先代が受け取るはずであった金銭は相続の対象となるのか

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先代が受け取るはずであった金銭の相続に関するメインのページです。本ページは、役員退職慰労金の請求において決議の有無により相続の対象となるかが変わる点をご説明します。受給権者の定めによる区別は別のページをご参照ください。
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先代が受け取るはずであった金銭は相続の対象となるのか
「父は会社を創業し、退任の際に役員退職慰労金を支給すると言われていました。しかし、受け取らないまま亡くなりました。子である私が請求できるのでしょうか」。このお尋ねをいただくことがあります。結論は、亡くなった時点で具体的な請求権が発生していたかにより異なります。本記事では、支払を求める側のご遺族に向けて、この点を整理します。
結論 決議の有無により、相続の対象となるかが変わり得ます
相続人は、相続開始の時から、被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継するとされています(民法第896条)。したがって、被相続人が生前に有していた債権は、相続人に承継されます。
問題は、役員退職慰労金の請求権がいつ発生するかです。取締役の報酬等は、定款にその額を定めていないときは、株主総会の決議によって定めなければならないとされており(会社法第361条第1項)、役員退職慰労金は同項の報酬等に含まれるものとして扱われています。この点は判例法理によります。
| 状況 | 相続の対象となるか |
|---|---|
| 生前に決議がされ、金額が確定していた | 具体的な請求権が発生しており、相続の対象となります |
| 生前に一任決議がされ、規程がある | 規程に当てはめた額の請求権を主張する余地があります |
| 生前に決議がされていない | 請求権の発生自体が争点となります |
| 在任中に死亡した | 死亡役員退職慰労金として支給の対象となるかを検討します |
決議がされていた場合
生前に株主総会の決議がされ、支給する旨及び金額が定められていた場合には、被相続人に具体的な請求権が発生していたことになります。この請求権は相続の対象となり、相続人が承継します。
この場合、相続人は、被相続人が有していた権利をそのまま行使することになります。会社に対しては、決議の存在を示して支払を求めます。株主総会議事録の閲覧謄写を請求することができます(会社法第318条第4項)。
決議がされていなかった場合
生前に決議がされていない場合には、被相続人に具体的な請求権が発生していたかが争点となります。会社は「決議がないため請求権は発生していない。したがって相続の対象となるものもない」と主張することが想定されます。
これに対しては、次の主張を検討することになります。
| 主張 | 内容 | 前提となる資料 |
|---|---|---|
| 一任決議に基づく主張 | 規程に従うことを前提とする一任決議がされている | 株主総会議事録、支給規程 |
| 支給の慣行に基づく主張 | 過去の支給実績から基準が確立している | 計算書類、過去の議事録 |
| 個別の合意に基づく主張 | 支給する旨の約束があった | 覚書、往復の書面、電子メール |
| 決議を求める主張 | 相続人が株主である場合、総会の招集を請求する | 株主名簿、議決権の割合 |
被相続人が非上場株式を保有していた場合、その非上場株式も相続の対象となります。相続人が株主となることにより、株主総会の招集の請求(会社法第297条)その他の株主としての権利を行使し得る立場となります。この点は、決議を求めるうえで有力な手段となります。
共同相続の場合の請求の方法
相続人が複数ある場合、金銭債権のような可分債権については、相続の開始と同時に法定相続分に応じて当然に分割されると解する考え方が採られています。この点は判例法理によります。
この考え方によれば、各相続人は、自らの相続分に相当する部分について、単独で会社に請求することができることになります。
| 進め方 | 内容 | 留意点 |
|---|---|---|
| 相続人全員で請求する | 連名で請求します | 会社が応じやすく、支払も円滑です |
| 各自が相続分に応じて請求する | 単独で自らの分を請求します | 相続人間に対立がある場合に用いられます |
| 代表者を定めて請求する | 一人に委任して請求します | 委任状の作成が必要となります |
会社が「相続人の間で話がまとまってから」と述べて支払を留保することがありますが、当然に分割されると解される場合には、各相続人の請求に応じない理由とはなりません。
相続放棄及び遺産分割との関係
| 事項 | 相続財産となる場合 |
|---|---|
| 相続放棄 | 放棄した者は請求できません(民法第939条) |
| 遺産分割 | 対象となり得ます |
| 遺言 | 遺言の対象となり得ます |
| 被相続人の債権者 | 相続財産として引当てとなり得ます |
他方、支給規程に受給権者の定めがあり、当該受給権者が固有の権利として取得すると解される場合には、相続財産とはならないという考え方が採られることがあります。この場合には、相続放棄をした者であっても請求し得る余地があります。規程の定めの確認が前提となります。
相続人の確定
会社に対して請求する際には、相続人であることを示す資料の提出を求められるのが通例です。
| 資料 | 内容 |
|---|---|
| 被相続人の戸籍(出生から死亡まで) | 相続人の範囲を確定します |
| 相続人の戸籍 | 相続人であることを示します |
| 被相続人の住民票の除票 | 同一人であることの確認に用いられます |
