行法の適用について本判決が直接判断したものではありません。
  • 本判決は、支給基準が存在しない会社における一任決議の効力や、株主総会決議が全く存在しない場合の退職慰労金請求権の成否については判断していません。
  • 本判決は、在職中の職務執行の対価として支給される退職慰労金を前提としています。

よくあるご質問

質問1 株主総会で「取締役会に一任する」と決議されれば、取締役会は自由に金額を決められるのですか。

本判決は、無条件に取締役会の決定に一任することは許されないとしています。一任決議が有効とされたのは、取締役会が会社の一定の基準に従って決定する趣旨であったためです。取締役会が基準を離れて自由に金額を決めてよいという趣旨を述べたものではありません。

質問2 決議の文言に支給基準のことが書かれていなくても有効になりますか。

本件では、会社の慣例によって定めるべきことを黙示して決議がされたと認定されています。文言上の記載の有無だけではなく、会社における支給基準の存在や従前の運用を含めて判断されることになります。

質問3 本判決は監査役の事案ですが、取締役にも当てはまりますか。

判決文は「株式会社の役員に対する退職慰労金」について述べており、取締役の報酬に関する商法第269条を前提に判断しています。監査役の報酬については当時の商法第280条が同条を準用していました。

本記事の根拠条文

  • 商法第269条、第280条(判決当時)
  • 会社法第361条(取締役の報酬等)、第387条(監査役の報酬等)

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執筆者

弁護士法人M&A総合法律事務所 代表弁護士 土屋勝裕(東京弁護士会所属 登録番号26775)

長島・大野・常松法律事務所に在籍した後、慶應義塾大学ビジネス・スクール及びペンシルベニア大学ウォートン校に留学し、ファイナンス理論並びにM&A及び不動産を専攻しました。不動産投資信託(J-REIT)の上場案件に関与し、平成23年には最高裁判所において株式買取請求権に関する逆転判決を得ております。現在は弁護士法人M&A総合法律事務所の代表弁護士を務めております。

主として取り扱う分野 M&A、株式買取請求権、非上場株式の価格の決定、企業価値評価、事業承継及び企業法務

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本記事の記載は一般的な法律情報であり、個別の事案に関する法律上の助言ではありません。記載した経歴は事実の記述であり、個別の事件の結果を保証するものではありません。