会社が資産を処分し始めた場合の保全の手続

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会社が資産の処分を始めた場合の保全に関するメインのページです。本ページは、役員退職慰労金の請求において仮差押えと、会社分割や事業譲渡による移転への対応をご説明します。判決を得る前の財産の確保は別のページをご参照ください。
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会社が資産を処分し始めた場合の保全の手続
役員退職慰労金の請求を進めている間に、会社が不動産を売却する、新会社に事業を移す、主要な資産を関係者に譲渡するといった動きを見せることがあります。判決を得ても、そのときに会社に財産が残っていなければ、回収はできません。本記事では、支払を求める側の元役員及びそのご遺族に向けて、財産を確保するための手続を整理します。
結論 時間が結果を分けます
資産の処分が進んでいる事案では、対応の早さがそのまま結果に反映されます。訴訟を提起して判決を得るまでには相応の期間を要しますので、その間に財産が失われるおそれがあるのであれば、判決を待たずに手を打つ必要があります。
| 手段 | 内容 | 時期 |
|---|---|---|
| 仮差押え | 判決の前に財産を確保します | 処分が行われる前に行う必要があります |
| 詐害行為取消請求 | 既に行われた処分の取消しを求めます | 処分が行われた後に用います |
| 会社分割等への対応 | 承継会社等に対する履行の請求を検討します | 組織再編又は事業譲渡が行われた場合 |
| 強制執行 | 債務名義に基づき財産から回収します | 判決その他の債務名義を得た後 |
仮差押えの手続
要件
仮差押命令は、金銭の支払を目的とする債権について、強制執行をすることができなくなるおそれがあるとき、又は強制執行をするのに著しい困難を生ずるおそれがあるときに発することができるとされています(民事保全法第20条第1項)。
申立てに際しては、保全すべき権利又は権利関係及び保全の必要性を明らかにしなければならず、これらについては疎明しなければならないとされています(民事保全法第13条第1項、第2項)。
| 要件 | 内容 | 疎明の資料 |
|---|---|---|
| 保全すべき権利 | 役員退職慰労金の請求権が存在すること | 株主総会議事録、支給規程、支給実績、往復の書面 |
| 保全の必要性 | 強制執行ができなくなるおそれがあること | 不動産の登記事項証明書、計算書類、資産の処分に関する情報 |
対象
仮差押命令は、特定の物について発しなければならないとされています。ただし、動産の仮差押命令は、目的物を特定しないで発することができるとされています(民事保全法第21条)。
| 対象 | 特徴 | 留意点 |
|---|---|---|
| 不動産 | 登記により公示され、確実性が高いものです | 先順位の担保権の有無を確認します |
| 預金債権 | 直ちに効果が生じます | 金融機関及び支店の特定を要します |
| 売掛債権 | 会社の事業に大きな影響を与えます | 第三債務者の特定を要します |
| 動産 | 目的物を特定せずに申し立てられます | 換価の見込みを検討します |
不動産に既に先順位の担保権が設定され、担保余力がない場合には、仮差押えを行っても実質的な意味を持ちません。登記事項証明書により事前に確認する必要があります。
担保
裁判所は、保全命令を発する場合には、担保を立てさせることができるとされています(民事保全法第14条第1項)。実務上、担保の提供が命じられるのが通例です。担保の額は、被保全債権の額、対象財産の価額、疎明の程度等を踏まえて裁判所が定めます。
担保は、原則として金銭を供託する方法によります。仮差押えを行うためには、この担保を用意する必要がありますので、資金の準備が前提となります。
仮差押解放金
仮差押命令においては、仮差押えの執行の停止を得るため、又は既にした仮差押えの執行の取消しを得るために債務者が供託すべき金銭の額を定めなければならないとされています(民事保全法第22条第1項)。会社がこの額を供託した場合には、仮差押えの執行は停止又は取消しとなります。
既に処分が行われた場合
