役員退職慰労金不支給・不当不再任に伴い生ずる問題とは

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役員退職慰労金の不支給と不再任をめぐる問題に関するメインのページです。本ページは、役員退職慰労金の請求において決議、黙示の特約及び減額の可否という論点の全体を見渡します。個別の反論の方法は別のページをご参照ください。
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会社の取締役や監査役として在任してこられた方が、任期の満了に際して再任されず、退任を余儀なくされた上、役員退職慰労金についても支払を受けられないという事態に直面することがあります。経営者一族との関係が悪化した場面や、後継者問題が生じた場面では、この二つの問題が同時に降りかかってくることが少なくありません。
役員退職慰労金は、株主総会の決議がなければ具体的な請求権として発生しない仕組みになっているため、会社が再任を拒み、かつ株主総会の決議を行わないという対応を採った場合、退任した役員は、支払を受ける根拠を欠いたまま取り残されてしまう危険があります。
本記事では、役員退職慰労金の不支給及び取締役又は監査役の不当な不再任に伴ってどのような問題が生ずるのかを整理します。
会社の代表取締役・取締役や監査役へ支払うべき役員退職慰労金は、株主総会の決議により金額を決定するのが原則なので、株主総会の決議がなされなければ、役員退職慰労金は支給されません。しかし、使用人兼取締役の場合は、使用人分については株主総会の決議の有無に関わらず、役員退職慰労金を支給すべきこともあります。
役員退職慰労金の不当不支給、不当不再任の事例では、裁判が提起される等、大きなトラブルになることもあります。
そのため、M&Aの法務デューデリジェンスにおいて、代表取締役・取締役や監査役に対する役員退職慰労金の支給義務が存在していないかを検討することは非常に重要です。
役員退職慰労金は株主総会での決議により支給が決まる
会社法361条1項の規定により、代表取締役や取締役に対する報酬等については、定款で額を決めていない場合は、株主総会の普通決議で決めることになっています(監査役も同様)。
この報酬等は、月額の報酬の他、「賞与その他の職務執行の対価として株式会社から受ける財産上の利益」を意味するため、「役員退職慰労金」も含まれます(最判昭和39年12月11日 民集 第18巻10号2143頁)。
役員の報酬等について、定款又は株主総会の決議事項としたのは、取締役によるお手盛りの弊害を防止し、株主の利益を守ることが目的です。
役員退職慰労金について、定款に定めがある会社はあまりありません。
そのため、役員退職慰労金は、株主総会での決議がなければ、支給されないのが一般的です。
役員退職慰労金をもらう旨の黙示の特約があった場合
取締役が就任するにあたって、会社との間で役員退職慰労金をもらう旨の黙示の特約を結んでいた場合でも、それだけでは、退職時に役員退職慰労金を請求することはできません。
最高裁も、株式会社の取締役については定款又は株主総会の決議によって報酬の金額が定められなければ、「具体的な請求権」は発生せず、取締役が会社に対して報酬を請求することはできないとしています(最判平成15年2月21日 金判1180号29頁)。
そして、定款又は株主総会の決議なしで、取締役が報酬を受け取った場合は、不当利得となるため、会社へ返還しなければならないのが原則です(最判平成21年12月18日 民集 第232号803頁)。
もっとも、この判例は同時に、会社が取締役に対して不当利得返還請求をすることが信義則に反し、権利の濫用に当たる場合もある旨を示唆しています。
使用人兼務取締役の使用人分の役員退職慰労金
取締役は、会社の経営者であると同時に使用人つまり、従業員でもあるケースも少なくありません。
従業員が受け取る役員退職慰労金については、定款又は株主総会の決議は必要ありません。
一方、使用人兼務取締役が受け取る役員退職慰労金については、従業員にも共通に適用される役員退職慰労金支給規定において勤続年数と退職時の報酬日額を基礎にして算出されるものであったとしても、会社法361条1項の規定により、定款又は株主総会の決議によって金額を決めるものとされています(最判昭和56年5月11日 民集 第133号1頁)。
もっとも、これにも例外があります。
最高裁は、「使用人として受ける給与の体系が明確に確立されており、かつ、使用人として受ける給与がそれにより支給されている」なら、使用人分を除外したうえで、取締役として受け取る分についてのみ株主総会の決議によることができるとしています。このことは、会社法361条1項の脱法にも当たらないと解しています(最判昭和60年3月26日 民集 第144号247頁)。
つまり、使用人兼取締役に対する役員退職慰労金は、使用人分と取締役の分が明確に区分されているなら、使用人分については、定款又は株主総会の決議がなくても支払わなければならないということです。
いったん決まった役員退職慰労金を無報酬、減額することの可否
取締役の役員退職慰労金について、株主総会で具体的な金額が決定された場合は、その金額は会社と取締役の契約内容になります。
では、その後で、株主総会が金額について無報酬とする決議や減額する決議をした場合はどうでしょうか?
最高裁は、上記の契約が成立した以上は、契約当事者である会社と取締役の双方を拘束するため、取締役が同意しない限り、役員退職慰労金請求権を無報酬としたり減額することはできないとしています(最判平成4年12月18日 民集 第46巻9号3006頁、最判平成22年3月16日 民集 第233号217頁)。
取締役の職務内容に著しい変更があった場合、社会経済情勢等が変化した場合、将来退任する取締役との間に不公平が生じるおそれがある場合でも同様です。
M&Aにおける役員退職慰労金不支給のリスクとは?
