契約書に定めがある場合とない場合で請求はどう変わるか

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契約書の定めの有無による請求の違いに関するメインのページです。本ページは、役員退職慰労金の請求において定めを備える場合の履行の請求と、定めを欠く場合の合意の立証とを分けてご説明します。支給の時期の論点は別のページをご参照ください。
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契約書に定めがある場合とない場合で請求はどう変わるか
株式の譲渡に際して役員退職慰労金の支給が話し合われていた場合、その内容が契約書に記載されているかどうかにより、その後の請求の進め方は大きく異なります。契約書に記載があれば、請求の根拠は明確です。記載がない場合には、合意の存在自体を立証する作業から始めることになります。本記事では、支払を求める側の元役員及びそのご遺族に向けて、両者の違いを整理します。
結論 定めがあれば「履行の請求」、なければ「合意の立証」から始めます
| 状況 | 最初の作業 | 主たる争点 |
|---|---|---|
| 契約書に具体的な定めがある | 条項の文言に基づき履行を求めます | 履行の有無、損害の範囲 |
| 契約書に抽象的な記載がある | 条項の解釈を整理します | 条項の意味内容 |
| 契約書に記載がない | 合意の存在を立証する資料を集めます | 合意の成否 |
条項の類型ごとの請求の構成
| 条項の類型 | 記載の例示的な内容 | 請求の構成 |
|---|---|---|
| 金額を定める条項 | 役員退職慰労金として一定額を支給する旨 | 金額に争いが生じにくく、履行を求めやすいものです |
| 決議義務条項 | 買主は速やかに決議を行わせる旨 | 買主に対する債務の履行又は損害賠償を求めます |
| 算定方法を定める条項 | 支給規程に従って算定する旨 | 規程に当てはめた額を請求します |
| 努力条項 | 支給に向けて努力する旨 | 義務の内容が弱く、履行の請求が困難となります |
| 前提条件条項 | 支給を譲渡の実行の条件とする旨 | 実行前に支給を求めることができます |
| 価格調整条項 | 支給額を譲渡価格から控除する旨 | 価格の前提として支給がされるべきことを主張します |
注意を要するのは、努力条項です。「努力する」「協力する」といった文言にとどまる場合、義務の内容が明確でなく、履行を求めることが困難となります。契約の締結の段階では、金額及び時期を具体的に定めることが重要です。
定めがない場合の立証
契約書に記載がない場合、合意の存在を立証する作業が必要となります。契約は、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しないとされていますので(民法第522条第2項)、口頭の合意も効力を否定されるものではありません。
| 資料 | 示す内容 |
|---|---|
| 基本合意書及び意向表明書 | 初期の段階で支給が予定されていたこと |
| デューデリジェンスの資料 | 役員退職慰労金が負債として認識されていたこと |
| 価格の算定に関する資料 | 支給を前提として価格が定められていたこと |
| 交渉における往復の電子メール | 支給の金額及び時期に関するやり取り |
| M&A仲介会社が作成した資料 | 条件の整理に支給が含まれていたこと |
| 契約締結時の議事の記録 | 合意の内容の確認 |
| 譲渡実行後の会社の行動 | 支給に向けた検討が行われていたこと |
特に有力であるのが、価格の算定に関する資料です。役員退職慰労金の支給を前提として譲渡価格が定められていた場合、支給がされないことは価格の前提が崩れることを意味します。この点は、合意の存在を推認させる有力な事情となります。
完全合意条項がある場合
株式譲渡契約に、「本契約は当事者間の完全な合意を構成し、本契約締結前の合意に優先する」といった条項が置かれていることがあります。この条項がある場合、契約書に記載のない合意を主張することが困難となる場合があります。
| 検討の視点 | 内容 |
|---|---|
| 条項の範囲 | 本契約の目的に関する事項に限定されていないか |
| 当事者の範囲 | 退任役員が契約の当事者でない場合の効力 |
| 別途の合意 | 契約と別に覚書等が作成されていないか |
| 契約締結後の合意 | 締結後に新たな合意がされていないか |
| 条項の解釈 | 役員退職慰労金が本契約の対象に含まれるか |
退任役員が契約の当事者でない場合には、当該条項の効力が及ぶかについて検討の余地があります。また、契約の締結後に新たな合意がされている場合には、完全合意条項の対象外となります。
相手方の選び方
| 相手方 | 請求の根拠 | 適する場面 |
|---|---|---|
| 会社 | 株主総会の決議、支給規程、支給の慣行 | 決議がされている場合、規程がある場合 |
| 買主 | 株式譲渡契約上の義務 | 契約に定めがある場合 |
| 会社及び買主の双方 | それぞれの根拠によります | いずれの構成も成り立ち得る場合 |
| 旧代表者個人 | 個別の約束 | 個人として約束していた場合 |
会社と買主の双方に対して請求することも可能です。もっとも、請求の根拠が異なりますので、それぞれについて主張を組み立てる必要があります。
M&A仲介会社が関与している場合
M&A仲介会社が関与している事案では、M&A仲介会社が交渉の経緯を記録した資料を保有していることがあります。条件の整理表、面談の記録、価格の算定に関する資料などです。
これらの資料は、合意の存在を立証するうえで有力な材料となり得ます。M&A仲介会社に対して開示を求めるほか、訴訟において文書提出命令の申立てを行うこと(民事訴訟法第219条から第223条まで)、弁護士会を通じた照会を行うこと(弁護士法第23条の2)を検討します。
契約を締結する段階での備え