| 法定相続情報一覧図の写し | 戸籍の束に代えて用いることができます |
消滅時効
債権は、債権者が権利を行使することができることを知った時から5年間行使しないとき、又は権利を行使することができる時から10年間行使しないときに、時効によって消滅します(民法第166条第1項)。
先代の在任中から時間が経過している事案では、時効が問題となり得ます。もっとも、決議がされていない事案では、権利を行使することができる状態が到来していないと主張し得る余地があります。年数が経過している場合であっても、直ちに諦めるべきものではありません。
案件で確認すべき事項
| 番号 | 確認事項 | 確認の方法 |
|---|---|---|
| 1 | 先代の就任及び退任の年月日並びに役位 | 登記事項証明書 |
| 2 | 死亡の年月日及び退任との前後 | 戸籍、登記事項証明書 |
| 3 | 生前の株主総会の決議の有無 | 株主総会議事録 |
| 4 | 役員退職慰労金支給規程の有無及び受給権者の定め | 規程の写し |
| 5 | 支給の約束を示す書面の有無 | 覚書、往復の書面、電子メール |
| 6 | 相続人の範囲及び相続分 | 戸籍、法定相続情報一覧図 |
| 7 | 相続放棄をした相続人の有無 | 家庭裁判所への照会 |
| 8 | 被相続人が保有していた株式の有無 | 株主名簿、法人税申告書別表二 |
| 9 | 過去の他の役員に対する支給の実績 | 計算書類、社内の記録 |
| 10 | 退任又は死亡からの経過期間 | 登記事項証明書、戸籍 |
弁護士にご相談いただく意味
先代の事案では、当時の経緯を知る本人が既に亡くなっていますので、資料に基づく立証がより重要となります。また、会社の現在の経営者が親族である場合には、感情の対立が背景にあることが通例です。
弁護士は、ご遺族の代理人として、相続人の確定、決議及び規程の確認、請求の構成の選択、会社に対する請求及び資料の開示の求め、会社法上の各種の閲覧謄写の請求、相続人間の調整、消滅時効の管理及び完成猶予の措置、訴訟その他の裁判所の手続の遂行を行います。なお、相続税その他の課税関係については税理士に、相続登記の申請については司法書士に、それぞれご確認いただくことになります。
よくあるご質問
質問1 決議がないまま父が亡くなりました。請求できますか。
請求権の発生自体が争点となります。一任決議の有無、支給規程、過去の支給実績、個別の約束を示す資料を確認したうえで、請求の構成を検討することになります。
質問2 父の非上場株式も相続しました。何かできますか。
株主としての権利を行使し得る立場となりますので、株主総会の招集の請求(会社法第297条)その他の手段を検討できます。議決権の割合の確認が前提となります。
質問3 兄弟の一人が請求に反対しています。
可分債権として当然に分割されると解される場合には、各相続人が自らの相続分に相当する部分について単独で請求し得ます。
質問4 相続放棄をしました。請求できませんか。
相続財産となる場合には請求できません。支給規程に受給権者の定めがあり、固有の権利として取得すると解される場合には、別の検討を要します。
質問5 父の退任から10年以上が経っています。
時効が問題となり得ますが、決議がされていない事案では、起算点について主張の余地があります。経緯を整理したうえでご相談ください。
本記事における非開示事項について
請求の構成の選択、相続人間の調整の進め方、株主としての権利の行使の要否及び時期の判断は、株主構成、機関設計、財務状況、従前の経緯等により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開していません。
弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談
弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、役員退職慰労金の未払に関するご相談をお受けしています。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、この分野に精通していることから当該分野を取り扱っています。
- 電話番号 03-6435-8418
- ご相談は事前予約制です
ご相談に際しましては、被相続人及び相続人の戸籍、登記事項証明書、役員退職慰労金支給規程の写し、株主総会議事録の写し、支給の約束に関する書面、会社との往復の書面をお持ちください。お手元になくてもご相談をお受けしています。課税関係については税理士にご確認ください。
弁護士費用につきましては、弁護士費用一覧のページをご覧ください。
本記事の根拠条文
会社法 第297条第1項・第2項・第4項(株主による株主総会の招集の請求)、第318条第4項(株主総会議事録の閲覧謄写)、第361条第1項(取締役の報酬等)、第433条第1項(会計帳簿等の閲覧謄写の請求)、第442条第3項(計算書類等の閲覧等)
民法 第147条第1項(裁判上の請求等による時効の完成猶予)、第150条第1項(催告による時効の完成猶予)、第166条第1項(債権等の消滅時効)、第896条(相続の一般的効力)、第898条(共同相続の効力)、第900条(法定相続分)、第907条(遺産の分割の協議又は審判)、第939条(相続の放棄の効力)
判例法理による部分 役員退職慰労金が会社法第361条第1項の報酬等に含まれること、定款の定め又は株主総会の決議がない場合の請求の可否、一定の支給基準に従うことを前提とする一任決議の効力、及び金銭債権のような可分債権が相続の開始と同時に法定相続分に応じて当然に分割されると解されることについては、判例法理によります。
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