M&Aでは、相手方の会社の代表取締役・取締役や監査役を退任させる場合に、役員退職慰労金を支払う必要があるのかどうかが問題となります。
定款の定め又は株主総会の決議があった場合は、支払う必要がありますが、そうでなければ、代表取締役・取締役や監査役の役員退職慰労金などは無視してかまわないという考え方が蔓延しているようです。
ただ、代表取締役・取締役や監査役といっても、必ずしも、会社経営者というわけではなく、ほとんど従業員と同じであり、ほとんど労働基準法を適用すべき代表取締役・取締役や監査役も存在しますし、役員退職慰労金を支給しないことが合理的とは言えない代表取締役・取締役や監査役も存在します。
役員退職慰労金の不当不支給については支払命令が出る場合もある
こういう事情を考慮して、近時では、代表取締役・取締役や監査役が役員退職慰労金の支給を求めて会社を訴える事例も増加しており、そのような事例で実際に、会社に対して、代表取締役・取締役や監査役への役員退職慰労金の支給を命じる判決も出てきています。
従業員への退職金の不当不支給では、会社が敗訴する可能性が高いです。
そのため、代表取締役・取締役や監査役であっても、雇われ社長など、従業員と大きく取り扱いを変えることはおかしいのではないかという考えが発生することは自然と言えます。
また、不祥事や懲戒事由に基づき辞任した代表取締役・取締役や監査役について、役員退職慰労金の支給を実施しないことは、必ずしも正当と言えない場合もあり、このような代表取締役・取締役や監査役から会社に対して、役員退職慰労金の支給を請求し、裁判所から役員退職慰労金の支給を命じられるケースも存在します。
更に、会社の内規により、役員退職慰労金の支給を前提とする議案が株主総会に速やかに提出されて可決されるものだと、退任取締役が強い期待を抱いていた場合に、役員退職慰労金を不支給とする議案を提出して可決させた取締役会の措置につき、退任取締役の期待を裏切り、人格的利益を侵害した違法なものであるとして、退任取締役に対する不法行為に当たると判断した判例もあります(大阪高判平成19年3月30日)。
こうしたことから、M&Aの法務デューデリジェンスにおいて、代表取締役・取締役や監査役に対する役員退職慰労金の支給義務が存在していないかを検討することは非常に重要になっています。
役員の不当不再任についても訴えられるケースが増えている
また、代表取締役・取締役や監査役についても、任期満了で再任しなかった場合、それを不当だとして、代表取締役・取締役や監査役が裁判所に訴えを提起することも多くなっています。
従業員の不当解雇は会社が敗訴する可能性が高いです。
そのため、代表取締役・取締役や監査役であっても、雇われ社長など、従業員と大きく取り扱いを変えることはおかしいのではないかという考えが発生することは自然と言えます。
従業員の場合、不当解雇の場合は、解雇無効になりますし、解雇無効となり職場復帰するまでの給与もさかのぼって支給しなければいけません(バックペイ)。
代表取締役・取締役や監査役が解任された場合も、会社法339条2項により、「その解任について正当な理由がある場合を除き、株式会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができる。」とされています。
そして、この損害賠償額は、残存任期分の役員報酬額はもちろん、任期満了時に支払われていたであろう退職一時金に相当する額も含むと解されています(東京地判平成29年1月26日)。
代表取締役・取締役や監査役の不当不再任でなく、辞任であったとしても、必ずしも、自由意思による辞任でない場合については、同じ問題が発生します。
こうした点においても、M&Aの法務デューデリジェンスでは、代表取締役・取締役や監査役に対する不当不再任となっていないか、不当不再任であり、代表取締役・取締役や監査役を遡って再任する必要がないか、遡って役員報酬を支給する必要がないか、を検討することが重要になっています。
不再任、任期の短縮及び解任は、それぞれ別の問題です
一 任期の満了による不再任
取締役は、任期の満了により当然に退任いたします。株主総会において再任されなかったこと自体は、株主の判断ですので、原則として損害賠償の問題は生じません。もっとも、実質的には解任に等しいと評価される事情がある場合には、後記三の損害賠償が問題となる余地があります。
二 任期を短縮する定款の変更による退任
定款を変更して取締役の任期を短縮し、その効力の発生により任期の満了前に退任させるという方法が採られることがあります。裁判例の中には、このような方法により実質的に解任と同様の結果を生じさせた事案について、会社法第339条第2項の類推適用を認めたものがあります。形式上は任期の満了による退任であっても、経緯によっては損害賠償を求め得る場合がありますので、定款の変更の議案が提出された経緯をご確認ください。
三 解任と損害賠償
役員は、いつでも、株主総会の決議によって解任することができます(会社法第339条第1項)。もっとも、解任について正当な理由がない場合には、解任された役員は、会社に対し、解任によって生じた損害の賠償を請求することができます(同条第2項)。
賠償の範囲は、解任がなければ残存する任期中及び任期の満了時に得られたであろう利益、すなわち残任期間の役員報酬相当額が中心となります。役員退職慰労金につきましては、支給の基準が定められ、支給されることが確実であったといえる場合には、これに含まれると解される余地があります。他方、慰謝料及び弁護士費用は、原則として認められません。
「正当な理由」につきましては、職務の執行における法令又は定款の違反、著しく不当な職務の執行、心身の故障、経営上の失敗等が問題となりますが、経営方針の相違や支配権をめぐる対立は、これに当たらないと判断されることが多くあります。
四 役員退職慰労金の請求と損害賠償の請求とは、請求の根拠が異なります
役員退職慰労金の請求は、株主総会の決議又は支給の合意に基づく契約上の請求です。これに対し、会社法第339条第2項の請求は、解任に正当な理由がないことを理由とする法定の損害賠償請求です。要件も証拠も異なりますので、いずれの請求を、いかなる順序で行うかを整理したうえで進める必要があります。両者を併せて請求することも可能です。
五 消滅時効
いずれの請求権も、民法第166条第1項により、権利を行使することができることを知った時から5年間、又は権利を行使することができる時から10年間の経過により、消滅時効が完成いたします。
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