資産の処分が既に行われている場合には、詐害行為取消請求を検討することになります。債権者は、債務者が債権者を害することを知ってした行為の取消しを裁判所に請求することができるとされています。ただし、その行為によって利益を受けた者がその行為の時において債権者を害することを知らなかったときは、この限りでないとされています(民法第424条第1項)。
| 要件 | 内容 | 根拠 |
|---|---|---|
| 被保全債権の存在 | 債権が詐害行為の前の原因に基づいて生じたこと | 民法第424条第3項 |
| 詐害行為 | 債務者が財産権を目的とする行為をしたこと | 民法第424条第1項、第2項 |
| 詐害の意思 | 債務者が債権者を害することを知っていたこと | 民法第424条第1項 |
| 受益者の悪意 | 受益者が債権者を害することを知っていたこと | 民法第424条第1項ただし書 |
詐害行為取消請求に係る訴えは、債務者が債権者を害することを知って行為をしたことを債権者が知った時から2年を経過したときは、提起することができないとされています。行為の時から10年を経過したときも、同様とされています(民法第426条)。期間の制限がありますので、処分の事実を知った時期を記録に残しておく必要があります。
会社分割及び事業譲渡による資産の移転
会社が新会社を設立して事業を移す、又は関係会社に事業を譲渡するという方法により、実質的に資産を移転する場合があります。この場合には、次の規定による対応を検討します。
| 類型 | 対応 | 根拠 |
|---|---|---|
| 事業譲渡 | 残存債権者は、譲受会社に対して、承継した財産の価額を限度として債務の履行を請求できる場合があります | 会社法第23条の2第1項 |
| 吸収分割 | 残存債権者は、承継会社に対して、承継した財産の価額を限度として債務の履行を請求できる場合があります | 会社法第759条第4項 |
| 新設分割 | 同様の規定が置かれています | 会社法第764条第4項 |
| 商号の続用 | 譲受会社が譲渡会社の商号を引き続き使用する場合には責任を負うことがあります | 会社法第22条第1項 |
これらの規定による請求には、いずれも期間の制限が定められていますので、組織再編又は事業譲渡の事実を把握した段階で速やかに検討する必要があります。
処分の兆候の把握
| 兆候 | 把握の方法 |
|---|---|
| 不動産の所有権の移転 | 不動産の登記事項証明書を定期的に取得します |
| 新たな担保権の設定 | 同上 |
| 新会社の設立 | 商業登記の調査、取引先からの情報 |
| 本店の移転 | 商業登記事項証明書 |
| 会社分割の登記 | 商業登記事項証明書 |
| 役員の大量の異動 | 商業登記事項証明書 |
| 従業員の退職 | 関係者からの情報 |
| 取引先の変更 | 取引先からの情報 |
登記による確認は、費用が低廉で、会社に知られることもありません。請求の交渉を続けている間も、定期的に確認を行うことが有益です。
保全を行うかの判断
| 判断事項 | 検討の視点 |
|---|---|
| 被保全債権の疎明の程度 | 決議、規程、支給実績のいずれによるか |
| 対象財産の有無及び価額 | 担保余力のある財産が存在するか |
| 担保の準備 | 供託すべき金銭を用意できるか |
| 会社に与える影響 | 交渉による解決の見込みが失われないか |
| 時間的な余裕 | 処分が差し迫っているか |
仮差押えは、会社に対して強い影響を与えます。交渉による解決を目指している段階で行えば、関係は決定的に悪化します。他方、行わなければ財産が失われるという状況であれば、躊躇すべきではありません。この判断は、事案の状況に応じて行うことになります。
案件で確認すべき事項
| 番号 | 確認事項 | 確認の方法 |
|---|---|---|
| 1 | 役員退職慰労金の請求権の根拠及び疎明の資料 | 株主総会議事録、支給規程、往復の書面 |
| 2 | 会社が所有する不動産の有無及び所在 | 不動産の登記事項証明書 |
| 3 | 不動産に対する担保権の設定の状況 | 不動産の登記事項証明書 |
| 4 | 既に処分された資産の有無及び時期 | 不動産の登記事項証明書、計算書類 |
| 5 | 処分の相手方及びその関係 | 登記の記載、関係者からの情報 |
| 6 | 会社分割又は事業譲渡の有無 | 商業登記事項証明書 |
| 7 | 新会社の設立の有無及び役員の構成 | 商業登記事項証明書 |
| 8 | 会社の預金口座及び主要な取引先 | 振込の記録、在任中の知識 |
