役員退職慰労金を請求する書面にはどこまで書くべきか

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請求の書面に記載する事項に関するメインのページです。本ページは、役員退職慰労金の請求において意思と求める事項を明確にしつつ主張の詳細を控える書き方をご説明します。支給規程を根拠とする組み立ては別のページをご参照ください。

▶ 役員退職慰労金支給規程を根拠として請求する場合の組み立て

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役員退職慰労金を請求する書面にはどこまで書くべきか

会社に対して役員退職慰労金を請求する最初の書面をどのように書くかは、その後の展開に影響します。書くべきことを落とせば効果が薄れ、書きすぎれば手の内を明かすことになります。本記事では、支払を求める側の元役員及びそのご遺族に向けて、書面の記載事項の考え方を整理します。

結論 「請求の意思」と「求める事項」を明確にし、主張の詳細は控えます

最初の書面の目的は、次の3点です。

目的 内容
第1 請求の意思を明確にし、催告としての効果を生じさせること
第2 会社の対応(支給の可否及びその理由)を引き出すこと
第3 資料の開示を求めること

この段階で法的な主張を詳細に述べる必要はありません。会社の反論を先取りして封じようとすると、かえって会社に準備の時間を与えることになります。

必ず記載すべき事項

事項 記載の内容 理由
差出人 氏名及び住所。代理人による場合はその旨 誰からの請求かを明確にします
宛先 会社の商号、本店の所在地、代表者の氏名 登記事項証明書により確認します
日付 作成の年月日 催告の時期を明らかにします
在任の事実 就任及び退任の年月日、役位 請求の前提を示します
請求の趣旨 役員退職慰労金の支払を求める旨 請求の意思を明確にします
金額 算定できる場合は金額。できない場合はその旨 後述のとおり配慮を要します
期限 支払又は回答を求める期限 会社の対応を促します
求める事項 決議の実施、支給規程の開示、支給しない場合の理由 会社の対応を引き出します

金額が確定していない場合の書き方

支給規程が手元になく、金額を算定できない場合があります。この場合、金額を記載せずに請求することが可能です。

状況 書き方
規程があり算定できる 算定した金額と算定の過程を記載します
規程がなく実績のみが分かる 相当額の支払を求める旨とし、実績の開示を求めます
資料が全くない 規程及び算定の根拠の開示を求めたうえで支払を求めます
決議がされていない 決議を行うことと、これに基づく支払とを併せて求めます

金額を確定できない段階で高額な数値を記載すると、後にこれを下げることになり、交渉上不利に働くことがあります。他方、低い金額を記載すると、その額が上限として扱われるおそれがあります。算定の根拠が固まるまでは、金額を明示しない選択も合理的です。

書きすぎることの弊害

書きすぎ 弊害
法的な主張の詳細 会社に反論の準備の時間を与えます
保有している資料の一覧 会社が資料の存在を前提に対応を組み立てます
今後採る手続の予告 会社が資産の移転等の対策を採るおそれがあります
感情的な記述 交渉が感情的な応酬となり、進行が滞ります
過去の経緯の詳細 争点が拡散します

特に注意を要するのが、手続の予告です。「応じない場合は仮差押えを行う」といった記載は、会社に資産を移す機会を与えることになりかねません。保全を検討している場合には、予告せずに準備を進めることが通例です。

送付の方法

方法 特徴 適する場面
配達証明付きの内容証明郵便 内容及び到達の日を証明できます 催告としての効果を確実にしたい場合
普通郵便 簡便ですが到達の証明ができません 関係を悪化させたくない初期の段階
電子メール 送信の記録が残ります 従前から電子メールでやり取りしている場合
手交 直接に渡します 受領の記録を残す工夫が必要です

時効が問題となり得る事案では、配達証明付きの内容証明郵便によることが必要です。催告は、その時から6か月を経過するまでの間、時効の完成を猶予します(民法第150条第1項)。この効果を主張するためには、到達の事実及び時期を立証できる必要があります。

時効との関係

催告によって時効の完成が猶予されている間にされた再度の催告は、猶予の効力を有しないとされています(民法第150条第2項)。したがって、催告を繰り返しても猶予を積み重ねることはできません。

時効の満了までに余裕がない場合には、催告により得られる6か月の間に、訴訟の提起その他の手続に進む判断を行う必要があります。書面を送る前に、時効期間の満了の見込みを把握しておくことが重要です。

書面を送る前の準備

準備 内容
登記事項証明書の取得 会社の商号、本店の所在地、代表者、自らの在任期間を確認します
手元の資料の整理 支給規程、議事録、報酬の記録、往復の書面を整理します
時効の見込みの把握 残された時間を明確にします
会社の財産の調査 登記により基礎的な情報を得ます
保全の要否の検討 資産の流出のおそれがある場合は先に検討します
目標の設定 金額、時期、解決の形を想定します

書面を送ることにより、会社は対応を始めます。したがって、送る前に、会社に知られずに行える調査を済ませておくことが有益です。

代理人による場合

弁護士が代理人として書面を送付する場合、会社に与える影響は大きくなります。会社としても、代理人を選任して対応することが多くなります。

効果 内容
会社の対応の変化 曖昧な応答を続けることが困難となります
理由の明示 支給しない場合の理由を示さざるを得なくなります
窓口の一本化 以後のやり取りが代理人間で行われます
感情の切離し 親族間の事案では有効に働くことがあります

遅延損害金の起算日及び利率

請求の書面には、元本のほか、遅延損害金を併せて記載します。起算日は、支払の期日の定めの有無により分かれます。

場面 遅延損害金の起算日 根拠
支払の期日が定められている場合 期日の翌日 民法第412条第1項
支払の期日が不確定である場合 期日の到来した後に履行の請求を受けた時、又は期日の到来を知った時のいずれか早い時の翌日 民法第412条第2項
支払の期日が定められていない場合 履行の請求を受けた時の翌日 民法第412条第3項

