支給規程があれば株主総会の決議がなくても支払われるのか

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支給規程と株主総会の決議との関係に関するメインのページです。本ページは、役員退職慰労金の請求において規程のみを根拠とし得るかという問いに即し、規程が持つ足がかりとしての意味をご説明します。買主が決議を控える場面は別のページをご参照ください。

▶ 役員退職慰労金の株主総会決議がされない場合に請求する道筋

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支給規程があれば株主総会の決議がなくても支払われるのか

「会社に役員退職慰労金支給規程があります。規程があるのだから、株主総会の決議がなくても支払ってもらえるのではないでしょうか」。このお尋ねをいただくことは少なくありません。結論から申し上げますと、規程の存在のみでは足りず、決議との関係を検討する必要があります。本記事では、支払を求める側の元役員及びそのご遺族に向けて、この点を整理します。

結論 原則として決議を要しますが、規程は請求の重要な足がかりとなります

取締役の報酬等は、定款にその額を定めていないときは、株主総会の決議によって定めなければならないとされています(会社法第361条第1項)。役員退職慰労金は、在任中の職務執行の対価としての性質を有すると解されており、同項の報酬等に含まれるものとして扱われています。この点は判例法理によります。

したがって、支給規程が存在するというだけでは、当然に具体的な請求権が発生するものではありません。規程は、会社の内部の定めであり、株主総会の決議に代わるものではないためです。

状況 請求の可否の考え方
定款に額の定めがある 定款の定めにより請求し得ます
個別に金額を定める決議がある 決議により具体的な請求権が発生します
規程に従うことを前提とする一任決議がある 規程に当てはめた額を請求する組み立てが考えられます
規程はあるが決議が全くない 決議を求める手続と併せて主張を組み立てます

一任決議がされている場合

実務上、多くの会社では、株主総会において「役員退職慰労金の額、支払の時期及び方法は取締役会に一任する」という決議がされています。このような一任決議は、一定の支給基準が存在し、その基準に従って金額が決定されることが前提とされている場合には、有効であると解されています。この点も判例法理によります。

この理解を前提とすると、次のことがいえます。支給規程が存在し、これを前提とする一任決議がされているのであれば、金額は規程に当てはめることにより算定可能です。したがって、規程に当てはめた額を請求するという組み立てが考えられます。

この場合、争点は「決議の有無」ではなく「取締役会が決定を行わないこと」に移ります。会社が「取締役会がまだ決めていない」と述べることは、支払を免れる理由とはならないという主張につながります。

決議が全くない場合

株主総会の決議が全くされていない場合には、次の主張を検討することになります。

主張 内容 前提となる資料
規程の性質に着目する主張 規程が会社と役員との間の合意の内容となっている 規程の交付、就任時の説明、運用の実際
支給の慣行に着目する主張 規程に従った支給が慣行として確立している 過去の支給実績、計算書類
決議を求める主張 会社に対し、決議を行うよう求める 株主である場合は招集の請求も検討します
決定を怠る取締役への責任追及 取締役個人の責任を検討する 会社法第429条第1項の要件

これらは択一的なものではありません。資料の状況に応じて複数を並行して主張し、会社の反論に応じて重心を移すのが実際です。

規程の内容の確認

規程を根拠とする主張を組み立てるに当たっては、規程の内容を精査する必要があります。

確認事項 内容
適用の範囲 取締役、監査役、非常勤の役員のいずれに適用されるか
算定の方法 役員報酬額、在任年数、役位ごとの倍率がどのように定められているか
決定の手続 株主総会の決議を要する旨が記載されているか
支給の時期 退任後いつまでに支給するものとされているか
不支給又は減額 該当する条項があるか
制定の手続 いつ、どの機関の決定により制定されたか

規程自体に「株主総会の決議を経て支給する」と記載されている場合には、規程のみを根拠とする請求は困難となります。他方、算定の方法が具体的に定められている場合には、一任決議の前提となる支給基準として機能し得ます。

規程の入手

規程の写しが手元にない場合には、会社に開示を求めます。規程は登記事項ではなく、公的に確認する方法がありません。会社が「そのような規程はない」「既に廃止された」と述べることもあります。

方法 内容
書面による開示の求め 規程の写しの交付を求めます
取締役会議事録の確認 制定又は改廃の記録を確認します(会社法第371条第2項、第3項)
株主総会議事録の確認 規程に言及した議案がないかを確認します(会社法第318条第4項)
文書提出命令の申立て 訴訟において会社が保有する規程の提出を求めます
手元の資料の再確認 就任時に交付された資料、社内の文書の控え