| 9 | 担保として供託し得る資金の有無 | ご自身の資金の状況 |
| 10 | 処分の事実を知った時期 | 記録の整理 |
弁護士にご相談いただく意味
保全の手続は、要件の疎明、対象財産の選定、担保の準備、申立ての書面の作成という作業を、短期間で行う必要があります。処分が差し迫っている状況では、判断の遅れがそのまま回収の失敗につながります。
弁護士は、元役員の代理人として、資産の状況の調査、保全の必要性の検討、仮差押えの申立て、詐害行為取消請求の検討、会社分割及び事業譲渡がされた場合の承継会社等に対する請求の検討、訴訟の提起及び遂行、債務名義に基づく強制執行の手続を行います。資産の処分の兆候が見られる場合には、速やかにご相談ください。
よくあるご質問
質問1 会社が不動産を売ろうとしています。止められますか。
仮差押えの手続により、判決の前に財産を確保することを検討できます。要件の疎明及び担保の準備が必要となりますので、速やかにご相談ください。
質問2 仮差押えにはいくら必要ですか。
担保の額は、被保全債権の額、対象財産の価額、疎明の程度等を踏まえて裁判所が定めます。事案により異なりますので、個別に見通しを検討することになります。
質問3 既に売却されてしまいました。
詐害行為取消請求を検討する余地があります。期間の制限がありますので、処分の事実を知った時期を明らかにしたうえで速やかに検討する必要があります。
質問4 会社が新会社を作って事業を移しました。
会社分割又は事業譲渡の形式によっている場合には、承継会社又は譲受会社に対する請求を検討する余地があります。商業登記により経緯を確認することが前提となります。
質問5 交渉中ですが、保全をすると関係が壊れませんか。
会社に強い影響を与えますので、交渉による解決の見込みとの兼ね合いで判断することになります。他方、財産が失われる状況であれば、躊躇すべきではありません。
本記事における非開示事項について
保全を行うか交渉を続けるかの判断、対象財産の選定、申立ての時期の見極めは、株主構成、機関設計、財務状況、従前の経緯等により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開していません。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、役員退職慰労金の未払に関するご相談をお受けしています。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、この分野に精通していることから当該分野を取り扱っています。
- 電話番号 03-6435-8418
- ご相談は事前予約制です
ご相談に際しましては、登記事項証明書、会社が所有する不動産の登記事項証明書、株主総会議事録の写し、役員退職慰労金支給規程の写し、計算書類の写し、会社との往復の書面をお持ちください。お手元になくてもご相談をお受けしています。課税関係については税理士にご確認ください。
弁護士費用につきましては、弁護士費用一覧のページをご覧ください。
本記事の根拠条文
会社法 第22条第1項(譲受会社による商号の続用)、第23条の2第1項(詐害的な事業譲渡における残存債権者の保護)、第318条第4項(株主総会議事録の閲覧謄写)、第361条第1項(取締役の報酬等)、第442条第3項(計算書類等の閲覧等)、第759条第4項(詐害的な吸収分割における残存債権者の保護)、第764条第4項(詐害的な新設分割における残存債権者の保護)
民法 第147条第1項(裁判上の請求等による時効の完成猶予)、第150条第1項(催告による時効の完成猶予)、第166条第1項(債権等の消滅時効)、第424条第1項・第3項(詐害行為取消請求)、第426条(詐害行為取消請求に係る訴えの期間の制限)
民事保全法 第13条第1項・第2項(申立て及び疎明)、第14条第1項(担保)、第20条第1項(仮差押命令の必要性)、第21条(仮差押命令の対象)、第22条第1項(仮差押解放金)
民事執行法 第22条第5号(債務名義としての執行証書)
判例法理による部分 役員退職慰労金が会社法第361条第1項の報酬等に含まれることについては、判例法理によります。保全の必要性の有無及び詐害行為の該当性は、事実関係に照らし、個別の事案ごとに判断されます。
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