利率は年3%です(民法第404条第2項)。商事法定利率(年6%)は、令和2年4月1日に施行された民法の改正により廃止されました。同日より前に遅延損害金が生じている場合には、改正前の商法の規定による年6%が適用される余地がありますので、起算日が同日の前後のいずれであるかを確認します。

法定利率は3年ごとに見直されます(民法第404条第3項から第5項まで)。遅延損害金の利率は、遅滞の責任を負った最初の時点における法定利率によりますので(同条第1項)、起算日の属する期における利率を確認します。

書面には、「令和〇年〇月〇日から支払済みまで年3%の割合による遅延損害金」というように、起算日、利率及び終期を明示します。元本と遅延損害金とを区別して記載することにより、後の交渉及び訴訟における争点が整理されます。

案件で確認すべき事項

番号 確認事項 確認の方法
1 会社の商号、本店の所在地及び代表者 登記事項証明書
2 就任及び退任の年月日並びに役位 登記事項証明書
3 役員退職慰労金支給規程の有無 手元の写し
4 株主総会の決議の有無 株主総会議事録
5 退任時の月額報酬 源泉徴収票、報酬支払の記録
6 これまでの会社とのやり取りの内容 電子メール、書面、面談の記録
7 時効期間の満了の見込み 退任の時期及び決議の有無から算出します
8 会社の財産の状況 登記事項証明書、計算書類
9 資産の流出の兆候の有無 登記の調査
10 元役員が株主であるか 株主名簿、法人税申告書別表二

弁護士にご相談いただく意味

最初の書面は、その後の交渉の枠組みを定めます。記載した金額が上限として扱われる、予告により資産が移される、詳細な主張により会社が準備を整えるといった事態は、いずれも回復が難しいものです。

弁護士は、元役員の代理人として、送付前の調査、書面の作成及び送付、会社の応答の分析、資料の開示の求め、消滅時効の管理及び完成猶予の措置、保全の手続の検討、訴訟その他の裁判所の手続の遂行を行います。書面を送付される前にご相談いただくことをお勧めいたします。

よくあるご質問

質問1 金額が分からなくても請求できますか。

金額を明示せずに、支払及び算定の根拠の開示を求める形の書面とすることができます。算定の根拠が固まるまで金額を明示しない選択も合理的です。

質問2 内容証明郵便でなければなりませんか。

催告としての効果を確実にするためには、配達証明付きの内容証明郵便によることが望ましいといえます。時効が問題となり得る事案では特に重要です。

質問3 訴訟を起こすと予告してもよいですか。

保全の手続を検討している場合には、予告により資産が移されるおそれがあります。予告の要否は、事案の状況に応じて判断することになります。

質問4 自分で書いてもよいですか。

差し支えありませんが、記載した内容が後の交渉を拘束することがあります。特に金額の記載については慎重な検討をお勧めいたします。

質問5 会社が返事をしない場合はどうなりますか。

応答がないこと自体を後の主張において指摘できます。催告による猶予の期間内に、次の手続に進む判断を行うことになります。

まとめ

本記事の要点は次のとおりです。第1に、請求の書面には「請求の意思」と「求める事項」を明確に記載し、主張の詳細は控えます。第2に、必ず記載すべき事項は、請求の相手方、請求する金銭の内容、金額又は算定の根拠、支払の期限、及び回答を求める旨です。第3に、金額が確定していない場合には、算定の根拠となる資料の開示を求める形により記載します。

第4に、書きすぎることには弊害があります。会社に反論の材料を与え、後の主張の変更を困難にするためです。第5に、送付は配達証明付きの内容証明郵便によることが原則です。催告としての効力(民法第150条第1項)を確保するためです。第6に、遅延損害金については、起算日、利率及び終期を明示します。

本記事における非開示事項について

書面に記載する事項及び記載しない事項の選択、送付の時期の判断、会社の応答に応じた次の手段の選び方は、株主構成、機関設計、財務状況、従前の経緯等により異なり、当事務所が実務において蓄積してまいりました知見に属しますので、公開していません。

弁護士法人M&A総合法律事務所へのご相談

弁護士法人M&A総合法律事務所(代表弁護士 土屋勝裕)では、役員退職慰労金の未払に関するご相談をお受けしています。当事務所は、役員の側の代理人となる案件も、会社の側の代理人となる案件も取り扱っており、この分野に精通していることから当該分野を取り扱っています。

  • 電話番号 03-6435-8418
  • ご相談は事前予約制です

ご相談に際しましては、登記事項証明書、役員退職慰労金支給規程の写し、株主総会議事録の写し、源泉徴収票、これまでの会社との往復の書面をお持ちください。お手元になくてもご相談をお受けしています。課税関係については税理士にご確認ください。

弁護士費用につきましては、弁護士費用一覧のページをご覧ください。

本記事の根拠条文

会社法 第318条第4項(株主総会議事録の閲覧謄写)、第361条第1項(取締役の報酬等)、第442条第3項(計算書類等の閲覧等)、第915条第1項(変更の登記)

民法 第147条第1項(裁判上の請求等による時効の完成猶予)、第150条第1項・第2項(催告による時効の完成猶予)、第151条第1項(協議を行う旨の合意による時効の完成猶予)、第152条第1項(承認による時効の更新)、第166条第1項(債権等の消滅時効)

民事保全法 第20条第1項(仮差押命令の必要性)

判例法理による部分 役員退職慰労金が会社法第361条第1項の報酬等に含まれることについては、判例法理によります。書面の記載が後の主張に与える影響は、事案の経過により異なります。

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