会社側から出される反論

会社側の反論 検討の視点
規程があっても決議がなければ支払えない 一任決議の有無及び規程との関係を確認します
規程は内部の目安にすぎない 過去の運用が規程に従っていたかを示します
規程は既に廃止された 廃止の時期、手続及び自らの退任との前後を確認します
規程はあるが適用の対象外である 適用の範囲に関する条項を確認します
そのような規程は存在しない 開示を求め、応じない場合は文書提出命令の申立てを検討します

消滅時効

債権は、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき、又は権利を行使することができる時から10年間行使しないときに、時効によって消滅します(民法第166条第1項)。

「規程があるのだからいずれ支払われるだろう」と考えて待っている間に年数が経過する事案が見られます。規程の存在は請求の足がかりとなりますが、待っていれば自動的に支払われるものではありません。

案件で確認すべき事項

番号 確認事項 確認の方法
1 役員退職慰労金支給規程の有無及び内容 規程の写し、会社への開示の求め
2 規程の制定の時期及び手続 株主総会議事録、取締役会議事録
3 規程における決定の手続に関する記載 規程の写し
4 一任決議の有無及び議案の文言 株主総会議事録
5 個別に金額を定める決議の有無 株主総会議事録
6 定款における報酬に関する定めの有無 定款
7 過去に規程に従って支給された実績 計算書類、社内の記録
8 規程の廃止の有無及び時期 議事録、会社からの通知
9 退任時の月額報酬、在任年数及び役位 源泉徴収票、登記事項証明書
10 退任からの経過期間 登記事項証明書

弁護士にご相談いただく意味

規程があることは有利な事情ですが、それだけで請求が認められるものではありません。規程と決議との関係、規程の文言、過去の運用を併せて検討し、どの構成で請求するかを定める作業が必要となります。

弁護士は、元役員の代理人として、規程の入手及び精査、一任決議の有無の確認、請求の構成の選択、会社に対する請求及び資料の開示の求め、会社法上の各種の閲覧謄写の請求、消滅時効の管理及び完成猶予の措置、訴訟その他の裁判所の手続の遂行を行います。

よくあるご質問

質問1 規程があるのに決議がなければ請求できないのですか。

規程を前提とする一任決議がされている場合には、規程に当てはめた額を請求する組み立てが考えられます。決議が全くない場合には、規程の性質及び支給の慣行に着目した主張を検討することになります。

質問2 規程に「株主総会の決議を経て支給する」と書かれています。

規程のみを根拠とする請求は困難となります。決議を求める手続と併せて、過去の支給実績に着目した主張を検討することになります。

質問3 規程の写しがありません。

会社に開示を求めるほか、訴訟において文書提出命令の申立てを行うことが考えられます。就任時に交付された資料が残っていないかもご確認ください。

質問4 会社が「規程はない」と言っています。

過去の支給実績から支給の基準が確立していたと主張し得るかを検討することになります。計算書類等により実績を把握することが前提となります。

質問5 待っていれば支払われるでしょうか。

待っている間も時効は進行します。規程の存在は足がかりとなりますが、請求の意思を明確にする書面を送ることが必要です。

本記事における非開示事項について

請求の構成の選択、規程の入手の手順、会社の反論に応じた主張の組み替え方は、株主構成、機関設計、財務状況、従前の経緯等により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開していません。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、役員退職慰労金の未払に関するご相談をお受けしています。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、この分野に精通していることから当該分野を取り扱っています。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • ご相談は事前予約制です

ご相談に際しましては、登記事項証明書、定款、役員退職慰労金支給規程の写し、株主総会議事録の写し、源泉徴収票、会社との往復の書面をお持ちください。お手元になくてもご相談をお受けしています。課税関係については税理士にご確認ください。

弁護士費用につきましては、弁護士費用一覧のページをご覧ください。

本記事の根拠条文

会社法 第318条第4項(株主総会議事録の閲覧謄写)、第361条第1項(取締役の報酬等)、第371条第2項・第3項(取締役会議事録の閲覧謄写)、第387条第1項(監査役の報酬等)、第429条第1項(役員等の第三者に対する損害賠償責任)、第442条第3項(計算書類等の閲覧等)

民法 第147条第1項(裁判上の請求等による時効の完成猶予)、第150条第1項(催告による時効の完成猶予)、第151条第1項(協議を行う旨の合意による時効の完成猶予)、第166条第1項(債権等の消滅時効)

民事訴訟法 第219条から第223条まで(書証及び文書提出命令)

判例法理による部分 役員退職慰労金が会社法第361条第1項の報酬等に含まれること、定款の定め又は株主総会の決議がない場合の請求の可否、及び一定の支給基準に従うことを前提とする取締役会への一任決議の効力については、判例法理によります。個別の事案における適用は、決議の文言及び規程の内容により異なります。

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