既に譲渡が実行されている場合には遡ることができませんが、今後、株式の譲渡を検討される方のために、契約の段階で定めておくべき事項を挙げます。
| 定めるべき事項 | 内容 |
|---|---|
| 支給額 | 具体的な金額を記載します |
| 支給の時期 | 譲渡の実行から何日以内かを明記します |
| 決議の実施 | 買主が決議を行わせる義務を明記します |
| 支給の相手方 | 譲渡人以外の役員を含む場合は氏名を記載します |
| 不履行の効果 | 違約金又は損害賠償の定めを置きます |
| 実行前の支給 | 可能であれば譲渡の実行前に支給を受けます |
最も確実であるのは、譲渡の実行の前に支給を受けることです。実行後は会社の支配が買主に移りますので、支給の実現が相手方の意向に左右されることになります。
消滅時効
債権は、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき、又は権利を行使することができる時から10年間行使しないときに、時効によって消滅します(民法第166条第1項)。契約に基づく請求と、会社に対する請求とでは、起算点の考え方が異なり得ますので、それぞれについて管理する必要があります。
案件で確認すべき事項
| 番号 | 確認事項 | 確認の方法 |
|---|---|---|
| 1 | 株式譲渡契約における役員退職慰労金に関する条項の有無及び文言 | 契約書 |
| 2 | 金額、時期、決議義務の定めの有無 | 契約書 |
| 3 | 完全合意条項の有無及び範囲 | 契約書 |
| 4 | 退任役員が契約の当事者であるか | 契約書 |
| 5 | 基本合意書等における記載 | 基本合意書、意向表明書 |
| 6 | 価格の算定における取扱い | 価格の算定に関する資料 |
| 7 | 交渉における往復の記録 | 電子メール、面談の記録 |
| 8 | M&A仲介会社の関与の有無及び保有資料 | M&A仲介会社との往復の書面 |
| 9 | 会社の役員退職慰労金支給規程の有無 | 規程の写し |
| 10 | 譲渡の実行からの経過期間 | 契約書、登記事項証明書 |
弁護士にご相談いただく意味
契約書の文言は、短い一文の違いによって請求の可否が変わります。「支給する」と「支給に向けて協議する」とでは、義務の内容がまったく異なります。また、完全合意条項の有無により、契約外の合意を主張できるかが左右されます。
弁護士は、元役員の代理人として、契約書の精査、条項の解釈に関する主張の組み立て、交渉の経緯を示す資料の収集、M&A仲介会社に対する開示の求め、会社及び買主に対する請求の組み立て、消滅時効の管理、訴訟その他の裁判所の手続の遂行を行います。
よくあるご質問
質問1 契約書に「協議する」としか書かれていません。
義務の内容が明確でないため、履行の請求は困難となります。交渉の経緯及び価格の算定に関する資料から、より具体的な合意があったと主張し得るかを検討します。
質問2 契約書に記載がなく、口頭の約束だけです。
基本合意書、価格の算定に関する資料、交渉の記録などから合意の存在を立証することを検討します。完全合意条項の有無も確認する必要があります。
質問3 完全合意条項があると請求できませんか。
条項の範囲及び当事者の範囲により結論が異なります。退任役員が契約の当事者でない場合や、締結後に新たな合意がある場合には、検討の余地があります。
質問4 M&A仲介会社の資料を見ることはできますか。
開示を求めるほか、訴訟において文書提出命令の申立てを行うこと、弁護士会を通じた照会を行うことが考えられます。
質問5 これから譲渡を検討しています。何に注意すべきですか。
支給額、時期、決議を行わせる義務、不履行の効果を具体的に定めることが重要です。可能であれば、譲渡の実行の前に支給を受けることをご検討ください。
本記事における非開示事項について
条項の解釈に関する主張の立て方、相手方及び請求の構成の選択、交渉の経緯を示す資料の提示の順序は、株主構成、機関設計、財務状況、従前の経緯等により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開していません。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、役員退職慰労金の未払に関するご相談をお受けしています。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、この分野に精通していることから当該分野を取り扱っています。
- 電話番号 03-6435-8418
- ご相談は事前予約制です
ご相談に際しましては、株式譲渡契約書の写し、基本合意書等の写し、価格の算定に関する資料、交渉の記録、登記事項証明書、役員退職慰労金支給規程の写しをお持ちください。お手元になくてもご相談をお受けしています。課税関係については税理士にご確認ください。
弁護士費用につきましては、弁護士費用一覧のページをご覧ください。
本記事の根拠条文
会社法 第318条第4項(株主総会議事録の閲覧謄写)、第361条第1項(取締役の報酬等)、第442条第3項(計算書類等の閲覧等)
民法 第147条第1項(裁判上の請求等による時効の完成猶予)、第150条第1項(催告による時効の完成猶予)、第166条第1項(債権等の消滅時効)、第415条第1項(債務不履行による損害賠償)、第522条第2項(契約の成立と方式)、第537条第1項・第3項(第三者のためにする契約)、第541条(催告による解除)
民事訴訟法 第219条から第223条まで(書証及び文書提出命令)、第247条(自由心証主義)
弁護士法 第23条の2(報告の請求)
判例法理による部分 役員退職慰労金が会社法第361条第1項の報酬等に含まれることについては、判例法理によります。条項の解釈及び完全合意条項の効力の範囲は、契約書の文言及び交渉の経緯に照らし、個別の事案ごとに判断されます。
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